10月の終わりから、11月の頭にかけ、知人の紹介でアフリカの「ジブチ」に行ってきた。
変わった体験をしたので、レポートしたい。なお記事に書かれていることは事実に基づいてはいるが、あくまでも私見だ。
ジブチは、アフリカ東部の小さな国で、面積は四国の約1.3倍だが、人口はたったの100万人。
国土はほとんど砂漠で、「世界で最も暑い国」の一つと言われている。
農業に向いている国土ではないので、食料の自給率はたったの3%。
輸入がストップすると飢えてしまう。
入国にビザが必要で、日本人はほとんどいないが、自衛隊がソマリアの海賊から船を守るという名目で派遣されており、唯一の海外の自衛隊拠点がある国だ。
他にもジブチにはアメリカ軍、フランス軍、イタリア軍、そして中国軍が駐留しており、巧みな外交と絶妙な軍事バランスの上に国防が成り立っている。
なお、ジブチでは東洋人と言えば、中国人らしい。
街を歩いていると、「ニーハオ」と声をかけられる。
この国は「後発開発途上国」に分類され、世界で最も経済発展の水準が低い国の一つとなっている。
首都の中心地にも、オフィスビルのような高い建物は殆どない。
また、街の周辺には一種のスラム街があり、ジブチの庶民の多くは、バラック小屋のようなところに住んでいる。
そして、ゴミだらけでとても汚い。
なお、この国では街を撮影していると、誇張ではなく、ひどく怒られる。
宗教的な理由と、もう一つは政府が撮影を嫌うという理由からと聞いた。
それを知らずに車の中からビデオを撮影していたとき、「撮影するな!」と見知らぬ人に怒鳴られた。
私服警官かもしれないし、最悪、追いかけ回されたり、暴力を受けたりすることもあるらしいので、初めて訪れる人は、気をつけなければならない。
35歳以下のの失業率が60%
ジブチの失業率は公称15%だが、聞くところによると実際には40%を超えており、特に人口の7割を占める35歳以下の若年層では60%にも上ると言われている。
では、働いていない人は何をしているのか?
ゴロゴロしたり、海で遊んだりしているが、「カート」という草をやっている人が多い。
カートは、覚醒作用のある成分を含む草で、町中にはカートを売る屋台が山のようにある。
覚醒作用を得るには、葉や茎を何時間も噛み続けないといけないため、あちこちで口をモグモグさせている人は、カートをやっている。
なお、カートはその成分ゆえに、ほとんどの国では非合法。
噛んだことのある人に聞くと、「何時間も嚙まないといけないのが面倒だし、効果も長い間続くので、すぐに酔えてすぐに醒める酒を飲んだほうがいい」と言っていた。
ムスリムの国では酒はご法度だから、酒の代わりに草をやっているかもしれない。
ジブチではカートは高級品だ。
一人当たりGNI(国民総所得)が45万円程度(日本は約570万円)の国で、一束あたり数百円~数千円する。
庶民にとって大きな出費であることは言うまでもない。
「貧乏なのに、カートを買うからカネがなくなるし、ますます働く気も失せる」から、飲酒と同様に決して良い習慣ではないのかもしれない。
だが、やることがないのなら、仕方ない。
「カートが入手できなくなると不満が高まるので、政府が無料でカートを配布することがある」なんて話も聞いた。
カートはエチオピアからの輸入が多い。
伝統的な習慣とはいえ「薬物」だから国際問題になりかねないが、統治の道具としても使われているようだ。
サービス業のレベルが低すぎる
それゆえ、ジブチ人の「仕事」に対する意識は、一部を除いて非常に低い。
仕事中に草をやる人もいるくらいだ。
「意識低い系」の彼らは、本当に仕事が遅く、現地のビジネスパーソンは、「外国人をひとり月70万で雇うほうが、ジブチ人を10人を月5万で雇うより、はるかに良い」と言う。
例えば、空港近くでレンタカーを借りようとしたとき、日本であれば10分程度で借りれるだろう。
ジブチでは、2時間かかる。
また、車を借りるときには、20万円(!)のデポジットが必要なのだが、そういうことを事前に言わず、現場であとから言ってくる。
「嫌なら借りなくていいよ」という態度で。
さらに、意味不明な細目が勝手にを請求されており「なんだコレ」と聞くと、「ああ、間違ってた?」と開き直る。
