93%→44%
47%→67.4%

さて、これはなんの数字だろう。

 

さっそく種を明かすと、これはドイツの人の「食品を買う基準」の統計結果だ。

ロシアによるウクライナ侵攻前の2月末~3月頭にかけてのアンケートでは、食品を買う基準は「味」と答えた人は93%、「価格」と答えた人は47%。

 

しかし4か月後、7月のようすを見てみると、「価格」が67.4%で「味」が44%と、価値観は大きく変化した。

ドイツで食品価格が高騰、消費者は味よりも価格を重視(ドイツ、ウクライナ、ロシア) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース – ジェトロ (jetro.go.jp)

元ソース→https://www.bve-online.de/presse/pressemitteilungen/pm-180722-lebensmittelpreise-deutsche-sorgen-sich-und-achten-mehr-auf-preis-als-auf-geschmack

 

いやもう、なにもかもが高くなっちゃってさ……。

いつもと同じスーパーでいつもと同じものを買っても、10ユーロくらい以前より高くて。

それに追い打ちをかけるように、今年の冬は、電気代が2倍だのガス代が3倍だのに高騰するらしい。

いったいわたしたちの生活はどうなってしまうのか……。

 

人生で初めて「生活を切り詰めなきゃいけない」という状況に直面した結果、ひとつ思ったことがある。

それは、「今後は共感されるビジネスモデルが大事!」とか「物語が生まれる場所に人が集まる!」とか、そういうのって全部、「余裕のある人たちの主張だったんだな」ということだ。

 

「なりたい自分」を手に入れるためにナイキのスニーカーを買う?

この前本を読んでいて、ちょっと……いや、かなり驚いた部分を紹介したい。

「アップル」創業者のスティーブ・ジョブズは、ナイキを例にあげて、機能面だけを見ればコモディティ化(汎用品化、陳腐化)せざるをえないスニーカーに対して、みんなが喜んでお金を払うのは、ナイキという会社が、人間がみんなアスリートのように鍛えられた肉体を手に入れたら世界は変わるということを本気で信じていて、それを口にしているからだといっています。

そのビジョンに共感した人たちが「なりたい自分」を手に入れるためにお金を払っているのです。それがブランドであって、アップルも同じです。

出典:『ネットビジネス進化論』

 

そうなの!?

ナイキのスニーカーを買ってる人って、ナイキの企業理念に賛同して、それを本気で信じてるからなの!?

 

……正直、「そんなわけねーよ」って思う。

この本の筆者本人やまわりの方はきっと、どの企業がどういう思いで、いまなにをやっているかをちゃんと把握している、「意識が高い消費者」なのだろう。

だから、企業のストーリーに共感する・しない、という判断基準が生まれる。

でもたいていの一般人は、企業の理念になんて、これっぽっちも興味がない(と思う)。

 

もちろん、「ナイキ」というブランドを愛してやまない人がいるのは承知しているし、特定ブランドが好きな気持ちはわかる。

とはいえ実際、そういう「ブランドへの共感」より、単純に「有名だから品質がよさそう」「履き心地がいい」といった理由で選んでいる人のほうが多いんじゃないだろうか。

 

わたしはもう何年も、ユニクロのリラコ(ステテコ)を愛用しているが、ユニクロの企業理念なんて知らないし、興味もない。

単純に、値段の割に丈夫で動きやすく、パジャマにも散歩にも使えて便利だから着ているだけだ。ユニクロを特別贔屓にしているわけでもなければ、応援したいわけでもない。

 

そう、多くの消費者は、「ストーリー」なんか、正直そこまで意識していない。

それよりももっと大事なものは、コスパだ。

 

満足する感情消費と得する利益消費はまったくの別物

そもそも消費には、2つのパターンがある。

ひとつは「感情消費」で、もうひとつは「利益消費」だ(いまわたしが名づけた)。

 

感情消費とは、自分を「満足」させるためにカネを払うこと。

代表的なのは娯楽で、たとえ魚がまったく釣れなくても、「楽しい」からカネを払って釣りに行く。映画を見たところで自分が得をするわけではないが、「泣ける」らしいから見に行く。

