30代から40代半ばくらいまでの方に特に多いと感じるが、「実力・能力」と「望んでいること」が釣り合っていない人を見かける。

 

例えば「起業して成功したい」という30代半ばの男性がいた。webサービスを作り、カネを稼ぎたいと言っている。

ただ「今、何をしているのですか?」と聴くと、具体的に何かをしているわけではなく、「今考えてるんです」とか「会社の同僚はビジネスをわかってない」と主張する。

 

「どんなことをやろうとしているのですか?」とお聞きすると、「カーン・アカデミーのような教育関係のことをやりたい」と言う。

「webで授業、と言ったイメージですか?」

「そうですね、そのために、講師と開発者募集を手伝ってほしいと思ってます。」

「どのように手伝えば良いですか?」

「記事で取り上げてほしいんです。」

 

まだ中身のない事業を記事で取り上げるのはかなり難しいです、と告げたが「とにかく何かで起業したいんです。」と言う。

徐々に話を聴いている我々が辛くなってきたので、申し訳ないと思ったが「がんばって下さい」とだけ告げて別れた。

 

 

「文章で食べていきたいです。ライティングとか。」という30代後半の女性がいた。投稿したい、というので文章を見せていただくと、残念ながらあまり面白くない。

他の人にも見せても、「今ひとつ」という返答とコメントがあったので、それを含め「こうした方が良いと思います」とこちらの感想とアドバイスをフィードバックした。

すると「わたしの文章は◯◯というメディアにも掲載されているので、面白くないということはないと思います」という返事があった。

 

面白い、面白くないは、主観に依存するので先方の主張が正しい。

だが、当然ながら私達が採用することはできない。

結局「ウチでは採用できませんが、今のメディアでのご健闘を祈ります」と返事をするより他はなかった。

 

 

多少なりとも、上のような人に出会ったことのある方は多いのではないかと推測する。

「彼らの実力・能力」と「やりたいこと」に乖離があるので、誠意を尽くしてもあまりうまくコミュニケーションが取れない方々だ。

10代、20代で志を大きく持つことは全く悪いことではない。若いときには「頑張れ」で済んでしまう。

だが、30代、40代とそれなりの年齢になって「実力」と「やりたいこと」のバランスが取れていない人を見ると、失礼かもしれないが「気の毒だな」と思ってしまう。

 

だがこの「気の毒だな」は、彼らの境遇に対してではない。彼らの能力に対してでもない。

私が気の毒だと思うのは、「彼らが自分にウソをついている」からだ。

 

逆説的だが、彼らが何も行動していないのは、実力不足、能力不足を自覚しているからではないかと思う。

これをやりたい、あれをやりたいと言いながら、

「多分やってもうまくいかない」

「失敗しそう」

「馬鹿にされそう」

と、彼らは内心では冷静に考えることができているのだ。

 

本当に自分の能力に自身があり、それが実証されてきているのであれば、彼らは躊躇したりすることはない。すぐ行動に移すだろう。

「行動していない」という事実は、かれらが奇しくも「実力・能力不足を自覚している」ということにほかならない。

 

だが、世の中には「自分の限界を決めるな」「やればできる」「無限の可能性」と言った言葉を使う方が存在しており、実際に成功者も存在する。

だから彼らは実力不足や能力不足を自分で認めつつもそれを諦めきれず、「挑戦しているポーズ」を取り続けなくてはならない。

それは真に「気の毒」なことである。

 

哲学者の中島義道氏は、著書*1の中で次のように述べる。

ひとは、無性に欲しいものがあり、それをほとんどの他人もまた望んでおり、しかもそれを手に入れることが可能な場合、確実に不幸になる。

(中略)

人生において自分の欲するものを獲得するためには、たとえそれが正当なものであっても、膨大な犠牲を必要とするのだ。

私は、彼らが「不幸」にならないよう、祈るのみである。

 

 

*1

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【お知らせ】
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第4回目のお知らせ。


<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>

第4回テーマ 地方創生×教育

2025年ティネクトでは地方創生に関する話題提供を目的として、トークイベントを定期的に開催しています。

地方創生に関心のある企業や個人を対象に、実際の成功事例を深掘りし、地方創生の可能性や具体的なプロセスを語る番組。リスナーが自身の事業や取り組みに活かせるヒントを提供します。

【日時】 2025年6月25日(水曜日)19:00–21:00
【ご視聴方法】
ティネクト本音オンラインラジオ会員登録ページよりご登録ください。ご登録後に視聴リンクをお送りいたします。
当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。

【ゲスト】
森山正明(もりやま まさあき)
東京都府中市出身、中央大学文学部国史学科卒業。大学生の娘と息子をもつ二児の父。大学卒業後バックパッカーとして世界各地を巡り、その後、北京・香港・シンガポールにて20年間にわたり教育事業に携わる。シンガポールでは約3,000人規模の教育コミュニティを運営。
帰国後は東京、京都を経て、現在は北海道の小規模自治体に在住。2024年7月より同自治体の教育委員会で地域プロジェクトマネージャーを務め、2025年4月からは主幹兼指導主事として教育行政のマネジメントを担当。小規模自治体ならではの特性を活かし、日本の未来教育を見据えた挑戦を続けている。
教育活動家として日本各地の地域コミュニティとも幅広く連携。写真家、動画クリエイター、ライター、ドローンパイロット、ラジオパーソナリティなど多彩な顔を持つ。X(旧Twitter)のフォロワーは約24,000人、Google Mapsローカルガイドレベル10(投稿写真の総ビュー数は7億回以上)。

【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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(2025/6/16更新)

 

 

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Helen K