「稚拙な体育会系」に関してのツイートがちょっと面白かったので、紹介する。
「体育会系から排除されたオタクが集団作ったらさらに稚拙な体育会系を構築する」図は結構見てきたので過去味わった辛酸は忘れないように努めている。体育会だから、オタだからどうこうって事実は一切ないね。権力が発生したら人間簡単に同じことになる。むしろノウハウがないだけヲタのほうがひどい。
— メノコマキリ@WF5-15-1 ぬこパン (@menokomakiri) 2017年5月6日
このツイート主が述べる
「体育会系から排除されたオタクが集団を作ったらさらに稚拙な体育会系を構築する」
という現象が、普遍的かどうかはよくわからない。
だが確かに「権力の扱いが稚拙な組織」が存在するのは事実だ。
実際、権力は適切な取扱をされなければ容易に堕落し、構成員を不幸にする。
したがって、人が集まって「権力」が発生する場所には、必ず「マネジメント」の技術が不可欠であり、それなりに訓練された人物が上に立つ必要がある。
しかし、一方で「素人」がマネジメントをして、長く組織を維持しているケースもある。
それが、体育会系だ。
顧問や生徒など、全くのマネジメントの素人が組織を維持しているケースが殆どである。
したがって、「体育会系」には、様々なマネジメントの工夫が見られる。
故に、興味の中心は
「体育会系はどのようなマネジメントを行っているのか?」
「素人が作った組織と何がちがうか?」
である。
結論から言えば、ちがいは3つだ。
1.メンバーに共有された「わかりやすい目的」が存在する
マネジメントの第一歩は、組織の目的を定義することだ。企業で言えば「経営理念」のような存在である。
なぜこの組織が存在しているのか、なぜ我々は集結して事に当たるのか。
そういったことを明確にしておかなければ、組織は「音楽性の違い」によって空中分解する。
もちろんこれは企業でも例外ではない。
きちんと練られた「経営理念」のない企業は、経営者の私利私欲の道具となりがちであり、構成員は長く居着かない。
だが、体育会系は毎年人員が変わり、3年から6年も経てば全ての構成員が入れ替わる。
したがって、大半の体育会系では部の理念を
「苦しい練習に耐えて精神修養をすること」または
「大会で勝利すること」
といった、わかりやすい目的を掲げた部がほとんどである。
余談であるが、部活であっても今までとは異なる大きな成果を追求するのであれば、「部の目的」を再度、定義しなければならない。
野球部のマネジメントを題材として扱ったビジネス書「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」では、こんなエピソードがある
「つまり野球部をマネジメントするためには、まず野球部はどういう組織で、何をするべきか――を決めなければならないのよ
「ほほぅ。ふうむ……なるほど、それで『野球部とは何か?』って聞いたわけね」
「うん、そうなの。でね、これが決まらないと先へ進めないんだけど、それがさっぱり分からなくて……」
「野球部って、野球をするための組織じゃないの?」夕紀は、何気ない調子でそう言った。しかしみなみは、残念そうな顔をしながらこう答えた。「それが違うらしいのよ。『マネジメント』には、こうあるわ」
“自らの事業は何かを知ることほど、簡単でわかりきったことはないと思われるかもしれない。鉄鋼会社は鉄をつくり、鉄道会社は貨物と乗客を運び、保険会社は火災の危険を引き受け、銀行は金を貸す。しかし実際には、「われわれの事業は何か」との問いは、ほとんどの場合、答えることが難しい問題である。わかりきった答えが正しいことはほとんどない。(二三頁)”
「つまり、『野球をすること』というのは、ここでいう『わかりきった答え』なのよね。だから、それはたぶん違うと思うの」
逆に、素人が作った組織はこれが存在しない事が多い。サークルやバンド、同人などが、体育会系に比べて分裂しやすい理由はここにある。
彼らは「楽しいことを第一とする」を標榜していることが多いが、「楽しいこと」は個人の主観に大きく左右されるからだ。
例えば「困難を乗り越えて達成する」を楽しく感じる人と、「気楽にのんびり」を楽しく感じる人では全く相容れない。
また、組織が大きくなってくると、「楽しく」やるために、自分自身の支配欲を満たそうと動く人物が増え、メンバーの一部がそれを嫌って組織が分裂するパターンが多い。
2.理不尽でも「伝統」として慣習を出来る限り守る
体育会系には、理不尽な慣習が数多く存在する。例えば私が在籍していた部では「練習の帰りに炭酸飲料を飲んではいけない」というオキテがあった。
