インターネットの登場で、「どこに住むかは、あまり重要でなくなった」とする識者、論者が数多くいる。

彼らは「インターネットさえあれば、どこでも稼げる。どこでも仕事ができる。」と述べ、中には地方移住を強く勧める人もいる。

 

もちろん「どこに住むか」はその人の価値観によって大きく満足度が異なるため、一概に「地方が良い」「都会が良い」などということはできない。

究極的には、「住」に何を求めるかは人それぞれだからだ。

 

だが、最近の研究によれば、

こと「お金」と「面白い仕事」がほしいのであれば、間違いなく都市、さらにその中でも「イノベーション産業」が集積する都市に住むべきであるとの結果が出ている。

片田舎に住んではいけないし、旧来型の製造業が主体となる都市でもダメだ。

 

カリフォルニア大学バークレー校の都市経済学教授、エンリコ・モレッティは、著書の中で次のように述べている。

トーマス・フリードマンはグローバル化をテーマにした著書『フラット化する世界』(邦訳・日本経済新聞出版社)で、携帯電話、電子メール、インターネットの普及によりコミュニケーションの障壁が低くなった結果、ある人が地理的にどこにいるかは大きな意味をもたなくなったと主張した。(中略)

もっともらしい議論だが、データを見るかぎり、現実の世界ではこれと正反対のことが起きている。

 

例えば、エンリコ・モレッティの研究によると、アメリカにおける

・上位都市=高技能の働き手が数多く居る都市

・下位都市=高技能の働き手が少ない都市

の比較において、

「上位都市の高卒者は、下位都市の大卒者よりも年収が高い」

という逆転現象が発生している。

職務経験、教育レベル、IQ(知能指数)の違いを考慮に入れて比較をおこなっても、年収の格差は同じように存在する。要するに、働き手の資質自体にはあまり大きな違いがない。違うのは、その人が働いている地域の経済のあり方、とくにその地域の高技能の働き手の数なのだ。

もちろん、上位都市は住宅コストが高いため、生活水準が劇的に上がるか、といえばそうではない。

だが、低技能労働者であっても、住宅コストの安い、上位都市の郊外に住むことで十分な恩恵をうけることはできる。

 

なぜ給与において、低学歴>高学歴の逆転現象が発生してるのか

では、一体なぜこのようなことが起きているのか。

 

エンリコ・モレッティは、「根本の原因は、機械装置ではなく、「人の能力」が主体となる産業の勃興」と位置づけている。

フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOは当時述べている。「本当に飛び抜けた人材は、まずまず優秀な人材より少し優れているという程度ではない。一〇〇倍は優れている」

ザッカーバーグの言葉が象徴しているように、イノベーション産業の台頭にともない、優秀な人材の価値が大きく高まった。

企業がどのくらいの経済的価値を生み出せるかが、これまで以上に人材の質に左右されるようになったからだ。

二〇世紀の企業間の競争は、基本的に生産設備などの物的資本の獲得合戦だった。

しかし今日、競争の帰趨は、優れた人的資本の持ち主をどれだけ引きつけられるかで決まるようになった。

 

40年前は「豊かな地域」は、物的資本を豊富に持っている都市だった。

だが現在は違う。個人の給与金額に大きな影響をおよぼすのは、物的資本ではなく、「人的資本」=「有能な人々」である。

 

教育レベルの高い住民が多い都市は、その都市で住民が就くことのできる仕事の種類が増えて、労働者全体が稼ぎやすくなる。

その結果、高学歴の働き手のみならず、低学歴の給与も高くなる。

つまり「トリクルダウン」が都市単位で発生しているから、都市間の比較において、低学歴>高学歴の逆転現象が発生するのである。

 

また、モレッティの指摘によれば、

・教育レベルの高い同僚と一緒に働くと、高い技能を持たない人たちの生産性も高まる。

・教育レベルの高い働き手が居ると、企業が新しい高度なテクノロジーを導入しやすくなる

というメリットがあり、高技能労働者と低技能労働者は補完的な関係になれるのである。

例えば、高技能労働者を相手にするような上位都市のサービス業(マッサージやヨガ教室 etc…)は、下位都市のサービス業より効率的なオペレーションを求められるだろうし、「スマホで予約」など、新しいテクロジーを顧客が使いこなせていれば、より生産性の高いサービスを提供できる。

