「バカにつける薬は無いというけれど、バカにはかける言葉も無いな」

そう思って、昔の知り合いからの引用リツイートには無視を決め込むことにした。

 

バカには言葉も理屈も通じないのだ。それがインチキビジネスの観察を7年続けて得た結論である。

 

向こうは私からの反応を期待して、一大決心で話かけてきたのだろうと思うと少し悪い気がしたが、やはり言葉が通じない相手との会話は不毛であり、互いに時間の無駄でしかないので避けるのが賢明だろう。私も諦観したものだ。

その知り合いは自称ハンドメイド作家だが、いわゆるキラキラ起業女子の一人だ。

 

引用リツイートの内容は、おおむね以下の通り。

「これ知ってるw あの時、私もゆきさんにディスられてめっちゃムカついたけど、おかげで奮起できて、結果ハンドメイドで食べれてる。今では感謝していますw」

 

私が先月、B&Aに寄せた記事「キラキラ起業に取り組む主婦たちは、競うように子供ネタをブログやSNSに投稿していた」をについてのコメントだが、はて?

 

私にディスられたと言うが、私は彼女個人を取り上げて批判したことはない。

わざわざそんなことをするほど、彼女は目立つ人物ではなかったのだから。

 

もしかすると、キラキラ起業に大金を溶かすカモ代表として、個人名を伏せて例に出したことはあったかもしれないが、覚えていない。

印象に残っていなくて申し訳ないとは思うけれど、元々その程度の存在感しかない人だ。

恐らく私に、「この世界で食えるようになった!」と報告することで、一矢報いたつもりでいるのだろう。それなら勝手にそう思っていれば良い。

 

キラキラ起業というインチキ商法で多少のお金が入るようになったからと言って、ちっとも自慢にならないと思うけれど。

私はこれまで、折に触れてキラキラ起業を叩いてきた。それがインチキだからである。

なぜキラキラ起業がインチキなのか、せっかくなのでその知人を例に改めて解説するとしよう。

 

その知人は、「◯◯の女子校」というキラキラ起業女子グループに所属して活動している。

その団体には「キラキラ起業で成り上がり」を夢見る多くの女性たちが所属しており、それなりの規模がある。

「それなりの規模がある」ことが重要なポイントだ。人数が多いため、彼女たちが販売している商品に価値がなくても、セミナーやコンサルに中身がなくても、その経済圏の中では商売が成り立つのである。

 

商売が成り立つと言っても、お互いにお互いの商品やサービスを購入しあって、仲間内でぐるぐるお金を回しあっているだけだ。

自分の未完成な商品を購入してもらうお礼に、相手の未熟なサービスを購入するという「お付き合い」で成り立つ経済の為、彼女たちの財布にお金が居着くことはない。

 

現金が入っては出ていく状態を、彼女たちは「経済を回す」とか、「お金を循環させる」と呼んでいる。

お金を循環させながら、手元に価値ある物や知識、教養が残っていけばいいのだけれど、残念ながらそうはならない。

彼女たちが互いに購入し合うのが、職人としての技術が足りない商品や、専門家としての知識と技能が伴わないサービスばかりだからである。

 

素人さんによる素人さんのためのファッションコンサルやメイクレッスン、雰囲気で教える写真の撮り方講座、普通の人がテンプレで書くブログの代行サービス、なんちゃって占い鑑定、なんとなくブレンドのアロマグッズ、「◯◯さんから購入しました!めっちゃ可愛い〜♡♡♡」とSNSに投稿した直後にゴミ箱行きのアクセサリー。

 

似た物同士の集まりなのだから、お互いにクレームは言いっこなし。商品の品質やサービスの内容がひどいのはお互い様だ。

自分に実力と実績が無いものだから、同じように実力と実績のない相手から物やサービスを購入し、SNSやブログで賞賛しあって、実態とはかけ離れた評価を捏造する。

 

本当は本人たちも分かっているはず。

自分達がイケテナイ人間の集まりだってこと。個人で戦う才覚がないから、集団になって「イケてる風」を装うしかないんだってことを。

 

彼女たちが「普通にやっていたら全然売れない」理由の9割が、単に技術力の低さや専門性の欠如によるものだ。

売り方や見せ方の問題ではなく、もちろんマインドの持ち方なんて無関係。単純に、販売していいレベルの仕事ができていないだけ。

だからイケてる風を装うことに必死になるよりも、お金や時間は専門技術や専門知識の習得にかけるべきなのだけど、彼女たちは地味で地道な努力を嫌う。

 

「ハンドメイドで食べれてる」と、件の知人は胸を張っているけれど、彼女はハンドメイド作家として評価を得た訳ではない。

作品や制作過程を見れば、彼女が作家として評価されることなどあり得ないのは一目で分かる。

専門的に工芸を学んだことのない彼女の作品は、制作に高い技術を必要とせず、個性もない。デザインは他所からパクっても自分がパクられてもOKというスタンスで、作品の作り方はYouTubeで勉強したそうだ。

 

そのレベルの作家である彼女が、本人曰く「食べれている」程度に稼げているのは、セミナーの主催やコンサル業にも力を入れているからだ。キラキラ起業家に典型的なビジネススタイルである。

 

