ある学生がいた。彼は自分がそれほど優秀でないことをよく知っていたが、「いい会社に入りたい」と、就職活動を頑張った。
彼が何を頑張ったかといえば「面接対策」だ。先輩や友人たちに実際の面接の状況を聞き、丹念に面接の練習を行った。
「所詮、面接なんてその場のノリと雰囲気、あとは面接官が喜びそうなエピソードを用意してあげればいい」
彼はそう言っていた。
友人たちはそんな彼を見て、「そんなゴマカシは通用しない」といったが、天性の口の上手さも有り、なんと彼は某有名企業の内定を勝ち取ったのである。
彼は喜んだが、彼のことをよく知っていた友人たちは「就活なんて、口のうまい奴が得をするんだよな」と半ばやっかみの噂をしていた。
彼はその会社に入社した。
数年後、ある会合で話をした時、彼は疲れていた。
様子を聞くと
「仕事がキツくて…。上司には詰められっぱなしだし、「出来ないヤツ」と言われます。同僚はできる人たちばかりで、この会社で成功できるイメージがありません。どうしたら良いでしょう?」という。
周りの人は「今からでも頑張って実力をつければいいじゃない」と優しい声をかけている。
たが、彼は「周りについていくだけでも大変」と言う。
「結局、結果を出したかどうかで測られるんですよね。会社って、入るのがゴールではなくて、入るのがスタートと言われていたことが、よくわかりました。」
「まだ諦めるのは早くない?」と誰かが突っ込む。
「そうなんですが…今の職場はきちんと仕事を教えてくれなくて、「センスが無い奴はダメ」って言われるんです。おかしくないですか?いつも人事の面談では、あれはダメ、これもダメ、と言われます。じゃあ、どうすれば良いんですか、と聞くと「そんなこと、自分で考えろ」と上司は言うんです。」
「当たり前じゃない?会社なんだし。」と誰かがまた言うが、彼は
「上司って、部下を育てるのが役割じゃないですか?」と反論する。
正直なところ、彼の実力に見合っていない会社に入ってしまったのだろう、と思う。
そこはもともとできる人ばかりが入ってくる会社だ。上司もいちいち彼に教えることはしないだろう。残念ながら、できる人に時間をかけたほうが全体のパフォーマンスが上がるからだ。
出来ない人にいちいち時間をかけたりはしない文化の会社に入ってしまったのだ。
結局彼はそれからまもなく会社を辞めた。上司から「お前は要らない」とプロジェクトを外されてしまったそうだ。事実上のクビである。
彼は言った。
「実力に見合わない会社に入っても、苦しいだけです。就職活動って、そういうことを学ぶ機会がなかったような気がします。見栄えの良い会社、年収の高い会社に入ることが目的になってしまっていた。」
「次はどうするの?」と聞くと彼は、
「しばらくは働きたくありません」と答えた。
実力に見合った会社を選ぶこと、それも大事なのだろうか。
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(文責-ティネクト株式会社 取締役 倉増京平)
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