就活で「コミュニケーション力」が重視される理由を簡潔に説明する。
こないだ、安達裕哉さんが上掲のようなブログ記事を書いてらっしゃって、「そうだそうだ」と頷きながら読んだ。
ただ、書かれている内容を少し違う視点で書き換えれば、ビジネス以外にも適用できるように思えたので、私なりに考えをまとめてみる。
プライベートでもコミュニケーション能力は重要
リンク先で安達さんは、
では「一緒にいて成果が出る」ためのコミュニケーション力、すなわち企業が必要としているコミュニケーション力とは何か。
それは「自分のアウトプットを誰かに利用してもらうための力」だ。
と書いていらっしゃる。
仕事は一人では成り立たない。社内のやりとりであれ、社外との連携であれ、お互いのメッセージやアウトプットがきちんと授受され、共同作業が成立しなければ良い仕事はできあがらないだろう。
分業化が進み、初対面の相手や価値観の異なる相手とも共同作業をさせなければならない現代社会においては、自分のアウトプットやメッセージを他人に利用しやすいかたちで差し出す能力は必要不可欠だろう。
だが、似たようなことが仕事以外にも言えるのではないだろうか。
たとえば、仲間同士で盛り上がって楽しい気持ちになっている時、その楽しい気持ちを仲間とシェアするためには「私は今、楽しんでいるんですよ」というメッセージやアウトプットを、仲間に向かってちゃんと差し出せなければならない。本当は自分自身も楽しんでいるのに、その気持ちを仲間に向かって差し出せていなければ、「あいつ、つまんなそうだな」と勘違いされてしまうだろう。
夫婦のコミュニケーションもそうだ。何をして貰ったら嬉しいのか・何をされたら悲しいのかを配偶者にも理解できるかたちで差し出せる夫(妻)と、そうでない夫(妻)では、誤解が起こる頻度はまったく異なる。当然、ストレスの溜まり具合も、夫婦仲の良さも段違いだろう。
結局、プライベートの領域でも「自分のメッセージやアウトプットを他人に利用しやすいかたちで伝える力」、つまり、コミュニケーション能力がモノをいうのである。
これらは、言語的なやりとりだけではなく、表情や素振りといった非言語のやりとりにも当てはまることだ。笑った顔や悲しい顔は、適切に用いればコミュニケーションの精度を高め、相手に誤解無くメッセージを伝える助けになる。そういった技能は何歳になっても必要で、意識的に身に付けている人は、どこまでもスキルアップしていく。
五十代~六十代の接客業のベテランを観察していると、それがよくわかる。
彼らの皮膚は二十代~三十代よりもたるみがちだが、言語的/非言語的なコミュニケーション能力はキレッキレである。場面や必要性に応じて、言葉と表情をどこまでも正確にアウトプットしていて、無駄が無い。余計な誤解を招くような可能性も、ギリギリまで減らしている。
ちなみに、非言語のメッセージやアウトプットにはファッションも含まれる。
人間は、服装や化粧次第で「人を遠巻きにさせる」ことも「信頼されやすくする」ことも「謎めいた雰囲気をまとう」こともできる。だから、高いコミュニケーション能力を目指すからには、自分の服装や化粧から発せられるメッセージにも、自覚的であるべきだろう。
たとえば「むやみに異性に興味を持たれたくない」と思っているのに「異性の関心を集めやすい」服装を選んでいる人は、その点ではコミュニケーション能力が低いと言える。伝えたいものを正確に伝えられないメッセージを身にまとっている人は、服装について考え直す必要がある。
不正確ではうまくいかない
だから私は思うのだ。ほとんど公式と言って良いぐらい、
「高いコミュニケーション能力には、正確さが伴っている」と。
より丁寧に表現するなら「コミュニケーション能力の高い人は、必要に応じてコミュニケーションの正確さの精度を上げられる」だろうか。なぜなら、コミュニケーション能力が高い人は、必要に応じてメッセージの正確さをボカしたり両義的にしたりすることもあるからだ。
だが、アウトプットが正確に伝わらなければならない場面・誤解を避けなければならない場面では、彼らは絶対に誤解されそうにない、きわめて精度の高いアウトプットを吐き出してくる。報告書の文面でも、聴衆を前にしてのプレゼンテーションでも、目と目でこっそり通じ合う瞬間もそうだ。
ファッションも含めた、あらゆるコミュニケーションのチャンネルを使いこなし、幾重にもアウトプットの正確さを高めていける人こそが、本当にコミュニケーション能力の高い人である。
対して、コミュニケーションのチャンネルを使いこなせていない人、メッセージやアウトプットに正確さが求められる場面でも精度を高められない人は、どんなにルックスに恵まれていようが、コミュニケーション能力が低い人である。
ときどき、「自分がコミュニケーション弱者なのは、美男美女じゃないからだ」などと言い訳する人がいるが、多くの場合、それは誤解である。あなたは、ルックスに恵まれていないからコミュニケーション弱者なのでなく、非言語も含めたコミュニケーションのチャンネルを全然使いこなせていないから、つまり、コミュニケーションの精度を高められないからコミュニケーション弱者なのである。
学生の語りたがるような、いわゆる“コミュ力”のイメージに目を奪われていると、こういう事はわかりづらいかもしれないが、もっと年上のコミュニケーション強者をみていれば、このあたりがよくわかる。平凡な顔立ち、皺の目立つ顔でも、彼らのコミュニケーション能力は圧倒的だ。なぜなら、彼らは長年にわたってアウトプットやメッセージの正確さを高め続けてきたからである。
コミュニケーション能力を高めたいと思っている人は、自分のアウトプットやメッセージの「正確さ」を振り返ってみると良いかもしれない。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
【プロフィール】
著者:熊代亨
精神科専門医。「診察室の内側の風景」とインターネットやオフ会で出会う「診察室の外側の風景」の整合性にこだわりながら、現代人の社会適応やサブカルチャーについて発信中。
通称“シロクマ先生”。近著は『融解するオタク・サブカル・ヤンキー』(花伝社)『「若作りうつ」社会』(講談社)など。
twitter:@twit_shirokuma
ブログ:『シロクマの屑籠』