私は、夏休みに開かれた同窓会に出席し、古い友人たちと久しぶりの再開を楽しんだ。もう永く会っていない友人たちも多いが、たまにはこういうのもいいものだ。
そのうちの一人の仲の良かった友人が、飲みの席で私に言った。
「今、40になろうとしているときに初めて、自分の人生を本気で考えたんだよね。今までの人生は、一体何だったんだろうな。」
彼は、高校の時からよく勉強ができた。彼は他の人にはないものを持っていた。「才能」と言うべきなのだろうか。
数学、語学が特に得意であり、彼に苦手な科目は無かった。だから、学校推薦によりいともたやすく一流大学への切符を手にした。
彼にとってそれは特別な努力を必要とすることではなく、「普通のこと」だったのだ。
大学の4年間、彼はトップの成績をさしたる苦労もなくキープし、希望の研究室に入った。傍目から見れば彼はいわゆる「イケてる大学生」だっただろう。勉強だけではなく様々な人脈を作り、サークル、ボランティアと精力的に活動した。
彼はまもなく、研究室の教授とOBの信頼を勝ち取り、就職活動をほとんどすることなく7社の内定を獲得。人気の業界のトップ企業に入社した。
仕事を始めてまもなく、彼は大学時代から付き合っていた彼女と結婚し、子供が生まれ、そして家を買った。大きな一戸建てだ。彼の家に遊びに行くと、そこにはまさに幸せがあった。人生は順風満帆であった。
「そんな羨ましい人生の、どこが不満なんだよ」と私は彼に言った。
彼は言った。「いや、不満ということではないんだが…」
近くの席に座っていた別の友人が、彼をからかうように言った。「俺なんか、留年した上、就職活動も失敗してとんでもない企業に入っちまった。おまえがそんなことを言うのは単なる嫌味だぞ。」
彼は、しばらく黙っていたが、やがてポツリと言った。
「俺は、自分で何一つ選んでこなかったんだよね。」
「どういう意味だ。」
「勉強をやったのも、大学に入ったのも親から言われたからだ。サークルも人に頼まれたからで、自分が特にやりたかったわけじゃない。もちろん就職先もOBからの強い勧めで選んだだけだ。結婚も、家を買ったのも、すべて妻と両親からの勧めだった。」
彼は言った。
「自分の生きてきた人生は一本道だった気がする。」
私はそんなことない、と言いかけたが、なぜかそれを言うことができなかった。
「俺は、自分で選択したものを持ちたかった。自分で決めてみたかった。でも、40になって思う。多分それは俺には無理なんだって。そして、思うんだ。それほど稼いでなくても、学歴なんかなくても、「自分で決めてきた」という自信がある人は、幸せそうだ。」
彼は40で「不惑」どころか、「初めて惑う」事になったのだ。私は彼と再会を約束した。別れ際に彼は言った。
「お前は、自分で決めてきたのか?」
「多分ね。」
と、私は言った。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
・筆者Facebookアカウント https://www.facebook.com/yuya.adachi.58 (フォローしていただければ、最新の記事をタイムラインにお届けします)
・【大学探訪記】を始めました。
「研究が楽しい」「研究成果を知ってほしい」「スタートアップを立ち上げた」
という学部生、大学院生、研究者、スタートアップの方は、ぜひ blogあっとtinect.jp までご連絡下さい。卒論、修論も歓迎です。ご希望があれば、当ブログでも紹介したいと思います。
【大学探訪記Vol.5】銀幕スターを通じて「戦後の日本人」を解き明かす
【大学探訪記 Vol.4】ベトナムの人材育成を支援したい!と、ベトナムに単身渡る女子大生
【大学探訪記 Vol.3】プロ野球に統計学を適用するとどうなるか?
・ブログが本になりました。
「仕事ができるやつ」になる最短の道
- 安達 裕哉
- 日本実業出版社
- 価格¥1,540(2025/06/12 13:52時点)
- 発売日2015/07/30
- 商品ランキング80,251位
(Photo:paojus alquiza)