母が携帯を買い換えたいと相談してきた。

某大手通信キャリアとの契約が二年経ち、翌月から倍近い使用料を請求されたという。

 

無料という甘い罠

せっかく相談しに行ったのに、全く取り合ってくれないのよ。これ以上安くすることは出来ませんってきっぱり言われて、ハイ終わり。そんな風に言われたらどうしようも出来ないでしょ?」

母は本当にガッカリといった様子でため息を漏らした。

 

「でもお母さんさ、二年経ったら高くなるって前から言われてたじゃん。だから仕方ないんじゃない?」

「そうだけど、倍も高くなるなんて思わなかったの。お得なキャンペーン中ですってお勧めされたから信じちゃったのよ。iPhoneも無料になるって言ってたし。」

出た。本当は端末代金を単純に分割して月々の請求に乗っけているだけなのに、無料に見せるパターンのやつ。

 

「あのね、“無料”とか”実質0円”っていう言葉に踊らされちゃいけないんだよ。商売なんだから、絶対キャリアが儲かる仕組みになってんの。」

「え?キャリアって何のこと? そんな英語言われたってお母さんわかんないわよ。ねえ、とにかくこんな高い金額じゃ払い続けられないから、助けてくれない? LINEと調べ物さえできればいいんだから!」

 

はあ。

私も思わずため息をついた。面倒くさい。非常に面倒くさいぞ。

でも、こと携帯に関しては私以外に母を助けられる人なんて周りにいないから、普段できていない親孝行でもしてやるか…

ということで、この働き盛りの30代女性の貴重な平日の午後、まるまる5時間を費やして母親の買いものに付き合うことになった。

 

SIMフリーが自由をもたらした

ちなみに私は、母のような善良なる市民に対し、大手通信キャリアが真摯に対応してくれない件について、非常に怒っている。

お店のお姉さんの対応がそっけないのも腹が立つが、それ以上に、なぜSIMフリーじゃないのか。全く真摯でない。

 

私がSIMフリー端末に変えたキッカケは海外転勤だった。勤務先のシンガポールでは日本のiPhoneは使えない。高額の解約手数料を嫌々支払い、購入したばかりの5Sを泣く泣く手放した。

代わりに、シンガポールで中古のSIMフリーiPhone5をS$300(当時のレートで2万4千円くらい)で購入した。

 

以来、バラ色のSIMフリーライフが始まった。

シンガポールで購入したiPhoneは、もちろん日本でも使える。好きなMVNO(格安SIMサービスを提供している事業者)を選ぶだけ。使用料は本当に格安で、高い月でも3,000円前後。質だって全く問題なく、自分のような素人が使うには十分すぎるくらいだ。

 

しかし、私が格安SIMを愛用する理由は、別のところにある。

何よりも「縛られない」ところが最高だ。

「縛られない」感覚は個人的には超重要で、つまりは大手キャリアの言いなりにならなくて済むことを意味する。

 

格安SIMが日本に登場するまでは、大手キャリアに縛られない道を選択する自由すらなかった。

ようは、我々は自由を手にしたのである。まさに字のごとく、SIMフリーは「自由」の象徴なのである!!

 

自由には努力と責任が伴う

ただこのSIMフリー、大手キャリアと契約する時ほどの手軽さがあるかというと、無い

LINEのダウンロードさえ四苦八苦しているうちの母親が、SIMフリー端末を購入し、格安SIM回線を契約して、アクティベーションを行って、、、とすべてを自力でやるのは不可能だ。

 

「端末はiPhoneじゃなきゃダメ? 他のメーカーでもいい?」

「電話番号は引き継ぎたい? 新しいのに変わってもいい?」

「最初にたくさん支払って月々の利用料が安くなるのと、基本使用料は少し高いけど初期費用が抑えらえるのでは、どっちがいい?」

「有料だけどお店が即日開通してくれるのと、お金はかからないけど自分でネット上で設定するの、どっちがいい?」

 

格安SIMを手に入れるには、上記一つ一つの質問に自分で考え、決断していかなければならない。決断するためには、判断材料と判断軸が必要だ。判断軸が出そろったら、さらに優先順位を決める必要がある。

つまり、質の高いサービス安く手に入れるためには、私たち消費者が賢くならなければならないのだ。

おそらくSIMフリーの仕組みがわからなければ、上の会話は外国語のように聞こえるかもしれない。しかしこの外国語を使いこなせなければ、良いサービスを安く入手することはできない。

自由にはいつだって努力と責任が伴う。

 

ほんの少しの努力だけ

という話をすると、多くの人が「えー。じゃあ面倒くさいから私はいいや」と言ってあきらめてしまう。

でも、それってもったいなくないだろうか。

世の中甘い話なんて無いんだから、面倒くさがらずに真面目に努力した方が得なんじゃないか。

自分は何の努力もせず楽して安くて良いサービスを受けて、おまけに良い結果まで欲しいなんて、ちょっと図々しくないだろうか。

お客様は神様じゃない。それなりのサービスを受けたいのなら、消費者もそれに相応しい努力をすべきだと思う。

 

ちなみに一つの商品を買うために、専門家になれるほどの知識は不要である。

私だって、格安SIMの仕組みに精通しているわけではない。でも、最低限の情報だけはネットから収集しているし、わからないことは家電量販店のお兄さんに質問する。

あきらめないで、ほんの少しだけ頑張ってみる。すべて自分で出来ないのなら、誰かに頼ればいい。

2時間の私によるレクチャーと、3時間電器屋さんを行ったり来たりした末に、母は無事SIMフリー携帯をゲットすることができた。1/3のコストでLINEも使えるし、調べ物もできる。もちろん音声通話だってできる。

正直、ほとんど私が購入から契約までリードしてあげたんだけど、

あの、わからないなりに質問してもいいですか。

と果敢に電器屋のお兄さんに質問する母を見て、心底尊敬した。

 

いくつになっても学ぶ姿勢を忘れない。

何回も同じ説明してめっちゃ疲れたけど、とても大切なことを母から学んだ5時間だった。

 

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・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう

【登壇者紹介】

安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00

参加費:無料
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お申込み・詳細
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(2025/6/2更新)

 

Written by 大島里絵(Rie Oshima)

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