特殊な才能なのかどうかは分からないが、面接の極めてうまい人がいる。私が知る限りだけでも、5,6人いる。彼等が採用した人物は、ほぼ間違いなく、「会社に入ったあとも活躍できる」人物だ。
だから、経営者も彼等には安心して面接を任せられる。
そんな「きちんと結果を出せる面接官」に共通しているのが、面接している相手をほとんど緊張させない、ということだ。
これは決してオーバーな表現ではない。「本当にこれは面接なのだろうか?」と思ったほどだ。
面接は終始和やかな雰囲気の中で進行し、学生の「生活」を語ってもらうような質問をする。
特別に変わった質問をしたり、頭の良さを試したりするような質問はしない。回答の早さを問うこともしない。
ただ学生と、「会話」するのだ。
そして、そういう質問であれば、学生からも「テンプレートの」回答は帰ってこない。皆、違う人生を送ってきたからだ。
「なぜ、今の学部を選んだのですか?」
「大学に合格した時、どんな気持ちになりましたか?」
「今の研究は楽しいですか?」
「どういったところが楽しいですか?どんな結果が出たら、「成果が出た」と思いますか?」
そういった、ごくふつうのことを聞く。
そして、当たり前だが、学生からは「普通の」答えが帰ってくる。
結果として、面接は以下のような塩梅となる。
「なぜ、今の学部を選んだのですか?」
「コンピューターに興味があって、自分でもいろいろとプログラムを作っていました。その延長で決めました。」
「確かに、プログラムは面白いですよね。でも、他の選択肢は考えなかったのですか?」
「…」
「いや、ゆっくり考えてもらっていいですよ。急ぎませんから。」
「…。そうですね…、正直に言えばそこまで深くは考えませんでした。当時の私は、「大学に入ること」のほうが、「何をやるか」よりも重要だったと思います。あまり良くないことだったのかもしれません。」
「今はどうですか?」
「物理を勉強してみたかった、と言う思いは今もあります。」
「おお、物理ですか。どんな分野で?」
「素粒子や、天体の力学などです。」
「いいですね、たしかに面白そうです。私も素粒子の研究をしようと思っていた時期がありました。」
「あ、そうなんですか?」
「そうですよ。当時は最先端でしたからね、でも、結局プログラミングをやったんですよね。」
「そうです。」
「どんなものを作りましたか?」
「いやー、簡単なものが多いですけど、電卓とか、簡単なおえかきツールとか、そんなのです。」
「電卓って、つくるのは簡単なんですか?」
「まあ、どんなものをつくるかによります」
「どんな機能のものを作ったんですか?」
「あまり高性能ではないですが、◯◯、◯◯、◯◯、それくらいでしょうか…。」
「◯◯ですか、面白いですね。実際に作るとき、どういう部分が難しかったか、聞かせてもらえないですかね」
■
一昔前は、「リクルーター」と言う制度がかなり活発だった。
概ね、以下のようなものだったと記憶している。
いきなり大学のOB・OGから電話がかかってきて、「食事でもしないか」と誘われる。
普通に会話して、今やっていることや、就職についてどう考えているかを聞かれ、その日は終りとなる。
「なんだったんだろう?」と思っていたら、また電話がかかってきて、「どっかでお茶でもしない?」と聞かれる…。
気づくと、「実は選考だった」と後から知る、というわけだ。
この制度の良い所は、「学生の素の状態」を会社がよく知ることができる、という点だ。それと何か、共通したものを感じる。
■
しかし、なぜこのような「会話」をするのだろうか。
彼等の一人によれば、「素の相手」を見たいからだそうだ。
「面接の時に、学生を緊張させてしまうような面接官は、二流ですよ」
と、彼等は言う。
「いいですか、緊張でガチガチになっている相手から引き出せる情報はせいぜい、「緊張に強い人かどうか」だけです。普段の仕事をそんな状態で行う人はいない。まあ、営業職の採用などでは一部そういう素質を見たりすることもありますが、それが全てではない。」
たしかにそうだ。
「また、我々はテンプレートの答えを求めているわけでもない。せいぜい、「面接対策をしてきたな」という情報が引き出せるだけです。」
「なるほど。」
「その人がどれほど深く物事を考える人なのか、知識の獲得に対する態度はどうか、どんなシチュエーションで何を考えるか、そういった普通の会話の中からしか、その人を判断する事はできません。もちろん、一緒に働けばそういったこともわかりますが、面接でそれを引き出すためには、できるだけ「普通の状態」に近づけてあげる必要があるのです」
「どうやってですか?」
「回答を急かしたり、一方的にこちらが質問したり、そういったことはしません。自分のことを話したり、相手の中で答えが出るまで待ったりします。極力双方向になるように。」
「会話のキャッチボール」と言う言葉を思い出した。
なるほど、面接も同じなのかもしれない。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
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