p8074825-500x37510年ほど前、私はあるIT企業のクライアントに通っていた。目的は「品質マネジメントシステム」を社内につくり上げるということだった。

すなわち、彼らの主要なプロダクトであるソフトウェアに関する品質目標を作りあげ、その品質目標の達成をすべく、営業、製造、購買、品質管理、CSなどの業務を標準化し、見直すといった仕事だ。

そして、最後には国際標準化機構(ISO)の認定する審査機関がその会社のマネジメントシステムの審査を行い、認定を発行する。その認定を受けるためのサポートまでが私の仕事だった。

 

私は働き始めて数年であり、本来であればもっと経験豊富な人間が当たるべきだったのかもしれないが、当時、IT業に詳しい人間は殆ど社内におらず、学生時代からずっとプログラミングを行っていた私に白羽の矢が立ったのだと認識していた。

それまでにも品質マネジメントシステムについて同様の仕事を行ってきたが、いわゆる「大手」と言われるIT業の仕事は初めてだったので、個人的にはその仕事を楽しみにしていた。業務内容は大体想像がつくし、「品質」と呼ばれるものも自分なりの見解があったからだ。

 

しかし、現場に赴き、成果物を見、各部署のヒアリングを行うと、私の「IT業に対するイメージ」は大きく変わった。

 

例えばその会社は金融の情報系システムや大手製造業の基幹システムを担っていたのだが、そのプログラムコードを見ると、それは非常にシンプルなもので、悪く言えば「だれでも作れる」、良く言えば「非常に読みやすい」コードだった。

私はそのコードを見て、現場の人に聞いた。

「こんなにシンプルなプログラムでいいんですか?もっと、複雑なことをしているのかとおもっていました」

現場の人は言った。

「うちはコードの規約がガチガチに決めてあって、「だれでも読める、なおせる」ようなコードでなければ作ってはいけない、と言われています。」

それを聞いて、私は思わず失礼なことを言ってしまった。「でも、それじゃ技術力は一向に上がりませんよね」

現場の人は寛容にも丁寧に応えてくれた。「安達さん、技術力って、なんですかね?」

私は戸惑った。確かに、技術力とはなんだろう、難解なプログラムを作れることが技術力ではない、と彼は言っているようだ。

彼はもうひとつ私に聞いた。「スーパープログラマー、ってうちの会社に必要だと思いますか?」

私は彼に、「スーパープログラマーはいらないっていうことですよね。」と言った。

彼は頷いて、「もちろんです」と述べる。「でも、ウチのコードの品質は非常に高いですよ、何せ改修するのも、作るのもカンタンですから。」

 

その時、私は彼が何を言おうとしてるのかが少しわかった気がした。

彼は続ける。

「つまり、「品質」というものの定義が、私の考えているものと、安達さんが考えているものが異なるということです。そして、その品質を確実に実現するのが「技術力」という言葉であらわされます。」

 

私はそれまで訪れた会社では、「品質」という言葉は、「顧客が満足する」という尺度で測られていた。したがって、ほとんど自明であったのだ。

しかし、この会社では異なる尺度が用いられていた。正確に言えば、大きな「品質」という言葉であらわされるものの一部が、「顧客が満足する」ということであった。

 

この経験から、会社においてある言葉、たとえば「品質」であったり、「営業」であったり、そういう言葉の意味は自明ではなく、会社単位で正確な定義を知らなければ仕事にならないということを知った。いや、むしろそのような言葉の定義を定めるところから仕事が始まると言っても良いかもしれない。

 

残念ながら、今はもうこの会社は無くなってしまった。が、あの現場の方の教えてくれたことは、非常にその後の仕事に役立った。

 

【生成AI関連ウェビナーのお知らせ】
単なる理論ではなく、現場で成果を出す生成AI活用の“実装方法”を知りたい方に最適なウェビナーです。
本セミナーでは、製薬・バイオ企業でのPoC(概念検証)から得られた実データとノウハウを元に、「どこにAIが効くのか」「どこが難しいのか」を明確に解説します。

製薬・バイオ企業の生成AI導入セミナー

お申し込み・詳細はこちら


【開催概要】
・開催日:2026年2月12日(木)
・時間:12:00〜13:00
・形式:オンライン(Zoom/ログイン不要)
・参加費:無料(定員150名)

製薬・バイオ企業の生成AI導入は、「試行」から「実利」を問うフェーズへと移行しています。
本セミナーでは、13チームのPoCで時間を50〜80%削減したノウハウを余すことなく共有します。適用可否の見極め、評価設計、失敗領域への対応方法、全社展開のガバナンス設計まで、実践的な内容です。:contentReference[oaicite:1]{index=1}

【対象者】
・製薬・バイオ・化学業界のDX/業務改革担当者
・AI導入プロジェクト責任者・企画部門・法務・人事などの全社展開担当者
・PoC設計や効果測定の「型」を学びたい方
・自社の生成AI活用を確実な成果につなげたい実務担当者

【セミナーの内容】
・生成AIの“適用可否”を短期間で見切る方法(PoC設計・評価の型)
・現場で成果を出すAI活用ノウハウ(バックキャスティング/プロンプト構造化 等)
・適用が難しい領域(PowerPoint・OCR 等)の整理と次の打ち手への転換
・横展開に向けたガバナンス設計とナレッジ共有

【登壇者】
奥田 真輔 氏
システム開発やITコンサルティングを経て、
外資系製薬企業で15年以上のITビジネスパートナーとして人事からコマーシャル、 メディカルなど製薬企業の様々な分野のプロジェクトに携わる。
現在はネクセラファーマ株式会社で、システムだけではなく、企業風土改革や業務改善をリードし、
日本発グローバルバイオ製薬企業にむけて、同社の成長基盤の構築に尽力している。

岡田 雄太(ワークワンダース株式会社 CTO)
野村総合研究所に新卒入社後、証券総合バックオフィスシステムやオンライントレードシステムなどの開発に従事。
その後、8 Securities(現SoFi Hong Kong)へ出向し、日本人唯一のエンジニアとして国際的なプロジェクトに携わる。
BOOSTRYでは信託銀行向けSaaSの立ち上げと成長を牽引。
WiseVineではCTOとして開発組織を30名規模に拡大し、プロダクト開発を推進。
2025年4月よりワークワンダース株式会社CTOに就任。AI活用を中心とした開発支援をリードする。


【お申込み・詳細】
こちらのウェビナー申込ページをご覧ください。

(2026/01/19更新)