今思えばよくわからない慣習であり、試合のパフォーマンスとは無関係だろう。だが当時、殆どのメンバーはそれを律儀に守っていた。
反論しても「伝統だから」という理由でおそらく却下されただろう。
だが、なぜ体育会系にはそういった慣習が存在するのか。
おそらくこれは「素人がマネジメントしている」ことを補完する意味合いがある。
つまり「伝統」と言えば、人が言うことを聞いてくれる組織は、顧問やキャプテンがマネジメントに関して無能でも、なんとか機能させることができるのである。
多くの方が知るとおり、人の説得やルールの浸透はとてつもなく手間がかかる上、マネジメントの技術も必要とする。
そこで「伝統」という言葉を持ち出し、「理由はともかく守るべき事項」として、顧問やキャプテンの手間を省き、マネジメント能力不足を補うのである。
逆に、サークルや同人のリーダーが「人間関係に疲れる」とこぼすのは必然だ。
「伝統」が使えなければ、やること成すこと、調整や説得が必要となる。
そうした手間が、彼らを疲れさせているのである。
3.「年長者」に強力な権限を与える
体育会系は、先輩やOBなどに、体育会系は強力な権限を与えている。
サークルや同人にもこう言ったケースが見られないこともないが、体育会系の先輩やOBの権限を見れば、可愛いものである。
例えば、PL学園のエピソードである。
爆笑!ああ、体育会の青春 先輩から人生の「理不尽」を学んだ日々
「先輩がいる部屋では、常に緊張して息が詰まる。授業に出て初めて一息つけるんです。朝早くても、4時に先輩を起こすといけないから目覚ましも使えない。どうするかというと、目覚まし時計は時間になるとカチッと音がして、それから鳴り始めますよね。そのカチッという音で飛び起きるんです。目覚ましを抱いて寝て、カチッ、ピタッと」
全体練習後、寮から学校まで約3kmの山道を、1年生は全力で走って寮に戻る。最後の3人は〝ベベスリー〟(ベベは関西弁で最下位の意)と呼ばれ、先輩の〝パシリ〟(使い走り)として「おい、飲み物買って来い」となるからだ。
「これで帰りが遅れると、共用の台所や洗い場が混んで調理と洗濯ができず、睡眠時間がどんどん削られる。1年生は、寝る時間を確保するために毎日競争を強いられるんです。
試合のときだけは、先輩のプレッシャーから解放されて、何より『これだけやって負けるわけがない』と思っていました。5万人の観客より一人の先輩の方が怖かったですもん。他の高校はガチガチに緊張してますから、それが強さにつながっていたんでしょうね」
(現代ビジネス)
しかしなぜ、体育会系は上下関係にここまでうるさいのだろうか。
それはもちろん「効率の良いマネジメント」に、上下関係が有用だからだ。
本来、最も理想的なマネジメントは、「本人のやる気を引き出す」ものである。
だが、キャプテンや上級生といった、10代、20代のマネジメントの素人に、それを求めることが合理的だろうか?
おそらくそうではない。
キャプテンや上級生が、その技術を身につけることを待っていては、任期の1年はあっという間に過ぎてしまう。
したがって、次善策として有効なのは「恐怖によってマネジメントする」ことにほかならない。
メンバーが理不尽を受け入れてさえくれれば、上級生のマネジメントの稚拙さはカバーでき、部全体としての意思決定が致命的に遅れてしまうことをカバーできる。
サークルや同人はこれが難しい。
「たまたま」その世代のリーダーや上級生に、マネジメントの技術に長けた人物がいればよいが、恐怖によって人を動かすことができない以上、どうしても意思決定には時間がかかる。
また、ルールの浸透や、規律の維持もどうしても甘くなる。
「短期で結果を出す」「マネジメントが素人」という環境においては、体育会系の方式のほうが有利なのだ。
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なお、余談だが企業で「体育会系」が好まれる一番の理由は、上に述べたように「マネジメントが楽だから」に尽きる。
「努力家が多い」や「困難を乗り越える力が強い」ではない。
だから、高度成長期にはもちろん、黙って言うことを聞いてくれる体育会系が最も良い人材だった。
だが今はどうか。
もちろん、「その会社のビジネスモデル」が何であるかに依るのだが、現在、世界のトップを走る会社を見ると、「黙って言うことを聞いてくれる」が、それほどのアドバンテージではないように感じる。
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