ニュースによると、今日は中学受験入試の集中日だ。全体の7割の学校が、本日入学試験をするとのこと。

番組では受験への「過熱ぶり」が取り上げられていた。

 

特に東京においては中学校への入学資格を争い、多くの親が時間とお金を注ぎ込む姿は、地方の方からは滑稽に見えるかもしれない。

「そこまでしてやる価値はあるのですか」と疑問に思う方や、「結局、大学受験のためなら、高校で頑張ればいいのでしょう。」という方も数多くいる。

それも一理ある。

 

だが、「名門」と呼ばれる学校においては、優れた教育が施されていることもまた事実である。

親がその学校へ我が子を入れたいと思う最大の理由は「学歴」「大学受験対策」ではなく、「高い水準の教育」と言う人も多い。

 

だが「高い水準の教育」とはなんだろう。

実態があるようでいて、その実は何を持って高い水準の教育と言えるのか、ほとんどの人は具体的にはイメージできないのではないだろうか。

 

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少し前、あるテレビ番組で、荻窪の有名なラーメン店の特集が組まれていた。

その店は、創業60年余、変わらぬ味で、地元のみならず多くのラーメンファンに親しまれているという。

 

番組は、そのラーメン店の人気の秘密に迫るべく、様々な角度から検証をしていた。

スープ、麺、具材、接客……

 

私は何の気なしに、へぇ、老舗というのは、同じことを続けていればお客さんが来るんだから、強力なブランドはすごいのだな、と勝手に思っていた。

だが、店主のインタビューは、私の思い込みを簡単に覆した。

店主は番組の質問に対して

「変わらぬ味を守るため、味を変え続けています」

と答えたのである。

素晴らしい。私は驚嘆せざるをえなかった。

 

この話は、一見「老舗も努力しなければならない」という、安い話に見える。確かに老舗も努力する。それは皆知っているし、当たり前だと思っている。

しかし、驚くべきはそこではない。

 

私が驚いたのは、人間の知覚に関する考え方である。彼らは、「実際には変わっているもの」を「変わっていない」と客に知覚させているのだ。

これは大変に凄いことである。

 

インタビューによれば、

「変えてはいけない原点を守りながら、変化を繰り返し続けてきた」と店主は述べる。

つまり、彼らがやっているのは「本質は変えずに、届け方を変える」という、極めて難しい試みである。

 

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著名な教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏は、「名門校が行う、良い教育」について、ラーメン店の店主と全く同じようなことを述べている。

「時代が変わったのだから、教育も変わらなければいけない」は一見正論だが、取り扱いに注意が必要だ。確かに時代は変わっているのだが、人間の本質はそれほどに変わらない。人間の本質が変わらない限り、教育の本質も変えてはいけない。

(出典:東洋経済オンライン http://toyokeizai.net/articles/amp/101146

たしかに名門校と言われる学校も、時代に合わせて、その見せ方は変化している。

だが「変わること」がもてはやされる現在においても、名門校は「本質」を見据えた、振れない教育を行っている。

 

そして、これは「教育者」の重要な条件の1つだ。

例えば、ドラッカーと孔子、届け方は異なるが、「本質」は同じだという指摘がある。

東京大学の安冨歩教授は、「孔子とドラッカーの思想は似ている」*1と指摘する。

フィードバックなしには組織は決して作動しない。これは学習回路の開いた「君子」が存在しなければ、国家は存続が危ういと述べた「論語」と同じ主張である。

社会のあらゆる組織の根幹には「フィードバック」がなくてはならない。ドラッカーは二十数世紀前に孔子が唱えた「學而時習之」を、現代の組織運営に再発見した人物と言えないだろうか。

彼らは人間の本質を見据えつつ、時代に合わせたやり方で、思想を我々に届けている。

 

 

時代の変化が激しく、現代はそれに合わせて、働き方、生き方を柔軟に変えることが求められてきている。

それゆえに、逆に戸惑う人も多いだろう。

 

だが、「良い教育」は表層は柔軟だが、その根幹にある変わらず重要なことを確実に教えてくれる。

それは学歴などよりも、よほど価値があるものだ。

 

 

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