まず前提として、人間は元来「論理的に考える」のは苦手である。

 

ノーベル経済学賞を受賞した経済学者、ダニエル・カーネマンは次のような問題を引き合いに出す。*1

できるだけすばやく、論理的に成り立つかどうか答えてほしい。二つの前提から最後の結論は導き出せるだろうか。

すべてのバラは花である。
一部の花はすぐにしおれる。
したがって、一部のバラはすぐにしおれる。

無論、回答はNOである。

だが殆どの人は「YES」と思ってしまう。

 

カーネマンは、「ほとんどの人の頭にはもっともらしい答えがすぐに思い浮かぶ。だが、それは多くの場合間違っている。」という。

これを打ち消すのは至難の業だ。
というのも、「だってバラはすぐにしおれるじゃないか」という内なる声がしつこくまとわりついて、論理をチェックするのが難しくなるからだ。(中略)

たいていの人は、結論が正しいと感じると、それを導くに至ったと思われる論理も正しいと思い込む。
たとえ実際には成り立たない論理であっても、である。

ここで重要なのは「人ならだれでも論理が苦手」であるという事実だ。

もちろん中には「用心深い人」もいる。

しかしそれは彼が、意図的に努力して注意深くなるように努力しているから、そうなのであって、人は「論理が苦手」という脳の構造そのものから逃れることはできない。

 

なので、それなりの頻度で「仕事はできるのに、ロジックは破綻している人」に出会う。

例えば、勘がよく、極めて有能な経営者であっても、しばしばその結論に至った筋道を説明できない。傍から見ると「どう考えても、不条理なこと」を言っているので、周りは困る。

 

 

だが、逆に「論理的に考えること」は、訓練次第で身につく、と考えることもできる。

「論理的思考などいらぬ」という潔い方もいるだろうが、仕事には論理性が必要なシーンも多い。

では「論理的思考」がどのような訓練で身につくのか。

 

例えば国語の勉強である。

テストで「主人公が次のような行動をしたのはなぜか?理由を説明せよ」といった理由を尋ねる設問がある。

こう言った設問は一種の「訓練」だ。

何回も何回も、

「◯◯だから。」

と語尾につけて解答し、それにマルバツをつけられていくうちに、「スジが通っている」「通っていない」を徐々に判断できるようになっていく。

こんなところから、訓練は始まる。

 

他にも「著者のいいたいことは何か?要約せよ」という設問に、多くの人は 文中に書かれていることではなく「自分が思ったこと」を答えてしまう。

「絶対に勝手に著者の意見を推測するな。文中に書かれていないことは、単なるお前の意見だ。文中から探せ」

と国語の先生は言うが、そういった場で都度指摘され「ああ、私は独りよがりなんだな」と気づくうちに「人の意見」と「自分の意見」の差に気づくようになる。

「国語」は非常に重要な訓練の場なのだ。

 

また、大学でも訓練を受ける。

 

昔、論文を書く時に教授に「あなたの意見を書く部分、先行研究の部分、客観的なデータの部分がごっちゃになっていて、論文の体をなしていない」と怒られたことがある。

こういうものは、勝手な形式で書いてはいけない。論理的に説明が必要な「論文」は、わかりやすくするために、ある程度形式が決まっているのである。

例えば、

先行研究(確かとしていい事実)

課題提起と仮説(自分の推測)

実験手法と結果のデータ(事実)

自分の結論(意見)

を、論文では順序立てて書かないといけない。

これを身につけるため、他者の論文を読み漁り、説得力のある書き方を真似し、先生から訂正をもらって書き直す、その訓練が、文章力を高め、ひいては論理的に考える力を高める。

 

「論理」は、こう言った地味な訓練の中で磨かれる。

「学校教育は役に立たない」と言われがちだが、社会に出てから必要な技能の訓練方法についての知恵が、学校教育には数多く含まれている。

 

「論理的に考える/書く」は、人間の本能とは異なるので、ある程度の期間に渡る訓練が絶対に必要である。だから、社会人になってから急に「論理的であれ」と言われても、これは短期間で身につくものではない。

ちょっとした「研修」や「読書」で身につくタイプの技能ではないのだ。

したがって、もし部下/新人が「論理に弱い」のであれば、それは学校教育と同じような、辛抱強い訓練が必要であることを意味する。

 

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