「聞く技術」は数多くありますが、わたしが学んだ中で、会話で特に役立つ技術の一つは、

「そうなんだ。」または「そうなんですね。」

という相槌です。

 

たとえば、同僚が、飲みの席で上司の文句を言っているシーンを想像してみてください。

「部長って、最近イライラしてない?」

と聞かれたとします。

 

おそらく同僚は、部長と何かしらのトラブルがあり、悪口を言いたいのだと予想できますが、これに対する反応は、意外に難しいのです。

 

 

まず、最悪なのは、「そうは思わない」という否定です。

よほど仲の良い人ならともかく、いきなり人の意見を否定するような人物とは、今後二度と話したくないと誰もが思うでしょうし、下手をすると喧嘩になります。

 

また、たとえ事実であっても、さらに追い打ちで「部長ではなく、あなたに責任があるのでは」などと言おうものなら、「絶交」確定です。

ほかにも

「ちがう」

「ダメ」

「おかしい」

など、否定の言葉は、ビジネスの関係であれば、社内であっても使わないほうが無難です。

 

 

次に良くないのは、「わかります」「そうですね!」と、安易に理解を示したり、同意してしまうことです。

 

利害関係のない友達同士であれば、「悪口で盛り上がる」のも悪くないですが、粗職人としては、人の悪口で盛り上がるのは、あまりメリットがありません。

また、ヘタに同意してしまったことが上司の耳に入ったりすれば、「共犯」です。

 

むかし、私の所属していた組織に、「上司を批判する人物A」とたいして親しくないにも関わらず、「誘いが断れない」という理由だけで頻繁に一緒に飲みに行っているだけのひとがいました。

 

実際にどのような話をしていたかはわかりませんが、「A」と一緒によく飲みに行って、上司の悪口で盛り上がっている、という客観的な事実があるだけでも、上司に疎まれてしまっていました。

 

でもこれは、残念ながら同情の余地なしです。

原則として、組織で「上司の悪口」を話すひととは、基本的に距離をおいた付き合いをすべきです。

 

 

では「なんでそう思ったのですか?」と聞き返してみてはどうでしょうか。

 

これも実は、場合によってあまり良くない回答です。

というのも、部長の悪口、もしくは同僚の愚痴を、延々と聞かされることになる羽目になり、望まない話が長くなるのです。

 

一般的に「なんでそう思ったの?」という質問は、相手の話に強い興味を持っていることのシグナルになります。

悪口や愚痴を一緒に楽しみたい、という方であればべつですが、(たいして仲の良くない)同僚から、上司の悪口を延々と聞くのは、精神衛生上もよくありませんし、下手をすると上司から「仲間だ」と思われてしまいます。

 

かといって、「否定」もできないので、抜き差しならない状況に陥りがちです。

どうでもいい話を安易に聞き返してしまうと、「泥沼」にハマります。

 

 

では「上司ともっと腹を割って話してみたら?」など、アドバイスを与えるのはどうでしょう。

 

これも、基本的には「ダメな回答」です。

というのも、基本的に「他人からのアドバイスを聞ける人」というのは、相当な希少種であり、ほとんどの人は「アドバイスなんてどうでもいい」と思っているからです。

 

プロのコンサルタントであっても、人にアドバイスを与えるには、相当の熟練と、前準備が必要です。

実績を褒め、人格を否定しないように注意をし、相手に自分の欠点に自分で気づくようにうまく会話を仕向ける。

 

そうした技術を駆使しなければ、有効なアドバイスはできませんし、ほとんどの人は「愚痴を聞いてほしいだけ」なので、アドバイスは煙たがられるだけ。

不毛ですし、徒労感があります。

 

 

では、どうすべきか。

 

同僚に嫌われたくないし、絡まれたくないけど、さりとて安易に同意もしたくない。

そんなときに便利なのが、

「そうなんですね」という相槌です。

 

「そうなんですね」という言葉自体には、価値判断が含まれていません。

同意でも、否定でもないのです。

実際、「そうなんですね」を省略せずに言うと、「(あなたがそう思うのなら)そうなんですね」なのです。

 

ですから、この言葉には、自分の意見が全く含まれていません。

だから、相手が受け取るのは、「その人が聞いている」という、客観的事実のみです。

そして、その話題はさらっと流れてしまう。

 

それであるがゆえに、「そうなんだ」は、特に「イヤな」人の話を聞くのが苦手な人におすすめしたいのです。

 

 

私自身も、(会社関係の)人の話を聞くのが苦手な人間の一人でした。

当時、社内では派閥争いがあり、まさに「ヘタにものが言えない」状況だったからです。

 

そのことを、一人の先輩に相談したとき、その先輩は「そうなんだ」と気持ちよく言ってくれました。

 

私は続けて、

・惡口を言う人が苦手

・悩みを話されても、有効なアドバイスができない

・愚痴を聞くのがつらい

といったことを述べると、それも全て、先輩は聞いてくれました。

 

しかし、一通り、話を終わったところで、ようやく気づいたのです。

「そうなんだ」しか、先輩が言っていないことに。(頷いてくれていましたが)

 

でも、これは使える、と思いました。

それ以来、私も先輩のように、相槌は「そうなんだ」で徹底し、極力、聞いている姿勢だけを相手に見せるようにしました。

そして、余計な口を挟まず、聞くだけで十分なのだ、とわかりました。

 

もちろん、すべてのシーンに対応できるほど万能、というわけではないですが。

でも、会社関係の人づきあいなんて、最低限、頷きながら「そうなんですね」と述べるだけでもいいのです。

 

 

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【著者プロフィール】

安達裕哉

元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。

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