仕事をしていると、何でも数値化しないと気の済まない人がいる。その一方で「数値化するのは嫌い」という人もいる。

会社の目標や、成果などについては特にこの傾向が強い。

数値目標が好きな人は「数値化しないと測定できない」「測定できないものは管理できない」と主張するし、それに反発する人は「数値で見られるのは非人間的で嫌だ」あるいは「数字ではわからないことがある」という。

 

シチュエーションによってこの発言の妥当性が異なるので、この場で「どちらが正しいのか」などという不毛な議論はしない。だが「数値化の限界」を知っておくことは、双方にとって決して悪い話ではないだろう。

 

では、何が数値化の限界なのか。数値によって何が失われるのか。それは、人間らしさ、とかそんな曖昧で、よくわからないものではない。失われるのは1つ。「数値化していないものへの関心」である。

 

例えば、ある会社で実際にこんな実験をした。

 

会社で新卒に目標を与える。一方には

・テレアポ、週2件のアポ目標

・
専門書の読書、週1冊必ず読んで、レポートを提出する。

という2つの目標。

もちろん、先輩が新卒一人ひとりについて、丁寧に指導しながら目標を達成させるようにする。

他方で、

・テレアポを頑張る

・専門書を読むように意識する。読んだらレポートを書く。

という目標を設定する。こちらも同じ先輩が指導する。さて、1ヶ月後、どちらのほうが結果が出ただろうか?

 

もちろん、結果を出したのは前者だ。後者のテレアポの件数や読書の件数に比べ、前者は圧倒的に数字で勝っていた。数値目標は目標に向かわせるドライブ力がある。明確な目的意識を抱かせるからだ。

しかし、面白いことが起きた。前者の新人は1週間、テレアポと、読書以外の仕事をほとんど憶えていなかった。一方で、後者の新人は、テレアポや読書以外の業務、例えば「先輩の手伝い」や「会議で話されたこと」について、よく憶えていた。

 

 

人間は面白いもので「明確な目標値」が与えられてしまうと、それ以外のことをあまり考えなくなる。

その時点での最優先事項の「どうしたら2件取れるか」
「どうしたら早く読めて、レポートを効率良く書けるか」に注意を引き付けられてしまう。

その時点で「テレアポが重要か」「なんのために読むか、レポートを書く意味は何か」に考えが及ばなくなる。目標数値はその行為の優先度を著しく上げるが、それ以外の重要度を著しく落とす。要するに、強制的に近視眼になるのだ。

 

また別の会社でのことである。

営業部で、技術的な底上げをするために「先輩への営業同行」を推奨したことがあった。ただ、みな忙しく営業同行をあまり積極的におこなわなかったため、業を煮やした経営者は「月3件は営業同行をすること」という目標を立てた。

これがどうなったか、ご想像のとおりである。多くの人物は、技術的な底上げを忘れ「どうやったら効率的に同行できるか」を考え始めたのだ。これでは本末転倒である。

「数値目標」は本質的に「他の事項の排除」を含む。だから数値ばかりで管理している会社の社員は近視眼的になりやすい。

 

では、どうすれば良いのか。

実は「数値」は目標にするまでもない、極端な話、「データを取ってますよ」と言って、後は放置、
ということでも管理は十分成り立つのだ。

 

例えば「残業時間を30時間以内にしてください」という目標を立てると、あちこちに歪みが出ることが割けられないような状態でも、もうすこしマイルドに

「残業時間を計測します!」

「
残業代を計測します!」

というだけでも、実は管理として成り立つ。「計測すること」そのものに意味がある。そう考えると、何でもかんでも「数値目標化」するのは、物事を単純化して考えすぎる人の
悪いクセだといえよう。

 

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【登壇者紹介】

安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00

参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。


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(2025/6/2更新)

 

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