ある会社で、後輩が先輩に「考えて仕事しなさい」と言われていた。

後輩は「考えてますよ」と言う。

だが先輩は「ちゃんと考えてない」と厳しい。

「では、ちゃんと考えるとは具体的にどういう意味なのか、きちんと説明してください」

と、後輩も負けていない。

 

先輩は、そんなこと説明するまでもない、といった風に

「深く考えることだよ」

と言った。

 

「深く考えるとはどういうことなのか」については、ついに先輩からは明確な回答は得られなかった。

後輩は考え込んでしまった。

 

————-

 

「下手の考え休むに似たり」というが、長考すれば良い考えが浮かぶ、というのは間違っており、正しく考えなければ、望む成果を得られない。

したがって、「深く考える」技術は、ビジネスパーソンとしてそれなり重要な技術であるといえるだろう。

さて、ここで疑問なのは当然「深く考える」とはどのようなことなのか、である。

もちろん、多くの先人達の意見が数多くあるわけで、「考える事」の本質については今更私がとやかく言うまでもない。

 

だが、「考える事」の専門家である多くの哲学者、思想家に共通して見られる態度は、一貫して

「当然としてきたことを疑う」

に尽きるだろう。

例えば17世紀の偉大な哲学者であり、数学者でもあったデカルトは次のように述べる

哲学は幾世紀もむかしから、生を享けたうちで最も優れた精神の持ち主たちが培ってきたのだが、それでもなお哲学には論争の的にならないものはなく、したがって疑わしくないものは一つもない。

これを見て、わたしは哲学において他の人よりも成功を収めるだけの自負心は持てなかった。

それに、同一の事柄について真理は一つしかありえないのに、学者たちによって主張される違った意見がいくらでもあるのを考え合わせて、わたしは、新らしく見えるにすぎないものは、いちおう虚偽とみなした。*1

アインシュタインが、ニュートン力学で当然としていたことにメスを入れたように、大きなブレークスルーはほとんどすべて、 前提を疑うこと、当然とみなされるものへの猜疑など、批判的姿勢から生まれる。

したがって、「深く考えること」においては、疑うことを重視しなければならない。

 

思い切って単純化してしまうと、「考えろ」と言っている上司、先輩は「当然と思っていることを疑え」と言っている。

 

卑近な例で申し訳ないのだが、私がかつて部下たちにテレアポをやらせた時のこと。

「考えて電話しろ」

と部下たちに伝えた。

当時、深い意図はなく、なんとなく「考えてやれ」と言っていたのだが、当時有能だった部下は「このやり方じゃなきゃダメですか?」と疑問を持ち、自分なりのやり方を経験の中で編み出していた。

例えば、テレアポの時間は9:00〜10:00、および17:00〜18:00が最も効率が良い、とされていたが、「本当にそうなのか?」と疑った一人のメンバーは、「実は8:30からのほうがいいのでは?」と実験をしていた。

彼は、当然とされていることを疑うことから始めたのだ。

 

このように、「よくわかっている」と思っていても、実はよくわかっていないことは数多くあり、「考えて仕事をする」とは、「自分には何がわかっていないか」を吟味しながら仕事をすることである。

 

そして、この「自分はよくわかっていないのではないか」と疑う姿勢は、「科学」を生み出した。

ユヴァル・ノア・ハラリは近代科学を生み出した「無知のパワー」について次のように述べる。

近代科学は「私たちは知らない」という意味の「ignoramusu」というラテン語の戒めに基づいている。近代科学は、私たちがすべてを知っているわけではないという前提に立つ。

それに輪をかけて重要なのだが、私たちが知っていると思っている事柄も、さらに知識を獲得するうちに、誤りであると判明する場合がありうることも、受け入れている。(中略)

科学革命はこれまで、知識の革命ではなかった。何よりも、無知の革命だった。科学革命の発端は、人類は自らにとって最も重要な疑問の数々の答えを知らないという、重大な発見だった。

イスラム教やキリスト教、仏教、儒教と言った近代以前の知識の伝統は、この世界について知るのが重要である事柄は既に全部知られていると主張した。(中略)

進んで無知を認める意思があるため、近代科学は従来の知識の伝統のどれよりもダイナミックで、柔軟で、探求的になった。*2

逆説的ではあるが、人は「知らないと知っていること」が究極的な力になるのである。

 

「企業」という組織についての知識一つを取ってみても、我々は経営について、マーケティングについて、果たしてどれだけのことを知っているのだろうか。

「考えて仕事をする」

とは、「実は自分は知らないのではないか」との問いかけを常に自らに課す仕事の方法なのだ。

 

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