言うまでもないことだが、本物の売れてるハンドメイド作家は作品制作と顧客対応に忙しく、セミナー主催やコンサルなどしている暇はない。ブログやSNSでの発信に力を入れずとも作品が売れていくため、ブログを書かない人も多い。

知人は決してハンドメイド作家活動1本で「食べれている」訳ではなく、実際それで食べている訳でもない。

 

知り合った頃の彼女は、夫に食べさせてもらいながら自分の貯金をキラキラ起業活動につぎ込んでいた。その頃に比べたら、現在はある程度の稼ぎが得られるようになったということだろう。

ただし、これまでに費やしたお茶会やランチ会への参加費、各種セミナーとコンサルの受講料など、投資(浪費)してきた金額を全額回収した上で十分な利益を出せているのかは怪しいものだ。

 

それでも、今の彼女は自分の成果に満足しているように見える。

独身時代の貯金を溶かし、結婚してからは生活費を注ぎ込んでセミナージプシーを続け、販売する商品やサービスも散々迷走した後で、ようやく稼いでいけるスタイルが確立されたのだろう。

 

つまり彼女は、「奮起して」「懸命に努力した結果」、キラキラ起業女子サークルの中でカモられる側からサギる側に回れたということだ。

明らかに努力の方向性を間違えているが、キラキラ起業女子の集団の中にいれば、「赤信号、みんなで渡れば怖くない」の精神で、自分たちのしていることが詐欺まがいのインチキだとは自覚しないのだろう。

 

初めは「なんだか怪しい」「コレジャナイ感…」と違和感を感じていても、そこに飛び込んでしまった以上は自分を正当化したくなる。

心の中に生じる葛藤や疑念は見ないふりをして、「みんなやっていることだから」と自分を誤魔化し続けるうちに、やがて感覚が麻痺してインチキな商売が板についていく。

 

キラキラ起業と呼ばれる商法の仕組み自体は、実にシンプルだ。

自分を飾り立て、仕事の実績や日常を粉飾し、充実ぶりをアピールしてキラキラしている風を装う。同類のキラキラ女子とお茶会だランチ会だと頻繁に集い、社交に勤しんでは、その様子をSNSで発信する。

そして見た目の華やかさや賑やかさに引っかかって集まってきたカモたちに、価値と価格が見合わない商品やサービスを売りつけるのである。

 

そうしたイメージ戦略が悪いとは言わないが、所属する女性たちの実態と、そこで販売されるセミナーやコンサルの中身は、集まってくる大半の女性たちの期待を大きく裏切るものだ。

だから、「誠実に仕事をしたい」と考える真っ当な女性たちは、そもそもキラキラ起業に近づかないか、うっかり関わってもすぐに離れていく。シンプルな仕組みゆえに、大抵の者はその実態とカラクリにすぐ気がつくのだ。

 

もし本気で気づけない者が居るとしたら、その女性には考える頭がなさ過ぎるし、気づかないふりをして活動を続けているのだとしたら、その人には良心がない。

つまりキラキラ起業女子の集団の中に居る者は、バカか詐欺師のどちらかだ。通常バカは搾取される側であり、詐欺師は搾取する側に回る。

 

◯◯の女子校とはよく言ったものである。まるで女子中高生の社会のように、そこにはスクールカーストが存在し、ヒエラルキー上位の者が下位の者を食い物にするのだから。

 

かつての知人がキラキラ起業界でカーストの移動を果たし、稼げるようになったのなら結構なことだ。礼には及ばない。

一般社会の中で起業家として認められることがなくても、物作りのプロとして評価されることがなくても、キラキラ起業家サークルの内でなら、今後も「人とのつながり」でビジネスをしていくことができるだろう。

 

ただ、一つだけ懸念がある。キラキラ起業というおままごとが成立するには、世の中が平和で安定していることが大前提だ。

工芸品としての価値を持たないアクセサリーが売れるのも、お茶会に主婦が集まるのも、中身のないセミナーやコンサルが売れるのも、庶民の財布に余裕があってこそである。

 

キラキラ起業も一つのビジネスの在り方だということは認めるが、カモ側からサギ側に回って稼げるようになるまでにかかる時間、費用、労力のコストを考えるとコスパが悪い。

様々な要因で社会が不安定化し、庶民の可処分所得が目減りしていく中では、今後キラキラ起業サークルは新規のカモを獲得しにくくなっていくだろう。

 

知人もジリ貧になる前に、キラキラ起業で稼いだお金で、ちゃんと自分に投資をしてはどうだろうか。

必要とあれば学校に通い、体系的な教育を受け、専門知識と技能を身につけるのだ。

 

先に言ったように、ハンドメイド作家として普通にやっていたら売れない理由の9割は、単に技術力不足によるものだ。

そこを克服して本物の物作りのプロになれば、もうキラキラ起業家などとは呼ばれないだろう。私もきっと彼女を見直すし、その時には返事をしよう。

 

5年以上の歳月をかけて女子校の中でカースト移動を果たし、底辺のカモから中位のサギにまで登った粘り強さとガッツがあれば、真っ当な努力をして結果が出せるはずである。ぜひ頑張ってもらいたい。

 

 

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(2024/3/26更新)

 

 

 

【著者プロフィール】

マダムユキ

最高月間PV40万のブログ「Flat 9 〜マダムユキの部屋」管理人。

Twitter:@CrimsonSepia

Photo by Melinda & Cristiano