「ブラック校則」という言葉が認知されはじめているなか、先日朝日新聞で、『「先生はコート着てるのに…」 校則で着用を制限するワケ』という記事が公開された。
内容はタイトルそのまんまで、男子生徒は校則でコートの着用が禁止されており、着用には学校の許可が必要とのこと。
最低気温が氷点下を下回る日でも、生徒たちは校門前でジャンパーを脱いだり、セーターや肌着を着たりして、寒さをしのいでいるらしい。
なぜ、校則でコートなどの着用を制限するのか。冒頭の男子生徒が通う高校に取材すると、教頭は「昔からある校則なので、目的は分からない」と話した。「生徒は制服の中に着ることで防寒しているし、朝に学校に電話してコート着用の許可を取れば、着ていくこともできる」と説明する。
目的がわからんのかーい!
というツッコミはさておき。
宮崎県弁護士会は22年8月に「校則見直しQ&A」という文書をまとめ、県内の教育委員会などに配布した。この中で、マフラーを禁止する校則などについて「寒暖の感じ方や体調には個人差があるにもかかわらず、画一的に統一することは、子どもの健康を害することにもなりかねない」と指摘した。
と続く。
最近はこういった校則に対し、「子どもの人権侵害」「健康を害する」という批判が大きくなってきているが、今回わたしは別の視点から、理不尽な服装規定を否定していきたいと思う。
それは、「子どものうちからTPOに合った服装を選ぶスキルを身につけないと、大人になって苦労するぞ」。
失敗①:就活に行ったら自分ひとりだけスーツを着ていた
まぁまずは、わたしのちょっと恥ずかしい話でも聞いてください。
日本の大学を卒業し、意気揚々とドイツに移住。
そして、とある旅行会社の職業教育に応募した。
グループ面接には、日本から持ってきたリクルートスーツを着て、念のため絆創膏を貼ったうえでパンプスを履き、黒い就活バックに履歴書を入れて臨んだ。髪もぴっちりポニーテール。
よし、バッチリだ。今日のわたし、決まってる……!
が、会場となる部屋に入ると、なにやら様子がおかしいことに気づいた。
10人ほどのほかの応募者たちが、カジュアルな私服で談笑中。Gパンにスニーカー姿で、髪の毛もみんなおろしている。
あれ、もしかしてわたし、外した……?
緊張でただでさえ心臓がバクバクしているのに、タラリと冷や汗までかいてきた。
明らかに場違い。なんだかみんながわたしを見ている気がする。っていうか見ている。
とりあえず近くの子に「ハロー」と(なんとか)笑顔で挨拶すると、「その……すごくフォーマルだね!」と言われた。あ、これダメなやつだ。
みなさんも、想像してみてほしい。
正面に大きなスクリーンがある会議室にコの字型でテーブルが置かれていて、10人ほどの女の子が適当に座っておしゃべりしている。みんな、TシャツにGパン、スニーカーだ。
そこに、白いYシャツに黒いジャケット、就活用の膝下丈のスカートにパンプスを履いた、ちんちくりんなアジア人が登場。全員がその姿を見て、会議室に若干の間が生まれる。
……いや待って、やっぱり想像しないで。思い出したくない。つらい。
失敗②:大人の社交場でふわふわワンピースを着ていった
恥の上塗りで、もう1つ残念エピソードを披露したい。
フォーマルすぎ就活事件(?)から3年ほど経ったある日、わたしはドイツ人の彼氏(現在の夫)がインターンとして勤めている会社のイベントに招待された。
有名なオーケストラのクリスマスコンサートで、オペラを鑑賞したあと、他企業も含めた100人ほどの社員たちでパーティーをするとのこと。
成人式のあとの同窓会で着た、ワインレッドのワンピースをドイツに持ってきていてよかった。これを着ていこう。
当日、オペラハウスに向かう道中で、夫の同僚たちと会い、一緒に歩いていく。いやぁ、雪が降ってて寒いなぁ。
建物内に入り、クローク前でコートを脱ぎ、まわりを見渡した瞬間、ピシっとわたしの動きが止まった。
あ……れ……? なんかわたし……子どもっぽい……?
そう、コートの下はみんな、シックなドレスをまとっていたのだ。
わかりやすいように、ドイツによくあるP&Cという洋服屋のサイトから、適当にドレスの写真をひとつ拝借しよう。
(出典: Abiballkleider)
で、わたしが着てたのは、こんな感じのワンピース(レンタルサイトから画像を借りているだけで、実際に着用したものではない)。
(出典:パール付きフレアドレス)
女性は黒ベースのロングドレスがほとんどで、たまーに紺やベージュのドレスの人がいるくらい。
男性もみんなきっちりスーツを着て、ぴかぴかの革靴を履き、蝶ネクタイをしている人もいる。
男性が女性をエスコートして手を差し伸べたり、飲み物を取ってきたりして、完全なる「大人の社交場」って雰囲気。
そんななか、わたしひとりだけ、ワインレッドのふわふわワンピース。
完全に浮いてるー!!!!!
