優れた技能やスキルの習得できるかどうかの本質は、「人より多く時間をかけたかどうか」である。
あるところに技術者がいた。
彼はトップクラスの腕前を持ち、社内外で尊敬を集めていた。そしてなぜあのように生産性の高い開発ができるのか、皆はその秘密を知りたがった。
あるとき、若い技術者たちは彼のもとに行き、「あなたのように早く開発をするための秘訣を教えて下さい」と頼み込んだ。彼は快く応じてくれ、「勉強会を開く」と約束した。
後日開かれた勉強会には、新人や若手が数多く詰めかけた。皆、彼が「どんな優れたノウハウを用いているのか」を期待して集まっていた。彼は「自分がやっていること」をまとめた数枚の資料を参加者に渡し、皆に向かって言った。
「ここに書かれていることをできるようになるまで練習してください。」
そこにはいくつかの基本的な処理、関数の使い方、設計のコツなどが書かれていたが、特に目新しいものではなかった。
皆は口々に言った。
「こんなこと知ってます」
「もっと、役に立つことを教えて下さい」
「前に習いました」
それを聞き、彼は言った。「では、これ以上教えることはありません。」
彼は皆に向かって言った。
「結局のところ、スキルを上げたいならばたくさん作るだけです。」
ある若手が言った。「でも、出来るだけ効率よく技能を身につけたいんです」
それに対し彼は言った。
「たった3日で身につけたことは、皆が3日で身につけられる。結局のところ、技能の向上の方法は人それぞれ、自分で見つけるしかない。結局のところ、人より絵がうまくなりたかったら絵を人よりたくさん書くしかない。」
「でも…。」
「いい曲を作りたければ、人よりたくさん曲を作るしかない。効率のよい方法はあるかもしれませんが、だからといって技能の向上に必要な時間が3年から1年になることはない。」
「…。」
「今日から毎日1時間練習すれば、1年後には何もやっていない人よりも365時間分、高い技能を身につけられる。10年なら4000時間近く。これはもう絶対に追いつかれない。それが、「卓越する」ということです。」
私は長らく、様々な企業向けに研修を提供していた。もちろん研修で提供したノウハウや考え方は、それなりに練られたものではあったので、研修の満足度も、9割を超えることが普通であった。
しかし、仕事で実際に成果を出すことに貢献できているかどうかはまた別の問題である。追跡調査をすると、「研修で習ったことを実行した人」は、約2割。これが現実の数値である。
だが、その2割の方々は、「技能の向上」を確実に実感していた。
結局のところ、仕事の能力を向上させるには近道はなく、時間をかける他はない。それは、最近では嫌われがちな「下積み」がどうしても必要であるということを如実に示している。
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