結構前の話だ。

とある会社で、一人のマーケティング担当が辞めた。

 

彼はそれまで、その会社に存在しなかった

メディアを使ってリードを獲得する手法を駆使し、大量の成果をあげていた。

 

当初、その功績は経営陣たちから大きく評価された。

給与はアップし、大きなボーナスが彼に支払われた。

 

しかし、残念ながら、その高い評価は長続きしなかった。

なぜなら、彼の「だらしなさ」が、あらわになってきたからだ。

 

前の日にクライアントと飲み歩いて、次の日昼過ぎに出社する。

机の上は大量の書類で汚く汚れている。

 

彼の上司は彼に警告した。

遅刻はするな。机を整理しろ。

彼は「成果はあがっている。時間や机はそれと関係ない。」と言い張ったが、上司は彼に「態度を改めなければ減給する」と警告した。

 

彼は、結局それを断り、知人のスタートアップに転職した。

「今は、紙を使わないから机が汚れないし、出社自由だから、最高だよ」

と彼は言っていた。

 

 

数多くの評価(制度)を見てきたが、細かいことはさておき、企業における評価のやり方は大別して2つある。

 

一つは「そつなく、全てをこなすことが評価される」、つまり欠点がないことが評価される企業。

もう一つは「得意なことだけ評価される」、つまり、欠点には目をつぶる企業。

 

 

どちらの制度が優れているのか。

もちろん一概には言えない。目的による。

 

ただ、結論から言えば「問題を起こさないことが重要」な企業では前者

「とにかく成果をあげることが重要」企業では後者が多い。

 

 

全ての人間は「強み」と「欠点」を併せ持つ

このように言うと、「天才の欠点には我慢せよ」的な話でしょう?

と言われることがある。

 

全く違う。

そもそも、天才などほとんどいないし、天才に頼らないと成立しない組織は、ダメ組織である。

経営は「凡人しかいない」という前提で行わなければならないのが、現実だ。

 

その上で、凡人を活用するための鍵が、「欠点を気にしないことで、戦力化する」だ

例えば、以下のような人々は、会社で評価されるだろうか?

 

・社内では優秀なほうのプログラマーだが、服装がだらしなく、どうしても時間が守れず「遅刻」ばかりする人物。

・業界知識豊富なPR担当。記者の受けはよいが、納期にルーズで、約束を守らない人物。

・どぶ板営業で、新規顧客の開拓が得意な営業だが、事務仕事が苦手で、山のように未処理の書類を積み上げている人物。

・お客さんから評価されるデザインをするが、口が悪く、皆に嫌われている人物。

・事務仕事が素晴らしく正確なのだが、喧嘩っ早く、他の人との諍いが多い人物。

 

「欠点がないこと」が優先される企業では、たいてい、上のような人物は評価されない。

 

なぜなら、そのような企業での基本的な考え方は

「能力には最低ラインがあり、それは自助努力で克服せよ。」だからだ。

 

「仕事さえすればいい、じゃダメ」

「コミュ力上げろ。時間を守れ。」

「納期を守れ。」

「机と書類をきちんと処理せよ。」

「態度が悪い。」

そう言われても、優等生になれない彼らは、時に組織を追われてしまう。

 

しかし「得意なことだけが評価される」組織では、そういう「欠点」は全て、放置されるか、無視される。

 

もちろん、個人の「だらしなさ」などによって、仕事に支障があるときもある。

しかし、欠点は、他の人、あるいは組織が提供する仕組みによってカバーされる。

そうやって、「凡人」をなんとかして、戦力化する。

 

例えば、少し前のしんざきさんの記事でも「インフラの力」で、部下の弱みをないものにしていた。

「部下を育てる」ことを「部下の能力を上げる」ことだと勘違いしていた、という話

「あまり仕事が上手に出来なかった人」の行動を、インフラ整備の力でちょっとだけ変容させられたということは事実でして、これと似たようなことをひたすら繰り返すことで、その人が問題なく自発的にタスクを回せるところまではもっていけたんです。

その人の処理能力を上げられたかっていうと、多分実際そんなことは全然ないんですが。

インフラ整備によってちょっとした行動パターンの変容を起こして、タスク処理状況を改善出来た。

そういうちょっとした成功例です。

そのような考え方が主流の組織は「全ての人間は「強み」と「欠点」を併せ持つ。だから、強みは活かす。欠点は組織が補う。」という方針で制度設計がなされている。

 