そして、間違いを訂正させようとすると、その都度、20分30分待たされる。
まるでこっちが悪いみたいだ。
現地では、ジブチで事業をやっていたDodaiの佐々木さんが、案内や手配をかなりしてくれていたのが、その佐々木さんが、そういう態度のレンタカー会社のマネジャーに声を荒げていた。
後から事情を聴くと、
「昨日連絡を入れ、さらに事務所に行って直接条件を確認したのに当日これです。ジブチ人は、ちゃんとキレないと、仕事をしないんで。」
とまじめな顔で言う。
あと運転手。
現地の交通事情が分からないので、運転手を雇ったが、そのうちの一人がとにかくひどい。
運転手に朝ホテルに迎えに来てくれ、と言う指示をだした。
「時間に遅れてくる」くらいは十分あり得るな、と思っていたら、その斜め上だった。
彼は、ホテルで勝手に朝食をとって、その請求(2000円くらい)をこちらに回してきたうえに、デザートにホテルのケーキを食わせろと言ってきた。
佐々木さんに言うと、「いやー、ジブチでは普通です。」と。
結局この運転手は、いろいろとひどいので、途中でクビになった。
そのホテルも微妙だ。
到着してチェックインしようとしたら、そこでもまたえらい待たされた。
首都で2番目に良いと言われる、世界的チェーンの有名ホテルを予約したのに、チェックインにもたついて、5人で1時間以上かかる。
さらに、同行者のひとりは二日目、帰ってきたら、部屋が清掃されていなかった。
これも「普通」らしい。
ちょっと訳が分からない。
なお、ホテルの水道からはシャワー含めて、塩水しか出ない。
現地の外国人は、「ジブチ人と働くのは、本当に難しい」と言っていた。
基本的に怠け者で、ミスを指摘しても「私は悪くない」と言い訳ばかりする割には、妬みひがみが多く「自分が儲けるより、とにかく相手に儲けさせたくない」と言う気質のせいで、win-winの思考が苦手という。
この国が、なんで国として安定して機能しているのか
しかし、面白いことにこの国は、政治的には非常に安定しており、治安も極めて良い。
これは決してオーバーではなく、人口の7割が集中する首都のジブチシティでは
「女性が夜中に一人で出歩いても全く問題ない」と言うくらい。
要するに、世界のほとんどの国より治安が良いのだ。
失業率が高く、格差の極めて大きな国で、なぜだろうか。
その一つの理由は「大統領に権力が集中している」こと。
町中や施設内、いたるところに大統領の写真が飾られており、半ば独裁のこの国は、警察が非常に強い。
また、国が小さいので至るところに知り合いがおり、相互監視の目が光っている。
もう一つの理由は「物流業がかなり優秀で、皆をそれなりに食わせていける」ため。
例えば、ジブチのドラレ港はアフリカでもっとも効率の良い港だ。
その港を中心とした「物流業」は、ジブチのGDPの8割を稼ぎ出しており、例えば隣国のエチオピアは、輸出貨物について、9割がジブチの港を利用している。
当然、稼ぎ頭である、港湾に配置される人々は、ジブチの超エリートたち。
多くが海外で教育を受け、この国に戻って要職に就く。
彼らは一般庶民たちとは、考え方、教育水準、仕事など、あらゆる世界が全く違う。
視点が常に「国益」なので、同じ国の人々とは思えないくらいだ。
「格差が大きいと不満が出るのでは?」と思う方がいるかもしれないが、ジブチでは、一族の誰かが稼いでいれば、皆その人にぶら下がる。
一人で、3家族か4家族の面倒を見ている人もいると聞いたから、「持っている人が金を出す」のが当たり前なのだ。
有能なエリートは国のために働き、皆の面倒を見る。
働きたくないやつは、カートを噛んでゴロゴロし、生活の面倒は稼ぎ手に見てもらう。
これはこれで、社会の安定した形なのだ。
ジブチ政府は海外から投資を呼び込もうとしている
とはいえ、政府はこの状態を良しとはせず、海外の企業や投資家を呼び込みたい、そして失業率を改善したいと強く考えている。
ジブチの投資庁長官は「現在、ジブチは投資するのに良いタイミング。スタートアップセクターに力を入れている、中でも製造業は雇用を生み出すので歓迎」と述べた。
エネルギー、観光、水産、金融、IT分野は特に重視しており、「この国は隣国のエチオピア、ソマリア、エリトリアなどと異なり、平和で安定している」という。
