ある会社員の方から、仕事について相談があった。要約すれば、以下のようなものだった。

「今の仕事、労働時間が長い割には残業代も出ず、やりがいもありません。会社への不満ばかりがつのります。どうすればいいでしょうか?」

 

残業代が出ないことなどから、その方はいわゆる、法律違反を犯している企業に勤めている可能性が高いと思う。実際、採用の仕事をしていると「残業代が出ないので、転職を決意しました」という方が結構いる。

その方は、周りの人達にアドバイスを求めた所、両親も含めて一様に「嫌なら辞めればいいじゃない」と言われたそうだ。

まあ、そうなのだろう。そんな会社はさっさと辞めて、次のマシな会社を探したほうが良いのは間違いない。

 

しかし、その方は現実として、辞めずに未だにその会社で働いているのだ。そこで、私は「なぜ、さっさと辞めないんですか?」と聞いた。

 

その方はため息をついている。

そこで私は、「やめられない理由は何ですか?」と聞いた。

 

その方はこう言った。

「次が見つかるかどうか不安で…。なんとかウチの社長に法律を守ってもらう事はできないですかね。」

「弁護士や、労基署に相談しましたか?」

「いえ…。」

「紹介しましょうか?」

「いえ…。」

「では、私が何かできそうなことはありますか?」

「何とかならないでしょうか。もう少し待遇がよくて、仕事がきつくないところとか、無いですかね。」

「転職したいということでしょうか?」

「それでもいいです。残業がない会社がいいんですが…」

「うーん、全く残業がない、っていう会社はわたしもちょっと今すぐに心当りがないですね…。探しましょうか?」

「そうですよね…いや、いいんです。探してもらうだけムダですから。」

「転職活動をこれからするつもりですか?」

「ええ、まあ。でも、もう35歳を超えて、こんなスキルじゃ、雇ってくれるところなんて今と変わらないですよね。」

「…」

「いや、いいんです。諦めてますから。もうブラックで働くしか無いんですよ。」

 

私はその方になんと言えばよかったのだろう。よくわからない。明らかにその方は自信や自尊心を失っていた。

「辞めればいいじゃない」

という、周りの声は聞こえていない。

そういう方々には、「有用な」アドバイスも届かないし、「行動すればいい」という、真っ当な言葉も響かない。

 

その方が必要としていたのは、「アドバイス」ではなく、「肯定」なり、「愚痴を聞いてくれること」だったのかもしれない。

「自分から行動を起こすのが怖い」

「何をやってもムダだと思ってしまっている」

我々はそのような人々に、何か出来るのだろうか。

 

 

ある知り合いは、この話をした所、「自己責任」と切って捨てた。

「30すぎになって、そんなことでクヨクヨしているような奴は、結局転職しても同じさ」

またある方は

「そういう奴は、ブラックだろうがなんだろうが、職があるだけでマシだろう。「ブラック企業」が、「居場所」を与えていることは間違いないんでしょ?」

という。

確かに思い返すと、残念だがその方が転職活動をしたとしても、あの様子では雇ってくれる会社は、そう多くはないだろう。

結局のところ、現実的には「その方のような人々を誰が雇うのか」という話は、キレイ事では済まされないのだ。

 

ある経営者はこう言った。

「ブラック企業」にその責任を押し付けているのは、「ホワイト企業」だろう?

そういうやつを雇ってみりゃいいんだ。考え方も変わるぜ。

 

 

そして後日、私はその方に再び会った。

「その後、様子はいかがですか。」

「あいかわらずです。昨日もほんとうに大変でした。でも、一つだけいいことがありました。お客さんから「良い技術をもってるね」と言われたんです。それはうれしかったですね。」

「そうですか。転職活動は続けるんですか?」

「続けます。どこかが拾ってくれるまでやりますよ。」

 

人は、何で変わるかわからないものである。

 

【安達が東京都主催のイベントに登壇します】

ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。


ウェビナーバナー

▶ お申し込みはこちら(東京都サイト)


こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい

<2025年7月14日実施予定>

投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは

借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。

【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである

2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる

3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう

【登壇者紹介】

安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00

参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。


お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください

(2025/6/2更新)

 

筆者Facebookアカウント https://www.facebook.com/yuya.adachi.58 (スパムアカウント以外であれば、どなたでも友達承認いたします)