今の世の中は、「言語化する能力」が高い人が、有利に事を運べる。

とくに知的な仕事では、自分の思考を、他者に理解させ、そして動かす力が、とても重要だ。

 

要求を伝えること

アイデアを交換すること

組織や人のつながりを作ること

 

これらすべてにおいて「言語化能力」は、重要であり、「賢さ」の要件の一つであることは間違いない。

 

実際、かつて私が所属していたコンサルティング会社の組織長は、言語化能力の応用の一つである、「ネーミング」に非常にこだわっていた。

仕事のできる人が「ネーミング」に信じられない程こだわる理由。

人は、名前のないものについて、深く考えることはできない。逆に名前を生み出すことで、新しい概念についても考察できる。

だから、できる人はまず考察の対象の「定義」を考える。

そしてその定義に名前をつける。ネーミングは、思考の出発点だ。

時に、一つの様式の名前を決めるために、延々と数時間を費やすこともあった。

 

だが、ネーミングの仕事はいつも非常につらいものだった。

なにせ、「適切な言葉」が出てくるまで、ひたすら言葉を考え続ける、終わりの見えない作業だったからだ。

 

例えば、「中小企業向けのコンサルティング」のコンセプトに名前を付けたい、と言う話があった。

 

中小企業は大企業に比べてリソースが少ない。

だから、通常のコンサルティングの手続きである、綿密に調査をし、レポートを作って提案し、承認をとってチームを編成し、計画を立てて実行する……

という、コンサルティングの定石が、使えないのだ。

 

もっと早く、もっと簡単に、効果が出せるコンサルティングが必要とされていた。

そこで、組織の長は次のようにキャッチフレーズを作った。

 

「かんたん実行、ばつぐん効果、らくらく継続 の シンプルしかけの導入」

 

これを見て、「かっこ悪いー」「あほくさ」と、吹き出す方もいるだろう。

私も最初は、そう思った。

 

だが、驚いたことに、これは非常に優れた「言語化」であり、中小企業の経営陣にはこのフレーズが大いに歓迎された。

なにせ、理解にほとんど労力を使わなくてよい上に、リズム感もよかったからだ。

 

仮にこれが

「短期間での導入、高い費用対効果、低コスト運用 の 中小企業向けコンサルティング」

といった、「よく使われる言葉」だけであったら、これほどのインパクトはなく、かつ説明も簡単ではなかっただろう。

 

こうした話は、どんな仕事においても同様にみることができる。

 

 

ところが。

言語化は、仕事の超重要プロセスであるにもかかわらず、それを苦手とする人も少なくない。

 

特に「お偉いさん」や「できない人」の中には、「自分はイメージをなんとなく語るだけで、相手が勝手に言語化してくれる」という認識を持っている人を結構見かける。

要するに、手抜きだ。

こうした人は、そもそも「言語化する」という大きなコストを、周囲の人々に支払わせていることに気づいてすらいないことが多い。

 

繰り返すが、「言語化」は非常に高いコストがかかる。

それに気づかないことで、周囲との摩擦が絶えない人もいる。

大変、残念なことである。

 

例えば、かつて、私の周りにも、言語化がとても苦手な部下がいた。

例えば、提案書のたたき台を任せたときのこと。

こんなやり取りがあった。

 

「すいません、質問があります。」

「どうぞ。」

 

「自分が所属している部門のことばかり考えている、と言うのが問題にしたいのですが、いい表現はないですかね。」

「どんな表現を考えたの?見せてもらえる?」

 

「すいません、何も思いつかなくて……」

「何も?本当に?」

 

「えー……。」

「他の人にやらせようとするんじゃなくて、まずは何でもいいから案を出さないと、嫌がられるよ。」

 

彼は結局その後、5、6個ほどの案を出してきた。

だが、本来であれば「人に聞く」前に、自分で案を出すべきだっただろう。

 

「なぜ案を出さずに持ってきたのか」と後で聞いたが、「気づかなかったです」と彼は言った。

これは一種の知的怠惰であり、私が所属していた会社では、許される態度ではなかった。

 

だが、彼が「言語化が苦手だ」と思っていることは、仕事ぶりからよくわかった。

 

 

では、彼のようなケースは、いったいどうすればよいのだろうか。

 

考え方としては「言語化」は、「あいさつ」とよく似ている。

「こうすればできるよ」というノウハウが役に立つこともあるが、本質的には「習慣」に依存する力だからだ。

 

例えば、朝、同じマンションの住人と顔を合わせたとき、知らない人であっても「おはようございます」と言ったほうがよいことは、誰でも知っている

しかし、実際に「おはようございます。」と言える人はそう多くない

実践できるのは、普段からそれを習慣にしている人だけだ。

 

言語化も同様だ。

つまり「言語化は、習慣と実践の産物である」と認識した人のみが、身に着けることができる力である。

 

すなわち「言語化しなければならない」と感じたことに対して

・書き出すこと

・辞書を引くこと

・寝かせて推敲すること

・人に見せて意見をもらうこと

という、極めて単純な行為を、繰り返し実践した人だけが、身につけられる。

 

したがって、私は会社の方針にしたがい、部下の彼に

「まず自分で言語化を試みよ」

という負荷をかけた。

 

そうしないと、彼はいつまでたっても、自分の要望や案を「言語化」する作業を、外部に頼るようになるからだ。

それは「生み出す側」ではなく、「消費する側」の態度であり、仕事の態度ではない。

 

 

もちろん、案を出してきた彼に対しては、

「~と言うことですよね?」と上司が対話で言語を引き出してあげることもせねばならない。

人に見せて意見をもらうことはとても重要なプロセスで、語彙も増える。

 

しかし、トレーニングと言うのは、本質的には受け身ではダメだ。

知的労働をする会社であれば、少なくとも「まず自分で言語化を試みる」という、カルチャーを作る必要があるのだ。

 

 

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【著者プロフィール】

安達裕哉

元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。

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