チリの元女性体操選手(米国在住)であるマリマール・ペレスさんが、日本の神社の鳥居で懸垂して大炎上した。

インバウンドが盛り上がるのと比例し、訪日外国人のマナーの悪さに対する不満や嫌悪感が膨れ上がっていたのも、炎上の導火線になったのだろう。

 

こういったトピックでよく目にするのは、「鳥居とはこういうものだから……」と理解を促す意見や、「日本を理解してない外国人は来るな」という意見だ。

どうやら多くの人は、「日本への理解」に重きを置いているらしい。

 

でも10年近くドイツに住んでいると、「異文化理解」という言葉がいかに薄っぺらく、現実離れしているのかを痛感する。

 

もちろん、日本を好きで、日本に興味がある人に来てもらいたい、という気持ちはわかる。

でも本当に大事なのは、「外国人に日本を理解してもらう」ことよりも、「相手になめられない」ことなのだ。

 

「同じことされたら嫌でしょう?」は海外では通じない

鳥居で懸垂がなぜダメなのか、なぜ日本人が怒るのか。

それを外国人に理解してもらうために、十字架で懸垂することを引き合いに出したポストがバズっていた。

鳥居を理解していない人に対し、その人が想像しやすいもので例えるのは、一見合理的のように思える。

 

十字架で懸垂はしないよね?→鳥居はそういう宗教的なものなんだよ→だから鳥居で懸垂はやっちゃダメ

 

この三段論法は、日本人はわりとすんなり受け入れることができる。

「やられて嫌なことはしてはいけません」と教わるし、小さい頃から「相手の立場になって考えなさい」と教え込まれているから。

 

「わたしはこう思った。あなたもそうでしょう?」がコミュニケーションのベースにあるので、「わたしはこうされて嫌だった。あなたも同じことをされたら嫌だよね?」と言えばわかってもらえると考えるのだ。

 

でも海外……と括ると「主語が大きい」と怒られそうだけど、少なくともわたしの経験上、日本以外では「自分はこう思った。そっちはどう?」がベースにある。

だから経験上、この三段論法はうまくいかない。

 

その人の感情はその人のものであり、自分の感情は自分のものだから、「わたしと同じように嫌でしょう?」と言っても共感してもらえないのだ。

この「共感を求めても無駄」というのは、わたしがドイツで学んだことでもある。

 

わたしはついつい、「こっちの立場になって考えてみてよ。こう言われたらこう考えて、こういう気持ちになるでしょ?」と言ってしまっていた。

日本人なら、「たしかにそう思うかもしれないね、ごめん」「自分はこういう意図だったけど、誤解させる言い方だったかも」のように、歩み寄ってくれる人が多いから。

 

でもドイツでは、高確率で「自分はそうは考えないし、そういう気持ちにならない」と言われてしまう。で、「なにが言いたいの? どうしてほしいの?」となる。

 

ドイツではお互いが同じ気持ちになることを目指していないので、相手の気持ちを想像する経験が少ないし、そもそもその必要性を感じていない。言いたいことがあれば言え、で終わり。

だからいまでは率直に、「わたしはこう考えて、いまこういう気持ちだ。これが嫌だからこれをやらないでくれ」と言うようになった。

 

相手がわたしの気持ちを理解したか、共感したかなんて関係ない。わたしが嫌だからやめろ。そう言わなきゃいけないのだ。

 

なぜその人たちは、「日本」でやるのか

というわけでこの「鳥居で懸垂」に関しても、その人が日本を理解しているか否かなんかどうでもよくて、「ダメなものはダメ」というだけの話だと思う。

たとえ駅に英語で「割り込み禁止」と書いていなくとも、日本人がみんな列になって並んでいるのを見たら、そういうものなんだなってわかるでしょう。

 

日本を理解して、「なるほど、だからやっちゃダメなんだな」と納得してもらわなくて結構。とにかくそれは日本ではこうだからこうしろ。それでいいんだよ、外国人への対応ってのは。

まさにこれで、「日本でやらかすとやべぇ」と思わせるのが一番大事なわけで。

 

浅草の雷門でヨガをしてる外国人も炎上してるけどさ。だからといって、イランのモスクの入口で、半裸になってヨガしたりはしないわけでしょ?