VTuberのよくわからんクラファンプロジェクトを支援したり、ホストクラブで売れないホストにシャンパンを入れたり、性能的には絶対に必要ないけど有名ブランド店で100万の時計を買ったり。

 

感情消費で売り買いされるのは、「満足する」という感情だ。

だから、感情に訴えかけるため、「ストーリー」が重視される。

「デブだったわたしがこんなにキレイになった」「落ちこぼれの俺が東大に受かった」「うつ病から年収1億の社長に」のように、感情に訴えてカネを集めるビジネスモデルが流行るのは、それに共感した人がカネを落とすからだ。

 

インターネットが普及し、品質のいいモノが溢れる現在、この感情消費は大きなビジネス市場になっている。

その一方で、利益消費とはその名のとおり、自分の利益になるものを買うことだ。

たとえば、調理時間を短縮できる圧力鍋、仕事に役立つパソコングッズ、ふかふかで保温性が高い毛布などなど。

 

こういう「便利なもの」を買うとき、その背後のストーリーにはたいした付加価値がない。

仕事に使うペンを買うとき、メーカーの思いなんてだれも気にしないもんね。

書きやすくて、そのわりに値段が安ければ、それでオッケー。

「利益消費」で大事なのは、共感ではなく「利便性」、そして「コスパ」。

 

ナイキのスニーカーで例を挙げるなら、履く予定がない高級スニーカーを買って眺めたり、限定モデルを即日購入して満足するのが感情消費。

毎日のランニングで使うため消耗品として買ったり、値段の割に丈夫だからという理由で買ったりするのが、利益消費。

感情消費と利益消費、この2つの消費は、まったく別のベクトルで行われているのだ。

 

生活が厳しくなれば、切り詰めるのはまず「感情消費」

で、冒頭で愚痴ったように、今年の冬のドイツを取り巻く状況は、かなり厳しい。

零度を下回る気温で暖房を切ることは不可能だし、料理のためのIH、仕事のためのパソコンなど、絶対に使わなきゃいけないものは削れない。

 

となれば、なにを削るか?

そう、「感情消費」だ。

 

いままで贔屓にしていたレストランがあるけど、食材の値段が上がったことで、以前と同じ値段でも付け合わせのサラダがつかなくなった。

それならば、もう少し安くてお腹いっぱいになるレストランへ行く。

いくらそのレストランの店員さんたちと仲が良くても、「お腹いっぱい」という実利のほうが大事。まぁ、そもそも外食自体を減らさないといけないけど……。

 

夫はいままでフェアトレード&完全オーガニックの結構いいコーヒー豆を買っていたんだけど、それも市販の安いものにした。

いまは感情消費で得られる「満足」よりも、利益消費で得られる「得」のほうが優先だから。

 

みなさんだって、病気で急な出費をしたり引っ越しでまとまったカネが出て行ったりしたら、仕事で着るYシャツを安いものにするよりも前に、飲み会の回数を減らすだろう。

仕事前にスタバでコーヒーを買って休憩室で一服してから出勤していた人も、コンビニの缶コーヒーにするんじゃないだろうか。

 

そう、いざ生活に困るとなれば、「カネがかかる楽しみ」から切っていくものだ。

それはつまり、「感情消費を減らす」ということ。

 

そう考えると、最近よく言われる「今後は共感されるビジネスモデルが大事!」とか「物語が生まれる場所に人が集まる!」とか、「感情消費市場が拡大する」という主張に、ちょっと疑問を覚えるようになった。

たしかに、インフルエンサーが流行をつくりだしている現在、それはまちがってはいない。

でもこういった「感情消費」って、結局のところ、「贅沢」なんだよなぁ。

 

満足のためにカネを使うのは「贅沢」なこと

ここで思い出したのが、「日本はどんどん貧しくなっている」論だ。

物価が上がっているのに給料は横這い。正社員としてフルタイムで働いているのに、経済的に結婚・出産を諦めなきゃいけない。ヨソの国が豊かになっていく一方で日本は……という主張は、ここ最近やたらとよく見かけるようになった。

