一昔前のこと。

ある営業会社の経営者から「みんな一生懸命やっているのに、今ひとつ成果が出なくて悩んでいる」との相談を受けた。

 

無論、一生懸命やるかどうかと、成果が出るかどうかはあまり関係がない。

正しい努力をしなければ、成果にはつながらない。

ただ、そうは言いつつ、私は個人的に「一生懸命やる人」に好ましい印象をもっていたので、経営者の求めに応じて、その会社の様子を見に行くことにした。

 

果たして、社長の言う通り、営業たちは一生懸命仕事をしていた。

中には朝早く来て、一心に仕事をし、夜遅くまで働いている人物もいた。

私は彼に「体は大丈夫なのか」と聞いた。

「大丈夫です、がんばります」と彼は言う。

 

ところが、肝心の成果を見ると、経営者が言うように、多くの人は、頑張っている割には、悲しいほど成果はあがっていなかった。

これだけ熱心に働いて、目標未達の者がゴロゴロいるのは、なにかおかしい。

 

そこで私は、なぜ彼らの成果があがらないのかを様々な角度から検証した。

予算は適切か、マーケットはどうなのか、商品はどうなのか、見込みの高いリードは得られているか……

 

だが、いずれにも収穫はなく、やはり「営業が原因である」との疑いは晴れなかった。

そこで私は、営業会議に出席したり、皆にインタビューを行ったりし、営業活動の現場の実態を把握すべく動いた。

 

 

そしていくつかの現場の様子を見て回ったある日、私はおかしなことに気づいた。

彼らは月次で予算と実績を対比し、その差異に基づいて行動目標を決めて実行していく、という方針のもとに動いていたが、その毎月の「行動目標」の値が現実離れして大きいのである。

 

例えば、営業マンのYさんは「8月は、新規顧客訪問50件を目指します」という。

だが冷静に考えると8月はお盆休みがあり、なおかつ現在抱えている案件のフォローが重要なのに、「50件訪問します」と申告しているのだ。

どう考えても、現実と乖離しているし、そんな行動目標を達成できるわけがない。

 

なぜ彼はそんな不可能な目標を掲げているのだろう?

私は不思議だった。

 

そこで、私はYさんに尋ねた。

「8月の新規顧客訪問数を50としていますが、眼の前の仕事もあり、営業日が20日弱しか無いのに現実的にどうやってこの数を回るのですか?どう考えても時間が足りないと思うのですが。」

「え、がんばります。」

「……ちなみに、先月の目標はいくつだったのですか?」

「先月も50です。」

「……んー、先月の実績はいくつですか?」

「訪問数ですか?ちょっと待ってください……」

彼は一生懸命手帳を調べて数を数えている。

 

私はリーダーに聞いたほうが早い、と思い、リーダーに尋ねた。

「Yさんの訪問実績を教えてください。」

すると、リーダーもいう。

「えーと、私も聞いてないです……」

どうやら、誰も実績値を知らないようだったが、ついにYさんが「わかりました」と言った。

「6社です」

「……50社目標で6社ですか?……なるほど。よくわかりました。」

 

聞いてみると、実態はお粗末なものだった。

営業たちは上司が納得するように、とにかく行動目標を高く掲げさえすればよく、肝心の実績や効率は全くと言ってよいほどチェックされていなかったのである。

 

どおりで成果が出ないはずだ。

言うなれば彼らは「結果を出すより、頑張っているように見せる方が重要」という価値観のもとに動いていたのだ。

だから無駄に会社に残る。忙しいように見せる。

その実、何も営業の数字に貢献するような活動はできていない。

 

もちろんこれは部下の責任ではない。

それを上司が良しとしているのだから、100%上司の責任だ。

 

そして私も、「一生懸命やる人が好き」だった、自分を恥じた。一生懸命やるかやらないか、そんなことは結果が出なければどうでも良い話なのだ。

 

私は社長に実態を報告し、「数字に繋がる活動」だけを残し、数字につながらない活動は全てやめさせた。

もちろん、半年を待たずに皆の数字は劇的に改善した。

 

 

なぜこんな話をするかと言えば、つい先日こんな記事をみたからだ。

ある中学校の先生の話だ。

 

その先生は「過程ではなく、結果にこだわる」方だった。

だが、他の先生は「結果」よりも「見せかけのやる気」を評価していた。

 

もちろん、きちんと結果を出すよりも「見せかけのやる気」を見せるほうが遥かに楽だ。

だから、「見せかけのやる気」を評価して欲しい生徒や保護者から、その先生は大変に不評を買った、という話だ。

嫌われていたいい先生の話

T先生の「未来のないポイント稼ぎを嫌う」現実主義・結果主義は、そういう「お金を稼ぐとは」という現実から形成されていた気がする。

 

ノートを綺麗にとって「許してもらおう」と思うな、さっさと強くなれ。

言葉で偽って「勘違いしてもらおう」と狙うな、さっさと強くなれ。

「頑張ってるのにうまくできないね、かわいそうだね」と同情を目指して歩くな。さっさと現実的に強くなれ。

 

きっと、T先生がずっと言っていたことは、たぶんそんな感じだと思う。

私は、この著者の主張通り、中学生から「結果重視」をキチンと教えることは、良いことだと思う。

実際、おとなになってもそれが身についていない人は数多くいる。

 

例えば、計画だけは立派なEさん。

あるいは、上司の目に入るように仕事をするだけで、全く結果を出せないMさん。

皆が集まる会議でもっともらしく意見を言うのだが、全く実行しないOさん。

 

彼らはいずれも、「結果を出すより、頑張っているように見せる方が重要」という世界の住人だ。

 

もちろん「結果が出ないこと」を単に責めるのは間違っている。

結果は運の要素も強いし、頑張っているけれども結果が出ないこともよくある。

 

しかし、それを悪用して「結果を出す」よりも「頑張りを見せる」方が重要、という価値観の元に永くいると、人は腐ってダメになってしまう。

 

そんなことを、嫌われていた先生の話を読んで、ふと思い返した。

 

 

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安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
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(2025/6/2更新)

 

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