内閣府の調査では、全体の6割の人が「面白い仕事をしたい」と言っている。*1

だが、仕事を楽しくできている人は、それほど多くない。

 

性格の悪い上司のせい?

そうかもしれない。

経営陣が無能だから?

おそらく正しい。

 

だが、その実、この発言のように「会社が面白い仕事を用意すべき」と思っている人ほど、面白い仕事に出会える蓋然性は低い。

なぜだろうか。

 

*****

 

平均年収が800万円を超える、いわゆる「優秀層」から構成される、あるテクノロジー系の会社でのこと。

私も中途採用の面接に、面接官として参加していた。

 

ある一人の面接官が「志望動機」を聞く。

例によって「もっと面白い仕事がしたかった。」との話が求職者からあった。

 

すると、面接官の一人が、求職者にこう聞いた。

「なるほど、では「面白い仕事」の具体例を挙げていただけますか?」

この会社では、「面白い仕事」というキーワードが出てくると、必ずこのように聞き返すのがきまりだ。

 

すると回答は、能力の有無によって2つに別れる。

 

優秀ではない求職者は次のように言う。

「企画とか、マーケティングなどは面白かったです。」

「営業をやっているとき、お客さんに提案をするのは面白かったです。」

「クリエイティビティが発揮できる仕事が楽しいです。」

 

では、逆に「優秀である」とみなされる求職者は、どう回答するか。

「前のプロジェクトで◯◯という技術的な困難があったのですが、3名体制で取り組んで解決に当たったときの仕事はかなり楽しかったですね。」

「マーケティングを担当したのですが、最初何をやっていいかさっぱりで……。ただ、◯◯の前例を研究したり、◯◯さんに会いに行って知恵を借りていくと、だんだん結果が出てきました。それは楽しかったですね。」

「製品の構造決定で、注文通りやるとコストが高くなりすぎる箇所がありました。そこで、◯◯という工夫をこらしたのですが、この工夫が面白かったです。」

 

ちがいがわかるだろうか。

 

語られたエピソードが、「職種」「役職」についてのものだった場合、例えば、

・企画が楽しい

・営業は好き

・リーダーにやりがいがあった

といった発言の場合、この会社は彼を優秀とはみなさない。

 

それに対して、語られたエピソードの主眼が「自らの努力」と「課題解決の過程」にある場合、例えば

・こんな工夫をした

・こんな困難を解決した

・こうやって考えた

 

「どんな仕事でも、自分から面白さを生み出せるのは、とても重要なこと」

と面接官の一人は言う。

 

*****

 

幸福感や楽しさに関わる概念「フロー」を提唱したミハイ・チクセントミハイは、著書の中で「仕事をとことん、味わい尽くす人物」を紹介している。

以下に、要約をご紹介したい。

 

ジョーは、六十代の初めで、鉄道車両を組み立てる南シカゴの工場の溶接工だ。

彼は夏は猛暑、冬は過酷な寒さの、三つの巨大で薄暗い格納庫のような建物で働いていた。また、騒音がひどく、話をするには耳元で怒鳴らなければならないほどだ。

 

ジョーは五歳のときにアメリカにやってきて、小学校四年で学校をやめた。彼はこの工場で三十年以上も働いていたが、職長になりたいと思ったことはない。

彼はただの溶接工でいたいと主張し、数回の昇進の薦めをすべて丁重に断った。

 

彼はその工場の階層の最低のところにとどまっていたが、誰もがジョーを知っており、工場全体で最も重要な人物だと皆が考えていた。

なぜならば、彼は工場のすべての操業過程を理解しており、必要が生じれば誰とでも仕事を代わることができたからだ。

また、彼は工場で故障した機械類はすべて修理できた。

 

しかし、人々が最も驚いたのは、ジョーがそのすべての仕事ができるだけではなく、その仕事すべてをとても楽しんでいたことだ。

正規の訓練を受けていないのに、なぜこのような複雑なエンジンや装置の扱いを覚えたのか、と聞かれたとき、ジョーはこう答えた。

「たとえば、母親のトースターが壊れたときのように「もし自分があのトースターで、うまく動かなかったら自分のどこが悪いのだろう」と自分に聞くんだよ。」

彼は、発見の魅力に取りつかれていた。

 

だが、ジョーは仕事中毒ではなかった。

ジョーと妻は郊外にある質素なバンガローに住んでいるが、ある時家の両側の空き地を買い、そこに数百の花や低木を植えた石庭を作った。

その時ジョーは思った。「ここにスプリンクラーで虹を作りたい。」

 

ジョーは虹を作るのに十分な細かい霧を作ることができるスプリンクラーヘッドを探したが、満足できるものがなかった。

そこで彼は自分で設計し、地下室の旋盤でそれを作った。

 

しかし、ジョーの庭には一つ欠点があった。日没までに家に帰れないので、せっかくの虹を見ることができない。

ジョーは製図板に戻り、解決策を見つけた。

虹を作るのに十分なスペクトルを含んだ照明灯を見つけ、スプリンクラーの周囲に目立たないように設置した。

 

こうしてジョーは真夜中であっても虹を見ることができるようになった。

 

*****

 

主人公のジョーは「仕事の楽しみ方」を身につけている。

逆に、他の溶接工らは、自分たちの職場をできるだけ早く放り出すべき重荷と考えており、夕方に仕事が終わるや否や、工場の周りの酒場に散る。

プライベートの楽しみ方も、ジョーは創意と工夫にあふれているが、他の溶接工は「テレビ」と答えたそうだ。

 

ジョーは仕事の楽しさを「与えられている」のではない。

彼は自ら挑戦を作り出し、それを解決する能力を少しずつ高めることに、楽しさを見出している。

 

「自ら楽しみを作り出す」人材が、企業にとって最も望ましい人材であるのは言うまでもない。

彼らは、あらゆる場所で、仕事の楽しみ方を発見し、自らの能力を高め、困難に打ち勝つだろう。

 

結局のところ、「仕事の楽しみ」は主観に左右される。

会社は「面白い仕事」を用意できない。そこにはただ「仕事を楽しめる人」がいるだけである。

 

 

*1 http://survey.gov-online.go.jp/h24/h24-life/2-3.html

 

 

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(2024/3/26更新)

 

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