武士道といえば、「葉隠」という有名な書物がある。
「武士道といふは、死ぬ事と見つけたり」という一文で有名な書物だ。作者は山本常朝と言う人物で、江戸時代中期のものだ。
そして、この「葉隠」という本を愛してやまなかったのが、著名な作家である三島由紀夫である。
かれは、葉隠についてこう述べている。
”戦争中から読みだして、いつも自分の机の周辺に置き、以後20数年間、折にふれて、あるページを読んで感銘を新たにした本といえば、おそらく「葉隠」一冊であろう”(葉隠入門)
三島由紀夫にこれほどのことを言わしめた一冊なのだが、彼は好きが高じて、「葉隠入門」と言う本を書いている。
面白いのが、三島由紀夫の「武士道といふは、死ぬ事と見つけたり」という一文への解釈だ。
”根本的には、「武士道といふは死ぬ事と見つけたり」という「葉隠」のもっとも有名な言葉は、そのすぐ裏に、次のような一句を裏打ちしている。
「人間一生誠にわずかのことなり。好いた事をして暮らすべきなり。夢の間の世の中に、好かぬことばかりして苦を見て暮らすは愚かなることなり。」
三島由紀夫は、好きなことをして暮らす、を人生の奥義と言っており、「葉隠は、死と生を盾の両面に持った生ける哲学」としている。
さて、この件を読んで、思い出したのが故スティーブ・ジョブス氏のスタンフォード大卒業式でのスピーチだ。まだご覧になったことのない人は、素晴らしいスピーチなので一度は見ていただくと良いと思う。
この中で、スティーブ・ジョブス氏は、こう述べている。
”3つ目の話は死についてです。
私は17歳のときに「毎日をそれが人生最後の一日だと思って生きれば、その通りになる」という言葉にどこかで出合ったのです。
それは印象に残る言葉で、その日を境に33年間、私は毎朝、鏡に映る自分に問いかけるようにしているのです。「もし今日が最後の日だとしても、今からやろうとしていたことをするだろうか」と。「違う」という答えが何日も続くようなら、ちょっと生き方を見直せということです。
自分はまもなく死ぬという認識が、重大な決断を下すときに一番役立つのです。なぜなら、永遠の希望やプライド、失敗する不安…これらはほとんどすべて、死の前には何の意味もなさなくなるからです。
本当に大切なことしか残らない。自分は死ぬのだと思い出すことが、敗北する不安にとらわれない最良の方法です。我々はみんな最初から裸です。自分の心に従わない理由はないのです。”(訳:日経新聞)
これは、「葉隠」の言う武士道そのものだ、と解釈しても差し支えないのではないかと思う。
「死」を思うことで「生」が充実する。
これが人生の真理であり、三島由紀夫の言うように「奥義」なのかもしれない。
(2026/6/2更新)
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