企業は基本的に「短期志向」である。1年単位で目標を設定し、その目標を達成すべく活動する。
3年から5年先の中期計画をたてる場合もあるが、ほとんどの場合それは達成されない。現実的には3年先のことを今日行う会社は殆ど無い。
「3年先のことは、2年半後から始めれば良い」と、ある会社の役員は言ったが、現場はそのように動いている。
短期志向が悪いわけではない。株主は気が短いので、3年後のあてにならない約束より、今日の確実な株価の上昇や配当を狙う。
また、経営陣も同様で年単位で評価される彼等は、今年の業績が悪ければ3年後は無いことを知っている。
「長期的な繁栄は、短期の繁栄の積み重ねで出来ている」とある外資系企業の経営者は述べたが、これは経営者の基本的な考え方を反映していると言って良いだろう。
これは、私が長いことコンサルタントをやってきた経験とも一致する。とにかく、企業は「気が短い」のである。
だが、真に優れた人物は、「どうあがいても、時間のかかることがある」と、知っている。
例えば人間の能力である。人間の能力は短期間にはそれほど大きく向上しない。短期どころか長いこと停滞の時期が続き、あるとき急にブレイク・スルーする。
子供の成績が悪いので、塾に行かせ、親も張り切って勉強を教える。だが、1ヵ月たっても、3ヵ月たっても成績が向上しない。親は「こんなに勉強させているのに、なぜ子供の成績が上がらないのか」と嘆く。
しかし、成績は半年、1年と地道な積み重ねの後に急に上昇するものだ。
短期思考の親は待つことが出来ず、「うちの子には才能がない」と諦めてしまう人も多い。気の毒な話である。
人間関係も時間がかかる。多くの人が知る通り、「明日から友達をつくろう」と思って簡単に作れるものではない。急に親しげにされても、相手は困惑するだろう。
友情を健全に育むには、信頼関係を少しずつ積み上げる必要がある。
良いウイスキーを創りあげるには10年以上の時間がかかる。中には20年、30年と熟成を重ねて創りあげるものもあり、多くの時間を必要とする。
「エイジング」と言われるその期間は、現在のところ人為的にこれを早めることはできない。
「ブランド」もこれを短期間で作ることは出来ない。老舗の本質的な偉大さは、「時を経て、なお評価され続ける」ということにある。
単に品質が良いだけ、単に有名なだけでは真のブランドとはいえない。多くの人は、「時の洗礼を受けたもの」を貴重で、重要だと感じるからだ。
テクノロジーも同じである。自動掃除ロボットである「ルンバ」を生み出したiRobot社は、今年ですでに創業25年。ルンバの開発には7年を要している。
短期間に急激に浸透したように見えるが、実態は非常に長い年月をかけた結果である。
また、電球を事業に実用化した、トーマス・アルバ・エジソンも、電球のフィラメントに適した素材を発見するまで、6000種類の材質による実験を重ねたという。
人間の能力は似通っている。それ故に、本当の差別化を行うためには「時間をかける」より他にはないことが、数多くある。
3ヶ月で得た知識やノウハウは、誰もが3ヶ月で手にすることができる。だが、あなたが5年かけて手にしたスキルや知識を3ヶ月で手に出来る人はいない。
もしあなたが得意なものを5年続けたら、それこそ追いつける人は誰もいないのである。
私が過去に訪問したある大手企業の経営者は私の「貴社の強さの源泉は何にありますか?」と言う質問に対し、
「そうですね、何事も時間をかけてじっくり取り組むことです」
と言った。
経営に必要なのは、「スピード」だけではない。むしろ、スピードを追い求めることで失うこともある。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
・筆者Facebookアカウント https://www.facebook.com/yuya.adachi.58 (スパムアカウント以外であれば、どなたでも友達承認いたします)
・農家の支援を始めました。農業にご興味あればぜひ!⇒【第一回】日本の農業の実態を知るため、高知県の農家の支援を始めます。
(Photo:Ramil Sagum)