その結果、低技能労働者の給与水準も高くなる、というわけである。

 

「能力ある人」は集まることで更に能力が倍加される

「能力ある人」は集まることで、更に能力が倍加される。

なぜなら、アイデアの本質は「組み合わせ」であるからだ。モレッティはその様子を次のように述べている。

ノーベル経済学賞受賞者のロバート・ルーカスは一九八八年の有名な論文で、知識の伝播はときとしてきわめて大々的なものになり、長い目で見れば、それが豊かな国と貧しい国の格差を生み出す要因になりうると主張した。

ルーカスによれば、人と人が交流すると、その人たちはお互いから学び合う。その結果、教育レベルが高い仲間と交流する人ほど生産的で創造的になる。教育レベルの高い人に囲まれているだけで、経済的な恩恵を受けられるのだ。

多様な深い知識と知見を持つ専門家が集まる街は、それまでにない「組み合わせ」が発生する可能性が高くなる。

さらに、それを見た高技能労働者があつまり、さらなる組み合わせが生まれる……

 

ポジティブ・フィードバックによって、特定の都市のイノベーションを起こす能力が飛躍的に高まるのである。

 

また、高技能の労働者にとって、労働市場は大きければ大きい程よい。

なぜなら、「マッチング率」が高まるからだ。

労働市場は、交際相手探しサイトと似ている。規模が大きいほど、双方が相手を見つけやすく、理想に近い相手と巡り合える確率が高い。

たとえばあなたが特定の遺伝子組み換え技術を専門とする分子生物学者で、そのテクノロジーを必要としているバイオテクノロジー企業を探しているとする。

多くのバイオテクノロジー企業が集まっているボストンやサンディエゴのような都市に行けば、あなたの専門技術を必要とし、それに金を払おうという企業が見つかる確率がほかの都市より高いだろう。

ポートランドやシカゴのようにバイオテクノロジー企業が少ない都市では、自分の専門技能にぴったりとは言えない就職先でよしとせざるをえず、結果としてボストンやサンディエゴより安い給料で妥協する羽目になるかもしれない。

どの都市で就職するかという選択によって、キャリアの道筋が大きく変わってくるのだ。

マッチング率が高ければ、当然高技能労働者はその都市に集まる。

また、それを求めたイノベーション産業の良い雇用をもった良い会社も、またその都市に集まる。

 

こうして、「勝ち組」の都市は益々多くの高技能労働者をひきつけ、「負け組」の都市は上位層が次々と流出し、ますます没落していく、という図式が、現代の都市に起きている。

 

「都市格差」は、不可逆、不可避。

この「上位都市」と「下位都市」の格差は、広がる一方である。

三つのアメリカの社会的・経済的格差に関して最も衝撃的な点は、その格差が縮小することはないと予想できることだ。

実際、格差は拡大しており、そのペースは加速している。好調な州や都市はますます好調になり、低迷している州や都市はますます低迷するケースが多い。

日本においてはどうだろう。

まだ「製造業」が外貨獲得の主たる産業である日本においては、それほど目立った格差は出ていないかもしれない。

 

だが、「イノベーション産業」の育成は不可避であるし、現在の生活水準を日本が保とうとすれば、産業構造の転換は不可避である。

したがって、日本においても同様の「都市格差」が発生していくことは想像に難くない。

 

本来、低技能労働者は「高技能労働者」が集まる都市に移住するほうが良いのだが、統計によれば、学歴の低い層ほど地元に残る傾向が強いと言う。

したがって、今のままではおそらく「東京」と「その他の都市」の格差は、拡大する一方となろう。

 

なお、アメリカにおいては、この格差が「寿命」に大きな影響を与えている。

また上位都市においては「強者」同士がつながることでパワーカップルが生まれ、下位都市では「弱者」同士がつながることで貧困の再生産が起きている。

 

この格差はいずれ、社会的な分断となろう。

実際、アメリカはこの分断が「トランプ大統領」を生み出した。

 

*****

 

とかく「格差」は「学歴」や「能力」、ときには「意欲」などについて語られやすい。

だが真の格差はそういった個人の問題ではなく、「住む場所」に紐付いているものである蓋然性が高い。

 

「どこに住むか」は、人生を左右する問題なのである。

 

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