だから「コミュ力上げろ」「遅刻を直せ」とは言わない。だって「プログラミング」が早くて品質も良いから。

「納期を守れ」とも言わない、だって「記者との関係強化」では成果を出せるから。

「書類をきちんと処理せよ」とも言わない。「新規開拓をガンガンやってほしい、書類はこっちでなんとかする」で良いから。

「態度を直せ」とも言わない。「皆から隔離して自由にやらせる」で良いから。

 

彼らに、欠点を直させるという、不毛な努力をさせるくらいなら、それについてなにも考えさせない。

欠点はどうせ治らない。

得意なことに邁進させるほうがずっと良いと、「得意なことだけが評価される」組織は考えている。

 

 

組織は何のためにあるのか

そもそも、なぜ人は組織で働くのか。

「組織が、強みだけで仕事できるようにさせてくれるから」だ。

個人営業の税理士は、いかに有能であっても対人関係の能力を欠くことは障害になる。だがそのような人も、組織にいるならば机を与えられ、外と接触しないですむ。

人は組織のおかげで、強みだけを生かし弱みを意味のないものにできる。

財務は得意だが、生産や販売は不得意という中小企業経営者は、大きな問題に直面することになる。しかし、多少なりとも大きな企業では、財務だけに強みをもつ者を生産的な存在にすることができる。

 

これは理想論でもなんでもない。

結局、企業は強みも欠点もない優等生だけ集めても、大した仕事ができないからだ。

「一つのことは圧倒的にできる。ほかは、からきし」という人をうまく組み合わせたほうが、圧倒的に優れた仕事ができる。

リンカーン大統領は、最高司令官の人選にあたって、グラント将軍の酒好きを参謀から注意されたとき、「銘柄がわかれば、他の将軍たちにも贈りなさい」といったという。

ケンタッキーとイリノイの開拓地で育ったリンカーンは、飲酒の危険は十分に承知していた。しかし北軍の将軍の中で、常に勝利をもたらしてくれたのはグラントだった。事実、彼を最高司令官に任命したことが南北戦争の転換点となった。

酒好きという弱みではなく、戦い上手という強みに基づいて司令官を選んだためにリンカーンの人事は成功した。(中略)

弱みに配慮して人事を行えば、うまくいったところで平凡な組織に終わる。完全な人間、強みだけの人を探したとしても、結局は平凡な組織をつくってしまう。

 

―経営者の条件(傍線筆者)

 

「どぶ板営業」は高学歴者が嫌がる仕事だが、世の中にはそれが得意な人もおり、それが得意な人がひとりいるだけで、会社の取れるオプションが増える。

「コミュ障」にあわせて、社内のコミュニケーションの仕組みを作れば、ほぼどんな人でも利用できる。

人前で話すのはダメでも、文章を書かせるとよいものができる人がいる。

 

「高学歴者」「男性」「中年」が大半を占める組織が硬直的になりがちなのは、結局のところ「強み」が画一的になりがちだからだ。

 

 

「得意なことだけ評価する」組織では頻繁に組織も仕事も変わる

だが、もちろん、そのような組織では、頻繁に仕事も地位も変わる。

人の「得意」はあまりにも多様で分かりにくいので、あれこれ試さねばならないし、「無理に改善させようとしない」からだ。

 

「君の強みと仕事が要求するものが違うようだ。」

「マネジメントできないようだから、管理職からは外す。」

「この仕事できるかどうか試しにやってみて。」

「3回トライして結果が出なかった。担当を変える。」

 

そう言う、ドライな部分もある。

 

しかしこれは「冷たい」わけではない。

・ある人物が、成果を上げられないのは、それを配置した上司の責任であること

・仕事をこなせない人を放置せず、すぐに動かすこと

これらを徹底した結果に過ぎない。

人事がうまくいかなかったときには、動かされた者を無能と決めつけてはならない。人事を行った者が間違ったにすぎない。

マネジメントに優れた組織では、人事の失敗は異動させられた者の責任ではないことが理解されている。

重要な仕事をこなせない者をそのままにしておいてはならない。動かしてやることが組織と本人に対する責任である。

仕事ができないことは本人のせいではない。だが動かしてやらなければならない。新しい仕事でうまくいかなかった者は、前職に匹敵する地位と報酬に戻してやることを慣行化すべきである。

―経営者の条件

「強みで仕事をする。得意なことをやってもらう」というのは、そう言うことだ。

 

さて、「優等生」を好む組織で働くか。

「得意なことだけせよ」という組織で働くか。

どちらが好みだろうか。

 

なお、個人的には、私は「苦手なこと」が多すぎるため、優等生が求められる組織に入るのは御免だ。

 

 

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