 

結局、日本への理解が足りてないんじゃなくて、ただなめられてるんだよ。

「やってもいい」と思われてるから、やられるわけ。

 

いじめ問題でも同じでしょう。

いじめっ子に、「君がそうされたら嫌でしょう? だからやめようね」なんて言っても、伝わるわけがない。

「あなたがやったことはいけないことだから、ペナルティを受けます」と登校禁止にされたり内申書に書かれたりして、自分に不利益があるとわかって初めて、「ごめんなさい」って言うものなんだよ。

 

「いやいや鳥居っていうのはね……」と説明したり、「あなたもこういうふうにされたら嫌でしょう?」と道徳の授業をしても無意味なの。

相手はこっちをわかろうとはしないし、こっちの気持ちなんてどうでもいいと思ってやってるんだから。

 

外国人と付き合うなら、理解よりなめられないことが重要

というわけで、「日本を理解してから来い」という主張は、現実離れした幻想にすぎないのだ。

 

そもそもその国を理解するには数年じゃ足りないのに、そんな大層なことをたかが数日~数週間遊びに来た観光客に求めてどうするの?

それを求めて、相手がそれに応えてくれると、本気で思っているの?

 

日本人だって、「10日間ヨーロッパ周遊旅!」みたいなツアーに参加して、観光地で写真を撮ってお土産買って帰ってくるだけの人、たくさんいるでしょう。

エッフェル塔がなんのためにあるのか、ノイシュヴァンシュタイン城にだれが住んでいたのか、サクラダ・ファミリアがどの宗派かを学んで行きます?って話でさ。

 

日本人だって、海外のレストランで偉そうに大声で店員を呼びつけて、現地の人に眉を顰められてることも、たくさんあるんだよ(本人たちは失礼な自覚がないので、「これだから海外はサービスが悪い」と言い出す始末)。

 

そんなものなんだよ、観光客って。

お互いにさ。

 

それでもまわりに合わせて行動しているかぎり、とんでもないやらかしをすることはまずありえない。

龍安寺で初めて石庭を見た人だって、みんな外から眺めてるのを見れば、「このエリアには入っちゃいけないんだな」ってわかるでしょう。

お寺の内部の入口に下駄箱があってみんな靴を脱いでいれば、「土足禁止なんだな」ってわかるでしょう。

 

ドイツの電車内では荷物を空いている隣の座席に置くのが普通だけど、日本に来た夫は、まわりに合わせてちゃんとリュックを膝の上に乗せてたよ。

 

日本人でも日本語が通じず迷惑行為をする人はたくさんいるのに、なぜ外国人に対しては「説明すれば理解してもらえる」「理解してれば来てもいい」なんて思えるのか、不思議でならない。

 

迷惑な行動をする人はそもそもまわりに合わせる気がない、まわりとはちがうことをやりたいやつらなんだから、「理解」なんか求めても無駄なんだよ。

「鳥居で懸垂しちゃダメなの?」っていうのは、言ってしまえば「なんで人を殴っちゃダメなの?」レベルの話。

 

ダメな理由をわかっていようがいまいが、やったらダメなの。「禁止の理由に納得いかないので殴らせてください」「人を殴ってもいいと思っていました」は通用しないの。

「なぜダメかをちゃんと理解したい」という人もいるし、そういう人たちになら、説明したらわかってもらえるかもしれないけどね。それは限られたケースだよ。

 

理解の有無は関係なく「ダメなものはダメ」

もちろん、日本に興味を持って、学んで、理解してくれたらうれしい。きちんとルールが決まっているのなら、それを伝える努力はすべきだ。

でもそれはあくまで理想論であって、相手が「なぜダメなのか」を理解するかどうかは関係ない。「ダメなものはダメ」というだけ。

 

高野山の宿坊に訪れた外国人観光客の不満レビューに対して、僧侶が「ここは修行の場だ」と反論したのがいい例だ。

イギリスでは仕事中の衛兵と写真を撮ろうとして、観光客が怒鳴られたり突き飛ばされたりしているけど、だれも「衛兵が暴力的だ」なんて言わない。当然の対応だもの。

 

そういう人に対して、「宿坊とはこういうもので」と納得していただく必要もなければ、「衛兵は仕事中だからお控えください」とお願いする必要もない。

 

ルールを守れ。守らせろ。

守れないなら追い出せ。きっちりペナルティを課せ。

ちょっと極端な表現にはなるが、「なめたことしてるやつには後悔させろ」。

 

ドイツ生活で学んだのは、外国人と付き合う、外国人として付き合うときに1番大事なのは、言語力でも相手の文化へのリスペクトでもなく、「なめられないこと」。

下に見ている相手の言語を学ぼう、文化を知ろう、リスペクトを持とう、という人はいないから。

 

だから「どうしたら理解してもらえるか」よりも、「なめられないように毅然とした態度で対応する」ほうが、よっぽど大事なのだ。

 

 

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【登壇者紹介】

安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
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(2025/6/2更新)

 

 

 

【著者プロフィール】

名前:雨宮紫苑

91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&写真撮影もやってます。

ハロプロとアニメが好きだけど、オタクっぽい呟きをするとフォロワーが減るのが最近の悩みです。

著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)

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ブログ:『雨宮の迷走ニュース』

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