日本は服装の模範解答があるから服装を選ぶ機会が少ない
自分でいうのもアレだが、就活スーツ自体はわたしの体格に合っていたし、コンサートに着ていったドレスも似合っていたと思う。
ただ、TPOには、絶望的に合っていなかった。
ドイツで2回もやらかしたわたしは、ふと思ったわけだ。
「そういえば日本では、こういうことがなかったな」と。
中学も高校も制服があって、部活にはユニフォームがあり、成人式の時期には毎日着物のちらしが届き、就活にはリクルートスーツコーナーがもうけられ、居酒屋バイトでも制服が支給される。
「ここではこういう服を着てください」という模範解答が提示されているから、それを着ていただけ。
「リクルートスーツは本来のスーツとなにがちがうのか」なんて考えたことがある人は、ほとんどいないだろう。
それでもそれが就活用だと言われたら、それを着ればいいのだ。
子どもなら、模範解答にならうだけでいい。
でも大人になったら、TPOにあった服を、自分でちゃんと選べるようになってなきゃいけない。それができなければ、非常識だと思われるから。
記憶が定かではないけど、堀江貴文さんが『しくじり先生』という番組に出ていたとき、「実力があればいいと思っていた」と記者会見にTシャツで臨んだらボッコボコに叩かれた、というエピソードを披露していた。
お父さんがお兄ちゃんに、転職祝いで「好きな時計をひとつプレゼントする」という話になったとき、お兄ちゃんが選んだ時計に対して、「あげるのはいいけど、生意気に思われるからまだつけるなよ」と忠告してたこともある。
大人になったら、その場の雰囲気を壊さない装いであることはもちろん、自分の年齢や社会的立場を考慮した服装を選ぶ必要がある。
それが、社会人としてのビジネススキルであり、大人のマナーだから。
「平服でお越しください」なのにみんなスーツを着ていく理由
でも制服やリクルートスーツがある日本では、服を選ぶ能力を磨く機会が、圧倒的に少ない。
就活で「平服でお越しください」と書かれているのに、結局みんな「なにを着ればいいかわからない」とスーツを着ていくとかね。あるあるだよね。
だってみんな、決められた服しか着てこなかったんだもの。
そりゃわからないよ、いきなり「自分で考えろ」だなんて言われても。
そういえば、新聞社のインターン(クールビズ指定)に行ったとき、超カジュアルな服を着ていた男子がいた。
カラフルな柄入りのシャツにチノパンで、くるぶしの部分の折り返しに派手なペイズリー模様。当然、すごく目立っていた。
彼自身、明らかに浮いていたのに気づいたのだろう、翌日はきっちりスーツを着ていた。
とはいえ、学生や20代半ばで「ちょっと世間知らずでした」くらいはかわいいもの。
問題は、良い年齢の社会人になったときだ。
まともな服を着ていない人が、まともであるはずがない。
そう思われる。
こんなことを言うと、多様性だの個人の好みだのと言う人が現れそうだが、そうじゃない。
白い服が好きだからって、結婚式に呼ばれて白のドレスを着ていくか?
クールビズだからって、ビーサンで出勤するか?
わたしがしているのは、そういう話だ。
この例はあくまで極端な話だが、「適した服装選び」は実は結構むずかしくて、ある程度の経験と知識がいる。
だから、早いうちから、服装選びの経験を積んでおくべきなのだ。
おしゃれをするか否かではなく、「大人のマナー」への理解として。
最適な服選びを学ぶことは、大人になる第一歩
さてさて、冒頭の「理不尽な服装に関する校則」に話を戻したい。
気温に合わせた服を着る自由を保証するのは健康上必要だが、そのうえで子どもたちは、社会勉強として、その場に合った服を選ぶことを学ぶべきだと思う。
暑い、寒い、だけでなく、「学校に着て行っても問題ない色味」だとか、「制服に合うセーター」だとか、そういうものを考えるのも、大事なことだから。
(「先輩に目をつけられないぎりぎりのスカート丈」とかね!)
服は、手っ取り早く自分をよく見せる手段であり、なりたい自分の実現の手段でもある。
親しみやすい雰囲気を演出するためにパステルカラーのシャツにしたり、有能そうに見せるためスタイリッシュなジャケットを選んだり……
自分に似合う服を着るだけで自信がわくこともあるし、「靴が汚れている人は仕事ができない」なんて言葉もあるように、他人からの第一印象を大きく左右するものでもある。
それほど大事なのに、なぜ「それを選ぶ能力」を磨く機会を奪うのか。
さっぱり理解できない。
決められたものを着るなんて、だれにでもできるじゃないか。
「学校という場にふさわしい格好を自分で考えろ」が教育じゃないのか。
管理して正解を押し付けるのは、ある意味甘えだ。
「こうしろ」と言えば、ちゃんと世話をしたことになるから。
でも自分で考え、失敗し、試行錯誤する経験がないと、子どもたちは成長しない。
服装選びは、大人になる第一歩として、もっと重視されてもいいと思う。
そういう機会を与えられないままだと、結婚式で白ドレスを着ていくような大人になってしまうぞ。
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【著者プロフィール】
名前:雨宮紫苑
91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&
ハロプロとアニメが好きだけど、
著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)
ブログ:『雨宮の迷走ニュース』
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