インテルの元CEOである、アンドリュー・グローブは
「マネジャーのアウトプットは、その下にある組織のアウトプットである」と述べた。
この言葉はもちろん正しい。
マネジャーは部下の業績に責任をもっており、マネジャー個人がいくら実績をあげても「マネジャーとして」の働きとはいえない。
つまり、部下が成果をあげて、始めて「よく働いた」と認められる。
だが、残念ながら「部下に成果をあげさせるマネジャー」は、それほど多くない。
実際、厚生労働省の資料によると、「管理職に不足している能力」として、部下や後継者の指導・育成力や、リーダーシップ・統率力をあげる企業が、突出している。
(平成26年度版 労働経済の分析 http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/14/dl/14-1-2_03.pdf)
この理由はいくつか考えられるが、的を射ているのは、ピーター・ドラッカーの指摘だろう。
昇進人事における失敗の最大の原因は、人事を行った者が、新しい仕事が要求するものについて徹底的に考えることを怠り、しかもそのポストについた者にもそれを考えさせないことにある。(中略)
そのよい見本が、数か月前、ほとんど泣きださんばかりにして私に電話をしてきた優秀な元教え子だった。
「一年前、初めて大きなチャンスを手に入れました。技術部長になりました。でもいまでは、もう終わりだと思われています。前よりずっとよい仕事をしたのにです。特許をとれる製品を三つも開発したのにです」
多くのマネジャーは「プレイヤーとして」あげた業績によって、マネジャーに昇進している。
それは、社内の納得感からすれば、当然のことではある。
しかし、マネジャーとプレイヤーでは求められる成果の質が異なる。
それゆえ、「名選手、名監督ならず」という事象が、会社のあちこちで発生してしまう。
「実績を作り、なおかつ人を育てる」希少なマネジャーは、ダメマネジャーとなにがちがうのか
では、「実績を作り、なおかつ人を育てる」希少なマネジャーは、一体何をしているのか?
ソウルドアウト代表の荻原氏は、「本質的には、5つあるのではないか」と述べる。
荻原氏:
「部下の能力を引き上げるマネジャーは、一体何をしているのか」というテーマは経営の最重要課題の一つです。
実際、「実績をあげるだけ」であれば、そこそこのマネジャーでもできますが、「実績をあげながら、人を育てる」マネジャーは希少です。
ですが、会社を長期的に繁栄させるためには「人を育てるマネジャー」こそ、重要です。
そこで、我々は部下の育成が「苦手」なマネジャーと、「得意」なマネジャーを比較し、その行動特性を調べました。
結果、良いマネジャーにあるものは、以下の行動特性であることがわかりました。
1.積極的にノウハウを発信する
これは直感とも合致すると思いますが「ノウハウを抱え込むマネジャー」と「ノウハウを発信するマネジャー」では、やはり後者の方が圧倒的に人を育てます。
特に言葉なり、文章なりで発信するには「ノウハウの体系化」をしなければなりませんから、ノウハウを発信するマネジャーは、わかりやすく仕事のやり方を教えることが上手であるケースが多いのです。
逆に、ノウハウを抱え込んでしまうマネジャーは、コミュニケーション力が低いか、もしくは部下に脅威を感じているケースも多く
「部下を育てたほうがメリットが大きいよ」
というメッセージを、制度の改訂や経営者の発信を通じて、何度も伝えなければなりません。
2.「自分で考えろ」と言わない
「部下に考えさせるのが良いマネジャー」と言われることもあります。
間違ってはいないのですが、「育成」というテーマから考えると、「自分で考えろ」とあまり言わないマネジャーのほうが、人を育てます。
実施、部下を最も育成しているマネジャーは、「成果の実現性が高く、納得感のあるやり方」を逐一指導していたマネジャーです。
彼らは「絶対成果が出るから」と、正確にそのやり方をトレースさせるところから指導を始めていました。
「自分で考えろ」は、ともすればマネジャーが指導を手抜きする言い訳になりがちです。
育成が不要の高い能力を持つ人ばかりが揃っている部署では良いかもしれませんが、育成が必要な部署では不向きです。
3.「自分の言葉」で語る。
これは部下の立場としても、共感する人も多いのではないでしょうか。
上から言われたことを、「社長が言ってたから」とか「部長が話したから」と、そのまま部下に伝えても、部下は成長しません。
なぜなら、トップが語る言葉は「全社」に向けてのもの、部長が語る言葉も「部全体」に向けて語られた言葉であり、「個人」に向けられたものでは無いからです。
「個人」が今何をすべきか、どうすれば成長するかを、個人個人の状況を見て、適宜マネジャーが「翻訳」をしなければ、トップがいくら熱心に語ってもダメなのです。
また、時に「社長が言ってるんだから」と言うことは部下からすれば「責任逃れ」とも取られかねず、それでは部下が「頑張ろう」とは思えないでしょう。
4.リアルタイムのフィードバック
良いマネジャーは、とにかく部下へのフィードバックが早いです。
その為、部下の成長も早い。
例えばある開発のマネジャーは、プログラマーからのレビュー依頼に対して、3時間以内に必ずレビューを返しています。
これを「一週間後の定例で」などと悠長なことをしていれば、部下も指摘がスッと入ってきませんし、その間の時間も無駄になります。
また、一週間もたった後、「やり直し」と言われたら、部下も嫌な気分でしょう。
また、ある営業のマネジャーは、営業同行をした後のフィードバックを、必ず「お客様先からの訪問帰り」にやっています。
これも「記憶が鮮明なうちにフィードバックする」ことにより、レビューの効果をあげています。
5.自主的なコミットメントを引き出す
一言で言うと、「目標を押し付けず、部下が自発的に目標を決めるように促す」マネジャーは、人を育てるのが非常に上手です。
でも「部下が自主的に目標を決めたがる」なんてことが起こるのでしょうか?
人を育てるマネジャーを観察すると、彼らが非常にそれをうまくやっていることがわかります。
具体的には、人を育てるマネジャーは、「自分の仕事を魅力的に見せる」ことで、部下がその仕事をやりたがるように仕向けているのです。
これは一種の「社内マーケティング」とも言えます。
「その魅力的な仕事を私もやりたい」という部下であれば、その人物から目標を引き出すことは容易でしょう。
*****
以上のように、「人を育てるマネジャー」は、平凡なマネジャーに比べ、遥かに多くの力を部下育成に割いています。
弊社においては、こういった「人を育てるマネジャー」に高い評価を与え、会社が継続的に発展を遂げることができるよう、方向付けをしているのです。
【お知らせ】
・安達裕哉Facebookアカウント (安達の最新記事をフォローできます)
・編集部がつぶやくBooks&AppsTwitterアカウント
・すべての最新記事をチェックできるBooks&Appsフェイスブックページ
(Photo:Sgt. Pepper57