先日、さくらインターネットの社長である田中氏のツイートが8000いいねを超え、バズっていた。
そういえば、さくらインターネットには2日以上連続の有給休暇を事前申請すると、有給休暇手当が1日あたり5千円出る制度あるんです。
もともと、直前の有給休暇申請を減らして、計画的に休みとって欲しいなって事だったんですが、効果てきめんでした。
ペナルティよりベネフィットだなと思います。— 田中邦裕@さくらインターネット社長🐈⬛🐕 (@kunihirotanaka) 2022年9月12日
このツイートに対するリアクションを見ると、どうやら多くの人は、「ベネフィット」という言葉に惹かれたらしい。
会社がはっきりと「連休取得推奨」を表明していれば、従業員は気兼ねなく連休を申請できるし、さらにカネももらえるのだから、確かに魅力的だ。
でも実は、本当に大事なポイントは、別のところにあるんじゃないかと思う。
それは、「計画的に休みをとる」というところだ。
なぜなら、長期休暇取得のためには、「仕事に合わせて休むのではなく、休みを前提として仕事を割り振る」ことが必要不可欠だから。
ドイツで長期休暇が取れるのは、事前に調整しているから
ドイツでのワーホリ期間中、とあるレストランで働いていたときのこと。
年度替わりの10月、店長から「休暇はいつ取りたいか」と聞かれた。
「春ごろ日本に帰国したいので、それくらいで考えてます」
「春って3月? 4月?」
「いや、まだ全然わからないです。半年後の話ですし……」
「うーん、4月はもう休暇希望者が2人いるから厳しいんだよねぇ。3月らへんにしてくれるとうれしいんだけど」
「じゃあそうします」
「ありがとう、3月20日から一人休暇だから、それまでに戻ってこれる?」
「具体的な日付はまったく考えてなかったので、両親と話してみます」
と、こんな会話があった。
そこで初めて知ったのだが、ドイツでは、半年以上前から休暇予定を組むことも珍しくないらしい。
かなり前からみんな休暇申請を出し、事前に調整する。
「そんな先の予定なんてわかるわけないじゃん!」と驚いたが、そもそも、発想が真逆なのだ。
予定があるから休みを申請するのではなく、まず休みを確保してから予定を入れる。
みんなが休みを確保する以上、事前に調整が必要。調整するなら、できるだけ早くスケジューリングしたほうがいい。
まぁ、言われてみれば「そりゃそうだ」となる話である。
よく「ドイツって1か月休めるんでしょ? いいなー」「日本では絶対ムリだよ~」と言われるけど、いくらドイツだって、「来週から1か月休みまーす」なんてさすがにムリだ。迷惑すぎる。
長く休みを取るために、「事前に」「みんな」の休暇スケジュールをきっちり組んでいるから、休みつつも仕事が回っているわけである。
逆に言えば、いくら「休みやすい」と言われるドイツでも、かなり早い段階から準備しておかないと、みんな順番に長期休暇取得は実現できないのだ。
ドイツでも「休めるときに休もう」だと休めない現実
というわけで、無計画な休暇申請で結局休めなかったケースを紹介したい。
なにを隠そう、我が夫である(ドイツ人でドイツ企業勤め)。
夫の大学卒業後の数年間は、奨学金返済の関係で経済的な余裕がなく、バカンスはおあずけ状態。
だから夫は、「別にどこかに行くわけじゃないし、忙しくないタイミングで適当に休むよ~」というスタンスだった。
さてさて、その結果どうなったか。
……そう、まったく休暇が取れなかったのである!
