コンサルタントをやっていた時、「この人、コンサルタント向いてないよなあ」という人が何人も中途で転職してきた記憶がある。

 

例えば「本を1か月に10冊読む」という課題をやらない人。

いつも時間ギリギリにしか行動せず、重要な会合に遅刻する人。

自社の「目標」の達成度合いを気にせず、お客さんの成果にも無関心な人。

 

別の仕事や、前の会社では許されたかもしれないが、たいてい「コンサルタント」としてはうまくいかない。

 

私が在籍していたコンサルティング会社は、上のような「問題行動」には非常に厳しく、該当者には「コンサルタントとしての活躍は難しい」と、はっきりと告げていた。

 

「勤勉さ」は身につかない

こうした事例を何度も見るにつけ、私は

「勤勉さ」

「時間を守る」

「目標遵守」

などの行動特性は、たとえ厳しく注意をしても、ほとんど身につかないか、改善したとしても、結局一時的なものにとどまる、という事を知った。

 

また、私が会ってきた有能なマネジャーたちも、

「もっとヤル気出せよ」

「社会人として時間を守ることは常識」

「成長しないとダメだぞ」

といった「説教」をしない人ばかりだった。

 

彼らは、人の「意識」や「意欲」を変えることが、ほとんどすべて徒労に終わることをよく知っていた。

またそもそも、人の根幹を変えて、パフォーマンスを上げようとは微塵も考えていなかった。

 

彼らはルールを変える、ツールを与える、あるいは前述したように人の配置や仕事を変える、といった、「人以外の要素」を変えることで、その人のパフォーマンスを改善しようとしていた。

 

実際、コンサルタントがダメでも、セミナーの講師やテキスト開発など、べつの仕事に生きる道はあるのだ。

 

 

個性(パーソナリティ)は遺伝による性質で、変えられない。

しかし、「なぜ人は変わらないのか」については、私には今まで、根拠がなかった。

また、世の中には「変えることもできる」という主張もあり、私の力不足なのだと思う事もあった。

 

だが、つい先日、「なぜ人を変えることができないのか」について、非常に貴重な知見をもらった。

 

慶大教授の安藤寿康によれば、行動遺伝学の研究から「勤勉さ」「外向性」「開拓性」「神経質」「同調性」などの個性(パーソナリティ)は、遺伝による性質で、学習によって変えられるものではない、というのだ。

能力はどのように遺伝するのか 「生まれつき」と「努力」のあいだ (ブルーバックス)

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安藤は著作の中で、次のように述べている。

本書では「生まれつき」を「非学習性の心的機能」、つまり経験によって学習することができない心の働きと考えることにする。

神経質や外向性といったパーソナリティはこれに相当する。それらがなぜ学習されないといえるかといえば、前節で説明したように、これらには共有環境の影響がみられないからである。

パーソナリティは「学習」できない。学習できないものは「能力」ではなく、「非能力」とよぶべきだと、安藤は言う。

 

つまり、例えば「毎日~する」、といった「勤勉性」は、鍛えることができない。

 

安藤によれば、「特定の状況に置かれたときに、その状況に適応するために意識的にコントロールすることはできる」。

しかし、「その環境が変わってしまうと、もとの勤勉性のセットポイントに戻る。」し「繰り返しコントロールし続けることで、「勤勉性」が上がる」わけでもない。

 

遺伝的に勤勉性の高い人は、楽に勤勉性を発揮できる。

しかし、遺伝的に勤勉性の低い人は、勤勉性の発揮のために常に高い心的コントロールを常に要求されることになり、消耗する。

 

外向性などもこれに当てはまる。

外向性の高い人は、頑張らなくても他者ととコミュニケーションできるが、遺伝的に外向性の低い人は、常に心を消耗させながら、それに挑まねばならない。

 

安藤は「遺伝」によって決まるこのデフォルトの性質を「セットポイント」と表現し、次のようにまとめている。

たいがいの状況下ではセットポイントのあたりの値をとり、それよりちょっと高くしたり低くしたりする程度ならそこそこできるが、セットポイントからのズレが大きくなるほど、それは起こりにくくなる。

 

 

鍛えられないからこそ、採用は慎重に、かつ「意識に依存しない仕事の設計」を。

「勤勉性」を鍛えることができない以上、強く勤勉さの求められる職場では、同じことをしていたとしても、その人の持つ「遺伝的性質」によって多大な負荷がかかる人と、何の苦も無くできてしまう人の差がはっきりと出るだろう。

 

だからこそ、人の能力で回しているコンサルタントのような仕事の採用は慎重にせねばならない。

企業側も「適性検査」などを通じて、「職場に合わないパーソナリティを持つ人物」が誤って入社しないように、最新の注意を払わねばならない。

 

しかしそれ以上に重要なのは、「パーソナリティ」に左右されない仕事の設計をすることだ。

 

上述したマネジャーたちは、「意識」=パーソナリティ を変えるのが極めて難しいことだと知っており、徹底して適材適所を追求すること、つまり苦労せずにパフォーマンスの上がる仕事をさせることを重視していた。

 

あるいは「標準化されたツール」と「手順」の適用により、お客さんに提供するサービスに「抜け漏れ」がないような仕組みを構築していた。

 

ピーター・ドラッカーは、「人は組織のおかげで、強みだけを生かし弱みを意味のないものにできる。」と述べた。

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「意識は変えられない」ということを前提にマネジメントに取り組むと、景色はまた違ったものになる。

 

 

【お知らせ】
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第4回目のお知らせ。


<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>

第4回テーマ 地方創生×教育

2025年ティネクトでは地方創生に関する話題提供を目的として、トークイベントを定期的に開催しています。

地方創生に関心のある企業や個人を対象に、実際の成功事例を深掘りし、地方創生の可能性や具体的なプロセスを語る番組。リスナーが自身の事業や取り組みに活かせるヒントを提供します。

【日時】 2025年6月25日(水曜日)19:00–21:00
【ご視聴方法】
ティネクト本音オンラインラジオ会員登録ページよりご登録ください。ご登録後に視聴リンクをお送りいたします。
当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。

【ゲスト】
森山正明(もりやま まさあき)
東京都府中市出身、中央大学文学部国史学科卒業。大学生の娘と息子をもつ二児の父。大学卒業後バックパッカーとして世界各地を巡り、その後、北京・香港・シンガポールにて20年間にわたり教育事業に携わる。シンガポールでは約3,000人規模の教育コミュニティを運営。
帰国後は東京、京都を経て、現在は北海道の小規模自治体に在住。2024年7月より同自治体の教育委員会で地域プロジェクトマネージャーを務め、2025年4月からは主幹兼指導主事として教育行政のマネジメントを担当。小規模自治体ならではの特性を活かし、日本の未来教育を見据えた挑戦を続けている。
教育活動家として日本各地の地域コミュニティとも幅広く連携。写真家、動画クリエイター、ライター、ドローンパイロット、ラジオパーソナリティなど多彩な顔を持つ。X(旧Twitter)のフォロワーは約24,000人、Google Mapsローカルガイドレベル10(投稿写真の総ビュー数は7億回以上)。

【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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(2025/6/16更新)

 

 

 

【著者プロフィール】

安達裕哉

元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。

◯Twitter:安達裕哉

◯Facebook:安達裕哉

◯有料noteでメディア運営・ライティングノウハウ発信中(webライターとメディア運営者の実践的教科書

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