米国で、任天堂のPokemonGOというゲームが大変な人気になっていると報じられていた。そんなゲームのニュースを見るたびに、私は一つの話を思い出す。
子供の頃は新しいゲームに触れるたびにワクワクした。初めて「スーパーマリオブラザーズ」をプレイした時には、世の中にこんなに面白いことがあるのかと、寝ても覚めてもマリオの事を考えていたような記憶がある。
あれから約30年が経ち、ゲーム産業は巨大産業となった。任天堂を筆頭として、ソニー、マイクロソフトやGoogleなどの名だたる大企業すらもゲーム産業を作っている。
いや、大企業でなければ、ゲームが作れなくなってきていると考えても良いのかもしれない。ゲームはすでに、多くの人々の生活の一部であり、最も大きな影響力を持つ娯楽の一つなのだ。
さて、そんな状況にある現代だが、私はすこし前、あるゲーム製作者を訊ねたことがある。彼はあるメジャータイトルの作成にも携わっていた、多くの開発者の一人であるが、面白い話をしていた。
彼は、ゲームについての考え方や、利用のされ方、ユーザー層の話などをしてくれたが、彼の最後の話は、そういったテクニカルな話とは少し違っていた。
「安達さん、ゲーム業界にいると、何かと非難されることもあるんですよ。」
「わかります。」
「わかりますか。ソシャゲーの課金問題やら、ゲームの倫理性やら、いろんな問題が取り沙汰されるんですよね。まあ、ほとんどは言いがかりに近いものだと思ってますが。」
「影響力の大きい物は、必ず批判されますから。」
「そうなんですよ。でも、うちの若い子たちはそれが気になるらしくてね。それを解消するため話をしているんですよ。」
「どんな話ですか?」
「皆がどう思うかわかりませんが、ゲームってのは、現代の宗教なんですよ。」
意外な一言だった。
「宗教?」
「そう、宗教です。魂の救済をもたらすわけです。」
「またまた、ご冗談を……。」
「冗談ではないですよ。まさに、科学に打倒された宗教は、形を変えて蘇ったわけです。」
「なぜ宗教と呼べるのですか?」
「一種の教義と呼べるものがあるからですよ。」
「具体的には?」
「まずは「努力が報われる」という教義を持っている。ゲームの世界では、大抵のプレーヤーは成長し、努力は報われる。当たり前ですが。それがゲームバランス、ってやつです。」
「確かに…」
「人は、目標達成をすると気持ちが良いんです。アイテムを手に入れた、難しいボスを攻略した、これらはすべて、快感を生み出す。現実では努力は報われませんが、ゲームの中では努力が必ず報われる。こんな良い世界はない。」
「……。」
「つぎに「皆平等」という教義を持っている。」
「平等……。」
「どんなプレーヤーも、初期のパラメータ、条件、身分はほとんど同じです。一様に低い。そこから己の努力と才覚で立ち上がっていくわけです。サクセス・ストーリーですよ。」
「なるほど……。」
「親が金持ちかどうか、才能が有るかどうかは関係ない。全員同じパラメータを持ち、同じイベントに参加できる機会を持ち、同じアイテムを持てる機会を得られ、誰でも成功できる。これこそユートピアでしょう。」
「よく考えると、理想的な世界ですね。」
「我々ゲームクリエイターは、理想的なユートピアをどうやって設計しようか、日夜悩んでいるわけです。」
「そして、「失敗してもやり直しができる」という教義を持っている。現実では、失敗して立ち直れない、という人はたくさんいます。ゲームはチャレンジができる、やり直しができる。人間の冒険心と、学び、そういったものをすべて含んでいるのがゲームなんですよ。」
「怖くてチャレンジできない、という人がチャレンジできる世界ですか。」
「そうです。人間はどこかでチャレンジしたい、失敗を恐れずに挑戦したい、と思っています。でもリスクは取れない。現実のリスクは場合によっては命に関わりますから。そう言った人たちにチャレンジを提供するのは、素晴らしい仕事だと思いませんか?」
「……。」
「最後にゲームが提供するのは「わかりやすい評価基準」です。善悪、というものではないですが何に対して報酬が与えられ、何をすると不利になるのか、これがわかりやすく提示される。宗教には必要な要素です。」
「確かに現実の評価基準は見えないですね」
「現実的には、自分で評価基準を創りださなければならないのですが、これは一種の苦難を伴います。ゲームは外部から評価基準を与えられるので、とてもわかりやすい世界です。」
「わかりやすい世界が求められているということでしょうか?」
「そう言っても良いと思います。」
彼は最後に言った。
「ゲームの本質は、生まれ変わりなんです。現世で報われなくても、ゲーム機のスイッチを入れれば別の世界で活躍できる。ゲームによって、つらい現実に少しでも日がさすのならば、ゲームには大きな意義があるのですよ。」
私は彼の「ゲームが魂の救済をもたらす」という考え方に、それなりに合理性を感じた。
現代の宗教は、教典の中ではなく、電子回路の中に存在したのだ。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
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