企業も個人も、意思決定で最も難しいことの1つが、「やめる」ということだ。物事は、始めるよりもやめるほうが遥かに難しい。そういったことを数多くの現場で見た。
例えば、あるwebサービスの運営会社は、1年かけて作り上げたサービスが振るわず、毎月のように赤字を垂れ流す状態だった。半年ほどたち、それを見かねた経営者が「撤退する」といったところ、現場の技術者たちは強固に反対した。
「ここまでやって、途中でやめるなんてダメです。諦められません」
彼らはそう主張した。
またある会社では現場の技術者に「日報」を導入した。最初の3カ月間、皆で頑張って書いたが、どうやら時間を使うだけであり、目立った成果は上がらなかった。
現場のあるリーダーはそれを見て、「辞めたほうが良いのでは」と、日報を導入した役員に進言したが、彼は頑なに「日報が会社を変えるのだ」と主張して譲らなかった。
仕方なく現場は日報を継続したが、実態は形骸化しており、だれもが毎日日報に使う30分間を「意味が無い」と思っている。
また、とある知り合いがもう5年間、司法試験にチャレンジし、失敗している。だが彼は諦めきれず、未だに受験を続けている。
「普通に就職してはどうか」と周りから言われるそうなのだが、彼は「ここまできて諦められない」と言っている。
サンク・コストという用語がある。すでに回収の見込みない投資や労力のことだ。
つまらない映画を見続けるべきか
2時間の映画のチケットを1800円で購入したとする。映画館に入場し、映画を見始めた。10分後に映画が余りにもつまらないことが判明した場合に、映画を見続けるべきか、それとも途中で映画館を退出して、残りの時間を有効に使うべきかが問題となる。
- 映画を見続けた場合:チケット代1800円と上映時間の2時間を失う。
- 映画を見るのを途中で止めた場合:チケット代1800円と退出までの上映時間の10分間は失うが、残った時間の1時間50分を有効に使うことができる。
この場合、チケット代1800円とつまらないと感じるまでの10分が埋没費用である。この埋没費用は、上記のどちらの選択肢を選んだとしても回収できない費用である。したがって、時間を浪費してまで、つまらないと感じる映画を見続けることは経済学的に合理的な選択ではない。途中で退出して残りの時間を有効に使うことが経済学的に合理的な選択である。しかし、多くの人は「払った1800円がもったいない。元を取らなければ」などと考え、つまらない映画を見続けることによって時間を浪費してしまいがちである。
(Wikipedia)
これは、博打での負け分を取り返そうしとて更に負けが込んでいく状況とよく似ている。
もちろん、やめるのが簡単なこともある。だが、多くのことがかかっていると、「やめたくてもやめられない」「夢を諦められない」という状況と戦わなくてはいけない。
誰しも、自分が決定したことに対して愛着が出てくるものなのだ。
だが、ピーター・ドラッカーは著書※1の中で、
「死体が臭わないようにすることほど涙ぐましく、しかも不毛な仕事はない」
と述べる。
成果を上げることを第一に考えるならば、「始める」よりもまずは今行っている不毛なことを「やめる」ことが、何より重要だ。
(2026/3/10更新)
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