付き合いが少ないことを「貧しい」と言うと、憤慨する人がいるかもしれない。

ならば、「弱い」と言ったらどうか。

これも、憤慨する人がいるかもしれない。

 

だが言い方がどうであれ、現代社会において付き合いが少ないこと、ましてや孤独に近い状態であることは、社会的生物として得ることが少なく、身体や精神の危機への備えが脆弱であることは確かだ。

だから、付き合いが少ないという状態を経済的な尺度で言えば「貧しい」ということになるし、生物の生存という尺度でみれば「弱い」ということになる。健康という評価尺度を持ち出すなら「不健康」ということになるだろう。

 

 

独りでも一応生きていける。だが、強く生きていくのは難しい

もちろん、付き合いが少ないくてもタフに生きている現代人はいる。

人間同士が助け合わなければ毎日の生活が成り立たなかった過去と比べれば、まだしも現代社会は独り暮らしをやりやすい。安全な都市空間。コンビニやスーパーマーケット。インターネット。そういったもののおかげで、金銭収入さえ確保できれば、現代人はほとんどのものを簡単に手に入れられる。“ご近所付き合い”や“村社会”的なしがらみにもあまり束縛されない。

 

それでも、付き合いの多寡は、生活の質や人生の難易度に相当な影響を与える。

 

近年は、孤独な生活は健康に良くないとする研究が立て続けに発表されている 。身体面でも精神面でも、健康を保ちたければ付き合いは無いよりはあったほうが良い。

 

「孤独死は独居老人より独身40代のほうが多い」特殊清掃人が断言

 

上掲リンク先の文章は『SPA!』によるものなのでちょっと煽りが効いているが、実際問題、こうした危機に直面しやすいのは孤独な一人暮らしをしている人だろう。

不摂生があっても誰もたしなめてくれず、悩みやストレスを愚痴ったりシェアしたりする相手がおらず、健康が害される段階に至っても誰も病院に連れていってくれない状態では、人は意外と簡単に死んでしまう。ワーカホリックな人も、繁華街を遊び歩いている人も、自宅にひきこもってインターネット漬けになっている人も、いずれもそうだ。

 

孤独でも健康な状態を保つためには、人一倍の節制とマネジメント能力、健康に対する注意深さが必要だろう。そういったものが無くても健康を維持できるのは、二十代から三十代まで、あるいはせいぜい四十代あたりまでだ。歳を取るにつれて、健康マネジメントの必要性と難易度は高くなっていく。

健康以外にも、人付きあいはたくさんのものを提供してくれる。コネクションがあること・顔が利くことはビジネスでも趣味生活でもプラスの影響をもたらす。多種多様なものの考え方に触れること・知的な刺激を与えられることも、付き合いがもたらすプラスの面だ。

 

こうしたプラス面のいくらかはインターネットによって代替できるようになったが、実際に人に会って話をしなければ得られない刺激はまだまだある。なにより、コネクションを作り上げるほどの“信頼”や“信用”を得るには、やはり付き合いが欠かせない。

 

そうした付き合いに伴うメリットは、近年はソーシャルキャピタル(社会関係資本)と名づけられて注目され、研究の対象にもなっている。アメリカの話だが、チャールズ・マレー『階級「断絶」社会アメリカ』によれば、近年のアメリカでは、経済力のある人のほうがこのソーシャルキャピタルにも恵まれているという。

 

これによれば「下町の貧乏人は、うまく助け合って生きている」というステロタイプは現代のアメリカ社会には当てはまらない。経済的に貧しい人は、付き合いの面でも貧しく、孤立しやすい。お金も人脈も“強者総取り”の構図が、この本には容赦なく記されている。

 

それともしがらみを最小化した自由な社会か、それとも付き合いの格差社会か

日本でも、こうした“強者総取り”は他人事ではない。

郊外空間や都市空間で人々が生活しはじめ、地域共同体が衰退し、思想面でも空間面でも個人主義が浸透していったという点では、日本は着実にアメリカ社会の後を追いかけている。

独りでも生活しやすい社会のインフラができあがり、その利便性を生かして自由に暮らせるようになったこと自体は歓迎すべきことだろう。しかし、どれだけ社会のインフラができあがっても、やっぱり人は独りでは生き辛い。健康や生活もマネジメントしにくいし、信頼や信用も獲得しにくい。

 

大昔の村社会などとは違って、現代における付き合いは、義務として課せられるものではない。付き合いをしたい人はすればいいし、しない人も当座は生きていけるだろう。だが、それゆえに、付き合いがもたらす“果実”は付き合いの盛んな人のところにとことん集まり、集まらない人のところにはとことん集まらなくなってしまった。

この構図を、しがらみを最小化した自由な社会と呼ぶべきだろうか。

それとも、付き合いの格差社会と呼ぶべきだろうか。

 

自己マネジメント力のしっかりした個人と、たくさんの人と難なく人付き合いをこなせる人にとって、今日の社会は定めし最適だろう。若くて行動力のあるうちは特にそうだ。だが、誰もが自己マネジメント力やコミュニケーション能力に恵まれているわけではないし、若さゆえの行動力は、やがて失われる。病気を患い、それによって付き合いを失ってしまう人もいるだろう。

「驕れる者も久しからず」。しがらみが少なく自由な社会は基本的には良いものだが、付き合いが少ないことが貧しさや弱さに直結する社会を、私は、無邪気に寿ぐことはできない。

 

 

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(2020/8/28更新)

 

【プロフィール】

著者:熊代亨

精神科専門医。「診察室の内側の風景」とインターネットやオフ会で出会う「診察室の外側の風景」の整合性にこだわりながら、現代人の社会適応やサブカルチャーについて発信中。

通称“シロクマ先生”。近著は『融解するオタク・サブカル・ヤンキー』(花伝社)『「若作りうつ」社会』(講談社)など。

twitter:@twit_shirokuma   ブログ:『シロクマの屑籠』

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