「え? ドイツなのに?」と思われるかもしれないが、マジだよマジ。
年明けごろ、4月に3週間の休暇を申請して、認められた。
しかし直前になって仕事がめちゃくちゃ忙しくなってしまい、「休んでもとくに予定があるわけじゃないし」と自主的に休暇を延期。
2週間後、仕事が落ち着くも、以前から予定していたほかの従業員が休暇に行ってしまうので、夫は休めなくなる。
で、その同僚が帰ってくるタイミングでまた忙しくなったから再度休暇を延期。
6月ごろやっと2週間の休暇が取れたー!と思ったら、休暇中も仕事の確認の電話が何度かかかってきて、「休んだ気がしない」と休暇を1週間に短縮して結局出勤。
そう、「落ち着いたら休もう」「別にいま休まなくてもいいかな」なんて思っていた結果、まったく休みが取れなかったのである。
たとえドイツであっても、「自分はこの期間休むんで! いいっすか、ちゃんと申請しましたからね! 休みますから!」というスタンスじゃないと、休暇は流れてしまうらしい。
まぁ、仕事って基本的にいつでも慌ただしくて忙しいものだから、「休めるときに休もう」なんて考えてたらいつまで経っても休めないよね……。
だから、「計画的」(というか計画どおりに)休むことが大事なのだ。
計画的な休暇取得にはメリットがたくさんある
事前にみんなの長期休暇を計画するのは、いいことづくめだ。
まず、家族みんなの予定をそろえやすいうえ、休暇を反故にされる可能性が低いこと。
たとえばドイツでは、子どもの夏休み、両親が休暇を合わせてギリシャやスペインの島にバカンスに行くなんてことが多い。
それは半年前には計画済みで、ホテルも決めて航空機も予約する。
そんな状況で、休暇3日前に「やっぱり出勤して」と言われても、だれも首を縦には振らない。
「もう全部予約済みなのでムリです」「パートナーと休暇を合わせているので」と断るし、まわりも「デスヨネ」となる。
休暇申請が早ければ早いほど、「前々から言ってたんで変更はムリ」と突っぱねられるので、ちゃんと休暇が取れるわけだ(夫のように「予定もないし変更してもいいですよ」と言うと、永遠にバカンスには行けない)。
そして、同僚が1か月いないことがザラなので、仕事の引き継ぎがスムーズで、日ごろからしっかり情報共有するようになる。
そうしなきゃ仕事が完全に止まるからね。
また、客側も事前に休暇を把握しやすいので、混乱が起こりづらい。
たとえば歯医者で「来月1か月僕はいないから、治療開始は僕の休暇のあとにしよう」とか、外国人局で「来週から休みに入るから今週中にメールでこの書類だけ送っておいて、代わりの人が手続きしておく」とかって言われるから、わりとなんとかなる。
たまに「担当者が1か月不在なので知りませーん」的な対応をされることもあるけど、まぁそれならそれでしょうがない。
文句を言っても嫌味が返ってくるだけだし、自分だって休むからお互い様。で、話は終わり。
みんなが順番に不在になることを前提に働けば、しぜんとこうやってスケジューリングするし、客側も「自分たちもそうしているから」と納得する。
だから、休めるのだ。
「休暇取得」は、チームワークである
そう考えると、日本で休めない理由はいろいろあるにせよ、結局「仕事ありきの休み」っていうスタンスが問題なのだと思う。
「休めそうなときに休む」「申し訳なくて休めない」なんて思ってたら、そりゃ休めないよね、うん。
だから、計画的に休みを取る……つまり、「休みありきの仕事」にすることが大事なのだ。
「事前に」計画するなら、仕事の予定より休暇の予定が先に入っているのだから、それに応じて仕事をするだけ。
その采配ができない上司は、部下を休ませられない無能。
「みんな」の休みの予定を組むのだから、申し訳なく思う必要もない。だれかひとりだけ抜け駆けしてるわけじゃないからね。
長期休暇取得には、休暇を許可する人と、休暇を取得する人、その他の同僚たち、みんなの協力が必要不可欠。いわば、「休暇取得」というチームワークである。
このチームワークの目標は、「全員がちゃんと(長期)休暇を取得する」こと。
チームワークに際して「事前にスケジュールを組む」のは当然だし、情報共有や引継ぎ、お互いのフォローもまた、チームワークである以上、当然である。
「仕事ありきの休み」には限界があるから、「休みありきの仕事」にすべき
休暇取得の施策がいろいろあるのは知っているし、多くの企業が「休みやすい社内風土」醸成のために努力していることも知っている。
でも結局のところ、「仕事ありきの休み」だと、休暇取得には限界がある。仕事が入ったら休めなくなるからね。
だから、みんながちゃんと長期休むために、「事前に全員の休みを組んでそれを前提に仕事を割り振る」、つまり「休暇ありきの仕事にする」がベストアンサーじゃないかと思う。
とはいえ、「そうはいってもそんな事前に予定を立てられない」と言う人は多いだろう。
でもその考え方自体が、休暇を取れない理由なのだ。
休めるときなんてないよ! 仕事は基本、いつでも忙しいし山積みだからね!
男性の育児休暇が取りづらいのもまさにそれで、男性の場合、「つねに職場にいる」ことを前提として仕事を割り振られるから、休みづらいんだと思う。
「休みありきの仕事」であれば、「春先に生まれそうなので育児休暇を取りたい」と言っておけば、ほかの人の休暇取得の手順ととさして変わらないから、そこまで取得ハードルは高くないと思うんだよね。
男性の育児休暇はあくまで例だけど、「オフィスを不在にする」という意味では同じだ。
「定期的にだれかがオフィスを不在にする」ことが当たり前になれば、それでも仕事が回るように適応していくはず。
コロナ禍で、リモートワークが一気に普及したみたいに。
しっかり休むためには、「事前に」「みんなの」休暇を計画することが大事。
休暇取得率は、どれだけ計画性をもってあらかじめ調整できるかにかかっているのだ。
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【著者プロフィール】
名前:雨宮紫苑
91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&
ハロプロとアニメが好きだけど、
著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)
ブログ:『雨宮の迷走ニュース』
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Photo by :Towfiqu barbhuiya