「有能な人はどこへ行っても有能なのだ」と言う方がいるが、そうも言い切れない時も多い。
実はここ十五年くらいという短い期間ですら「有能な人」のイメージは知らず知らずのうちに大きく変わっているからだ。
今から十五年前、コンサルタントとして多くの企業を訪問していた時、ほとんどのベンチャー、中小企業で「有能な人」といえば、兎にも角にも、営業のトップが紹介されることがほとんどだった。
上司からも「とにかく社長の右腕はトップ営業と考えておいて間違いはない」と教わった。
事実、多くのプロジェクトは「営業本部長」がプロジェクトリーダーをやっていたし「トップ営業マン」は大きな顔をしていた事をよく憶えている。
もちろん今でも営業のトップが最も幅を利かせている会社は多いし、地方に行けば今でもほぼ100%営業のトップは社内でも社長の右腕的存在である。
ところが、最近、特にここ数年、東京における伸び盛りの中小企業、及びスタートアップのナンバー2の座は、かなりの割合で、デザイナー、技術者、博士号や士業の資格を持ってるなどの専門家、ファイナンスのスペシャリスト、またはウェブに通じたマーケターである。
彼らの関心は「売る」ことよりも「イノベーティブであること」や「美しいこと」、さらには「マーケットへのインパクト」などを重視する。
つまり「できる人ですよ」と言われて紹介される方々の職種、や考え方が大きく変化したのだ。
この変化は少しづつ、確実に進んできた。
なぜこのようなことが起きているのだろうか?
かつて営業職は文系職で最も稼げる職種だった。私は同級生から理系より文系に行ったほうが、生涯賃金が高いから、といった話を何度も耳にした。(本当かどうかは定かではない)
もちろん出世するにも営業、社内で権力を握るのも営業だった。
だから「できる人のイメージ」は、押しが強く、話がうまく、愛想がよく、そして「売れる」人だった。
だが、営業職は変わりつつある。これは統計的にも明らかだ。
例えばMRでは医師が「できれば会いたくない」と言っており、MRは減る一方である。また、営業職の人数もちょうど15年前をピークにして、落ち込む一方である。
MR減少時代に、製薬企業と医師の関係を強化するマーケティング施策とは
現場の医師の動向にも大きな変化がある。これまでは、まず対面で薬の説明を聞いてから、薬を採用するという医師が主流であった。ところが「できればMRに会わずに、薬の購入を済ませたい」という医師が増えているという。
デジタルに慣れている若手医師は、必要な情報はインターネットを使って調べるという習慣がついており、人から提供されるのではなく、自らネットで調べ納得してから採用したいというニーズを持っている。
(Adobe.com)
営業職(営業マン、セールスマンなどとも呼ばれる職種)は、高度成長期以降、日本経済が急拡大する中で企業の中で商品(不動産・金融商品を含む)の販売を担当する職種として花形職業となり、人数も大きく増加した。特に1980年代には230万人から400万人へと74%増となった。
ところが、バブル経済が最終的に崩壊したのち、2000年の468万人をピークに今度はかなり急速な減少に転じた。営業職という分類名が国勢調査上に正式に認められるようになったのは皮肉なことに減少が目立つようになった2010年のことである。そして、2015年にはバブル期以前の水準の331万人にまで減った。営業の時代は終焉に向かい、アーサー・ミラーの有名な戯曲のタイトル「セールスマンの死」を連想させる状況となっている
(ダイヤモンド・オンライン)
代わってエンジニア、統計専門家、データ解析、マーケター、デザイナーなどの需要が伸び、かつての「営業ができる人たち」はスミに追いやられた。
地味ながら、恐ろしいほどの変化だな、と思う。
かつては顧客との窓口は、対面営業と電話だった。もちろん今でも重要であることは間違いない。
しかしウェブは営業職の仕事をすこしずつ奪っている。電話の問い合わせは減り、メールはあたりまえ。営業を経由せずにサポートデスクに連絡が届き、ときにはエンジニアに直接送られてきたメッセンジャーやSNSで仕事が決まるときも少なくない。
かつて営業が社内で大きな顔ができたのは、「顧客の情報」を営業の中で独占できたからだ。
だが現在、顧客情報はデータベースに格納され分析される。そしてその結果を元に、営業がコマのように動かされるのだ。営業職はこうして二極化し、クリエイティブな設計者と、その他大勢の動かされるコマに分裂した。人数が減るのも当然の帰結である。
必然的に、「優秀なひと」のイメージはは絶対的ではなくなる。
むしろ、営業で頂点を極めた人が、視界から少しずつ消え、と同時に昔の営業マンが持っていた価値観、「気合」「根性」「飲みニュケーション」も忌避されるようになった。
もてはやされるのは、マーケター、データサイエンティスト、アーキテクト、起業家エンジニアなど、つまり現場で泥臭くやる人ではなく「仕組みを作る人」たちだ。
「いや、俺のところではそんなん起きてないよ、対面営業最強だよ、という方もいるだろう」
もちろんどう考えようが勝手である。
だが、街の様子、子供の成長のように、ゆっくりと毎日確実に変わるものは、非常に知覚が困難だ。
しかし変化は、少しずつ、知らないうちに訪れる。あなたの目の前で。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
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