 

わたしは経済に詳しくはないけど、まわりの友人たちを見てみても、30代になったのに家や車を買いたい・買えるという人はほとんどいないし、将来の不安が大きすぎてみんなカネを貯蓄にまわしている。

 

学生時代はバイト代をすべてディズニーランド&シーにつぎ込んでいた子も、いまは大学の奨学金を返すのに手一杯で、もう何年もディズニーに行けていないらしい。

友人と旅行に行くときも、行く先や泊まるホテルのランク、チェックするレストランの価格帯など、大学生のときからなにも変わっていない。大人になったからといって、豪勢な旅行に行こう、とはならない。

 

そんな状況で、「今後はストーリーのあるものが売れる! 共感されるエピソードが大事!」って言われても、なんだかなぁ~と思う。

いやまぁ、わかるよ? インフルエンサーが驚くほどのカネを集めてるのを見ると、「感情消費」の市場に注目するのは当然だと思う。

 

とはいえその感情消費って、カネに余裕のある人がする「贅沢」なんだよね。

で、「贅沢ができる人」自体が、もうかぎられた層にしかいないわけで。

 

こういう主張をしている人たちはきっと、物価上昇におびえる消費者層を意識していないんじゃないかなぁ。

牛肉は高いから、ローストビーフじゃなくてローストポークにしよう、とスーパーで値段を見比べている人が、「ナイキの企業理念に共感したからスニーカーを買うならナイキ!」なんて消費行動をするだろうか。

もちろん、「生活に余裕はないけど、推しに投げ銭するのが生きがい」「食費を削ってでもブランド品を買う」という人もいるけども。

 

でも、いまいちわたしにはピンとこないというか……。

自分を「満足」させるためにカネを使うのって、やっぱり「贅沢」なんだよね、結局のところ。

 

貧しくなる日本で「感情消費」はどこまで伸びるのか

企業としては、これ以上値段を下げられない・下げたくないから、タダで差別化できる「ストーリー」を利用したいのだろう。

インフルエンサーのような個人は、商品の中身がたいしたものじゃないから、「人気」で売りたいのだろう。

だから声高に、「ストーリーが大事!」とのたまう。

 

でも実際のところ、背景のエピソードで購入を決めたり、カネを出して応援したりするのは、ある程度経済的に余裕がある人のみ。

で、その「余裕がある人」は今後減るわけで……。

 

生活に余裕がなくなればなくなるほど、人々は「感動」より「実利」を求める。

ストーリーがあるモノより、コスパがいいモノを選ぶ。

「余裕ある人」がいくら「感動」を宣伝しても、牛肉と豚肉で悩んでいる人たちの心は少しも動かせない。

 

とはいえわたしは、「ストーリーが無意味」と言いたいわけではない。

事実、そこらへんの一般人がうまいことやって、インフルエンサーになりあがった例なんていくらでもあるしね。

 

ただ、ストーリーは「感情消費」における商品であって、「感情消費」をそもそもしようとしていない・する余裕がない人にとっては、なんの価値もない。

だから、「本当に今後も感情消費が増えていくのだろうか?」と、個人的には首をかしげてしまう。電気代とガス代高騰に備えて生活を切り詰めているいまだから、とくに。

 

みんな、そんなに生活に余裕があるの?

余裕ある人たちが、そんなにたくさんいるの?と。

 

逆張りをしているようでアレなのだが、これから豊かな人が減っていくのであれば、「消費者の感情に訴えかけるよりも、とにかく安くて便利なものを」に変わっていくんじゃないかなーと思ったりする。

 

 

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【著者プロフィール】

名前:雨宮紫苑

91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&写真撮影もやってます。

ハロプロとアニメが好きだけど、オタクっぽい呟きをするとフォロワーが減るのが最近の悩みです。

著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)

ブログ:『雨宮の迷走ニュース』

Twitter:amamiya9901

Photo by Mike Tinnion