実際、事業に政治的な安定は不可欠であり、彼らの言う通りなのだろう。
ただ、冷静にこの国で事業を立ち上げようと考えたときには、障害がいくつかある。
一つはこの国は100万人の人口しかいないこと。世田谷区が90万人ちょいだから、その程度のマーケットしかない。
マーケットが小さすぎるから、この国で大きな成長を狙おうとすれば必然的に、1億以上の人口を抱える隣国のエチオピアなど、外国相手の取引をせねばならないが、そうなると、わざわざジブチでやる理由を見つけるのが難しい。
第二に、市場と労働者が未熟なこと。
人口が少ないので、一分野1社という規制がある産業も多い。
また、上で述べたように、雇いたくとも多くのジブチ人は労働に慣れておらず、労働力の質が低い。
投資対象として魅力的かどうかは判断が分かれるだろう。
ただ、一般的に新興国は紛争があり、汚職が横行して、治安が悪い国も多い。
それらの国よりははるかにマシ、といえるかもしれない。
ジブチにおける中国の大きな存在感
しかし、商売では微妙でも、地政学的には非常に重要な国であることは間違いない。
ジブチはシーレーンの要所で、国防が絡んでくると、途端に重要な事案となる。
特に中国は存在感があり、官民一体となって、大量の資本をジブチのインフラに投下している。
港、倉庫、鉄道……。
(港の巨大なクレーンには上海ZPMC社の文字)
中心となるドラレ港はもともと、ドバイの会社とジブチ政府が共同で開発したが、ジブチの港を恐れたドバイから不平等条約を結ばされたため、大統領が港を接収し、中国と組んでアフリカ有数の港に改造した。
ジブチの巨大インフラには、何かしらの形で中国が絡んでいると言っても良いかもしれない。
現地の人たちからしても、中国は欧米のように搾取をしてこず、日本よりも意思決定が早く、経営に余計な口出しをしてこないという事で、「カネは出すが口は出さない国」と、受けが良いのだと聞いた。
この国を見て「日本人はよく働く」の意味がようやくわかった
「日本人はよく働く」という話を耳にすることがある。
ジブチに行き、そういわれる理由がよく分かった。
日本人は一介のアルバイトですら、顧客への「サービス精神」を持っている。
態度がよく、向上心と真面目さを有し、時間と約束を守る日本人は「よく働く人々だ」とお世辞抜きで言って良い。
なにせ、ジブチの基準で言えば、「昼休みが終わったら、すぐ仕事に戻る」のすら、実はすごいことだ。
逆に、ジブチはエリート層は、日本よりも「責任感」と言う意味では、圧倒的に優れている。
視点が高く「国」を直接背負っているため、彼らの話はスケールが大きい。
「持っている人が金を出す」という考え方も日本人にはあまり馴染みがない。
しかし「エリートたち」が貧しい人の生活と国益を考えずして、誰が考えるというのか。
ジブチ人がこのような状態でも、国としてきちんと機能しているという事実は、エリートたちの並々ならぬ努力を示している。
逆に、今回恥ずかしながら私は「国益」、「日本人であること」あるいは「欧米、中国に負けないように」を真面目に考えたことはないと、痛感した。
しかし、ジブチを見て、本当に重要なことから逃げているのではないか、と少し考え直した。
「優秀すぎる労働者」がこれほどいる国で、皆が「国益」や「政治」について深く考えれば、日本も捨てたものではない。
ジブチのエリートたちを見て、そう思った。
(文責-ティネクト株式会社 取締役 倉増京平)
ティネクトの地方創生支援-人の移住よりも知の移転-
ティネクトでは創業以来、数多くの地方中小企業様のお手伝いをさせてきました。地方では人材不足が問題と思われがちですが、実際は「人材」の問題よりも先に「知」で解決することが多いと感じています。
特に昨今は生成AIの台頭で、既存の人材とAIの協働の可能性が高まっており、実際それは「可能である」というのが我々ティネクトの結論です。
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【著者プロフィール】
安達裕哉
元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。
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