以前、部下が上司を評価する人事評価制度について書いた。
しかし実際には「部下が上司を評価する」は通常の企業では劇薬であり、採用している会社は極めて少ない。
しかし、Googleでは検索エンジンのアルゴリズムを用いた360°評価を人事評価制度に用いているという。面白い試みである。
要は、「すごいとみんなが思う人が「すごい」と言っている人は評価が高くなる」評価制度だ。
さらに驚くことに、アメリカの、しかもGoogleのようなテクノロジー企業はともかく、日本で実際にGoogleと同じような評価制度を利用する会社があるという。
なんと、サイバーエージェントが、現場で試してみたという記事があった。
記事を読むと、Googleが特許を有す、本来ならばwebページの評価に用いるPagerankの公式を、純粋に社内の一部門のメンバーをwebページに見立てて公式を適用し、それぞれのメンバーの評価指標を算出している。
4回、この評価システムを用いて人事評価データを作り上げているが、特徴がいくつかある。
1.時期によって評価される人が異なる。(ある時期にトップの評価を獲得していた人が、3ヶ月後にはビリになっている)
2.評価は2極化する
なお、サイバーエージェントでは、最後に総括として、
”約半年間、このPageRank評価を使って、実際にマネジメントに利用したが全て評価結果を公開していることから評価者、メンバーともに異論を唱える余地はなく、定性評価を行う上での材料としては非常に参考になったと感じた。
定性評価について、もし異論がある場合は定量評価を元に異論を唱えることができるため、評価をする上でお互いに客観的に議論ができるのではないだろうか。
例えば、メンバーは異論がある場合は「PageRankが高いのになぜ最終評価が低いのか」という議論を行ったり、評価者も「PageRankが低いので最終評価も高くできなかった」という透明な説明ができる。”
ということで、サイバーエージェントの当該部門の中ではこの評価方法が役に立ったようだ。
人事評価に長く携わった人間として、個人的に思うのは
「民主的な評価制度は、真の意味で社内競争を激化させる」
ということだ。
サイバーエージェントが採用した評価制度は、まさしく「完全自由市場」の中での競争と同じだ。
「短期的に、その場その場でパフォーマンスを高めた企業が、一人勝ちする」
という状況を作り出している。
ウェブページの重要度は「べき乗則」に従う。
従って、「社内の人材の重要性」もべき乗則に従う。これは、「評価がロングテール化する」ということと同じであり、「一部の人間が、ほとんどの高評価をかっさらう世界」である。その影には、全く評価されない多くの人々がいる。
もちろん、サイバーエージェントのこの評価を用いた担当者は、
”いずれにしてもPageRank評価はあくまで最終的な定性評価を行う材料の一つであると考えているため、この結果だけを見て評価とすることは想定していない。”
と述べているので、ダイレクトに評価が反映されるわけでないだろう。
しかし、「客観的に、数値で」、社内の人材の評価がロングテール化したデータを全員に見せるということは、予期しないデメリットを呼び込む可能性もある。
考えられるデメリットは以下のとおり。
1.「1位以外は評価されない」ため、社内に勝ち組、負け組がくっきり出る
2.短期で評価が上下するので、短期志向を助長する
3.顧客や市場ではなく、社内で評価されることを目指すようになる
特に3のデメリットは深刻だ。ウェブページであれば、「サービスの評価者と、サービスの利用者が同じ」であるが、
人事評価は、「サービスの評価者と、サービスの利用者が異なる」ため、顧客を忘れて、「社内の他の人を助ける」ことに邁進してしまうかもしれない。
結果を見る限り、Googleやサイバーエージェントの安易なマネはしないほうがよさそうだ。
(2025/7/14更新)
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第6回目のお知らせ。
<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>
第6回 地方創生×事業再生
再生現場のリアルから見えた、“経営企画”の本質とは
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自己紹介とテーマ提示:「地方創生 × 事業再生」=「実行できる経営企画」
保育事業再生のリアル/行政交渉/人材難/資金繰り/制度整備の具体例
再生支援は地方創生の基礎。経営の“仕組み”の欠如が疲弊を生む
経営戦略・KPI設計・IRなど中小企業とのギャップを解説
「当たり前を実行可能な形に翻訳する」方法論
数字を見える化/仕組みで回す/翻訳して実行する
経営企画は中小企業の“未来をつくる技術”
【ゲスト】
鍵政 達也(かぎまさ たつや)氏
ExePro Partner代表 経営コンサルタント
兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。3児の父。
高校三年生まで「理系」として過ごすも、自身の理系としての将来に魅力を感じなくなり、好きだった数学で受験が可能な経済学部に進学。大学生活では飲食業のアルバイトで「商売」の面白さに気付き調理師免許を取得するまでのめり込む。
卒業後、株式会社船井総合研究所にて中小企業の経営コンサルティング業務(メインクライアントは飲食業、保育サービス業など)に従事。日本全国への出張や上海子会社でのプロジェクトマネジメントなど1年で休みが数日という日々を過ごす。
株式会社日本総合研究所(三井住友FG)に転職し、スタートアップ支援、新規事業開発支援、業務改革支援、ビジネスデューデリジェンスなどの中堅~大企業向けコンサルティング業務に従事。
その後、事業承継・再生案件において保育所運営会社の代表取締役に就任し、事業再生を行う。賞与未払いの倒産寸前の状況から4年で売上2倍・黒字化を達成。
現在は、再建企業の取締役として経営企画業務を担当する傍ら、経営コンサルタント×経営者の経験を活かして、経営の「見える化」と「やるべきごとの言語化」と実行の伴走支援を行うコンサルタントとして活動している。
【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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