「話を聴く」という行為は簡単なように思えるが、多くの人が知る通り、残念ながらきちんと聴ける人は稀だ。
「ああ、聴いてもらってるな」という感覚を話し手に持ってもらうように聴くことは、相当の訓練が必要であり、と同時に実は「人格的な部分」も問われる。それ故に、「聴き上手」はかなりの希少なスキルだ。
実際、
「マネジメント」
「営業」
「企画・マーケティング」
などの仕事はすべて、「人」とのかかわり合いが非常に重要な仕事だ。だから「聴く」スキルを持っていることは大変なアドバンテージであり、そしてまた成果を残すための基本要件と言える。
では本当に「聴く」ために何が重要なのか。
「相槌を打つ」
「相手の話が終わるまで口を挟まない」
「うなづく」
など、テクニック的なことが数多く紹介されているが、ほんとうに重要なのはテクニックではない。ほんとうに重要なのは話を聴く時の「姿勢」だ。
一般的に人は話を聴く時、つぎの4つの姿勢のいずれかを採用する。
1.否定してやろう、と思って聴く
2.解決してやろう、と思って聴く
3.ただ聞くだけでいい、と思って聴く
4.自分の中に取り込もう、と思って聴く
1.否定してやろう、と思って聴く
1.は、人間としてまだ成熟していない、子供の態度だ。つまり、相手の話に何かケチを付けてやろう、と思って聴く人々のことだ。
「いや、筋が通ってないよ」
「結論は?」
「どこが面白いの?」
「それって自慢じゃない」
そういう言葉を話し手に投げかけてしまう態度のことだ。いいたくなる気持ちはわかるが、本当は言う必要のないことばかりだ。彼らは「人の話を否定することで、自分が勝った気になる」ことが、聴く目的となっているのだ。
2.解決してやろう、と思って聴く
2.はもう少しマシである。だが、成熟した態度とはいえない。つまり、教えてやろう、と思って聴く人々だ。
「◯◯すればいいじゃない」
「なんで◯◯しないの?」
「そんなこと悩まなくていいよ。◯◯だし。」
「簡単だよ。◯◯すればいいんだよ。」
と、解決するための言葉を投げかけてしまう。
多くの場合「教えてやろう」は単なるおせっかいであり話し手は教えてもらうことを望んでいない。また、いつも教えてもらってばかり居ると、依存の原因ともなる。
彼らは「人に教えてあげることで、自分が感謝される」あるいは「自分の優越を確認する」ことが、聴く目的となっているのだ。
3.ただ聞くだけでいい、と思って聴く
3.は大人の態度である。つまり「聴くこと」だけで、相手のためになることを知っている人々だ。彼らは余計な口を挟まない。
「そうだね」
「わかるよ」
「同情する」
「大変だったね」
根底にあるのは「話し手への優しさ」だ。「私は話し手を癒やすために、ここにいる。解決はこの人が自分の力でできるはずだ。そしてそうあるべきだ」と聴き手は考えている。
むしろ、そう考えていなければ「聴くだけ」なんてとてもできることではない。
人は、自分の話が大好きだ。逆にほかの人の話には興味が無い。それを乗り越えた人が「聴くだけでいい」という人たち、大人だ。
4.自分の中に取り込もう、と思って聴く
最後に4.だ。これは大人の先にある、真の聞き上手たちがやっていることになる。
聴くだけでいい、と思っている人は相手への優しさが主となっていたが、これは「話し手への敬意」がベースとなる。端的に言えば「相手から学ぼう」と思っている人たちだ。
「へえー、そう考えたんだ。面白いね」
「もっと教えて下さい。」
「勉強になるよ、次はどうしたの?」
「ええー、意外だよ、なんでそんなことを思ったの?詳しく聞きたいんですけど…。」
根底にあるのが「相手への敬意」なので、相手も自分の話が非常にしやすい。そして「聴いてもらっている」という感覚ではなく、おそらくは「話し合っている」という感覚になるだろう。
私の知る中で最も聴き上手のある方は、「相手の話を聴くには、自分の中にそれが入る「スペース」が必要で、それができるようになれば一人前。相手への信頼と愛がなければ出来ない。」と言った。
確かに4.以外は、すべて、話し手<聴き手 という上下関係が存在するようにも見える。
とかく「相手の話を聴け」と言われることが多い現代だが、本質は人格の問題なのだ。テクニック論に終始するようであれば、一生その世界は見えないだろう。
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