先日、ある友人と久しぶりに食事をした。
彼との付き合いはかれこれ10年になる。半年に一度のペースで、どちらからともなく連絡をする。2〜3軒はしごしながら、仕事・政治・お金・テクノロジー・恋愛など、雑多なネタをつまみにお酒を交わす。とても聡明で、面白い情報や新しい視点をくれる。
彼との食事はいつも楽しい。だから今回も会うのをとても楽しみにしていた。
・・・食事が始まって3時間くらい経った頃だろうか。
私は彼のある行動に耐えられなくなり、失礼を承知の上「コミュ障になったね」と思わず言ってしまった。
そんな風に面と向かって相手に「コミュ障になったね」なんて言ってしまう自分こそ、コミュニケーションに難ありかもしれない。
でも、言わずにはいられなかった。なぜか?それは彼が自分の話を延々とし続け、私の話には興味関心すら示さなかったからだ。
相手の話を本当に聴いているか
コミュニケーション力が低いと思われてしまう人の特徴の一つが、「人の話を聴かない」こと。「聴かない」と一言で言っても、いろんな種類の「聴かない」がある。
聞いているふりをして実はうわの空な人。
相手の話をすぐに否定してしまう人。
途中で自分の話題に変えてしまう人。
自分が一方的に喋り続けてしまう人。
あなたの周りに、こんな人はいないだろうか。「話を聴く」という行為は、簡単なようで実はとても難しい。相手の話を聴くことが、まずはコミュニケーションの第一歩である。
「ああ、聴いてもらってるな」という感覚を話し手に持ってもらうように聴くことは、相当の訓練が必要であり、と同時に実は「人格的な部分」も問われる。それ故に、「聴き上手」はかなりの希少なスキルだ。
(中略)
だから「聴く」スキルを持っていることは大変なアドバンテージであり、そしてまた成果を残すための基本要件と言える。
では本当に「聴く」ために何が重要なのか。
「相槌を打つ」
「相手の話が終わるまで口を挟まない」
「うなづく」
など、テクニック的なことが数多く紹介されているが、ほんとうに重要なのはテクニックではない。ほんとうに重要なのは話を聴く時の「姿勢」だ。
あなたの話は相手に伝わっているか
聴く姿勢を改めたところで、話す時はいったい何に気をつければいいのだろうか。
コミュニケーションの本質はなんだろう、と考えた時に、核となる技術は「伝わる」ことだろう。
伝えることは誰でもできる。話せばよい。見せれば良い。聞かせれば良い。だが、人を動かすことはできない。人を動かすのはその内容が「伝わった」時だ。コミュニケーションは、伝わることが難しいのである。
(中略)
1.伝わるのは、相手が見たいと思うものだけである。
見たくないもの、見ようとしないものは、基本的に見えない。
- 例えば、ある会社で「リストラ」があるという話が出るとする。しかし、皆「自分には関係がない」と思う。
- 年金を含む社会保障が破綻寸前だと知らされても「他人事」と思う。
- 40歳にもなれば、あと人生はせいぜい40年であるが、「死ぬのはまだまだ先」と思う。
- 人から任された仕事をやらずにいても、「許してもらえる」と思う。
人間は、自分が見たいと欲するものしか見えない。無理やりそれを見せようすると、人は反発し、怒る。両方を見ることのできる人は、稀有であるし、それは一種の才能であるから、それを相手に期待してはいけない。
講演会ならまだしも、会話という1対1のコミュニケーションの場だ。しゃべること自体問題はないが、相手の興味関心のある話でなければ、どんなに話ても伝わらない。人は基本的に自分の聴きたいことしか聴かないものだ。
聴ける。伝わる。それがコミュニケーションか?
上の話を踏まえると、私の友人は見事にコミュニケーション下手に当てはまる。相手の話は聴かずに、自分の話したいことを無理やり聴かせようとする。
じゃあ私が彼の友人を辞めたくなったか?
まさか。もちろんそんなことはない。なぜなら彼のことを心から尊敬しているからだ。
真のコミュニケーションと、上辺のコミュニケーション、何が本質的に異なるのだろうか。
人間関係は「コミュニケーション力」によって良好な関係が保たれる、と思う方がいるかもしれない。たしかにそういった面もある。人につかう言葉を選んだり、傾聴したり、コミュニケーションを良好に保つために語られることは数多い。
しかし、大人にとって、長く人間関係を良好に保つための本質は、「コミュニケーション力」なのかと言えば、実際はそうとも言い切れない。
(中略)
「夫婦でも、友人関係でも、長く続く人間関係は「敬意」をベースに成り立ちます。そして、私達の会社の経営も同様に敬意をベースにしています。上辺のコミュニケーション力ではありません。
必要なのは、その人に何かしらの強みを見ることができるか、目の前の誰かを敬うということを、自然とできるかです。
私たちは「どのような振る舞いをする人物に敬意を持ちますか?」という質問を必ず面接で応募者に聞きます。
その理由を聞き、採用の可否を決めることも多いです。人に対して敬意を持てない人物は、要するに未熟なのですよ。」
友人に対して敬意があるからこそ「コミュ障になったね」と冗談交じりで、相手を思った本音をぶつけられるのだ。
ちなみに友人が珍しくコミュ障だった理由は、すぐに明らかになった。彼女と別れたばかりだったのだ。
コミュニケーション力なんて、失恋一つで簡単に衰えてしまうものなのである。上辺のコミュニケーション力が多少低くても、そこまで心配する必要なんてない。人間として中身がしっかり詰まっていれば、真のコミュニケーションはとれるのだから。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
(photo by Ujwala Prabhu)