『「富士そば」は、なぜアルバイトにボーナスを出すのか 』(丹道夫著/集英社新書)という本を読んでいて、ちょっと「引っかかる」ところがあったのです。
「富士そば」は、首都圏を中心に130店舗以上を展開する立ち食いそばチェーンで、アルバイトにもボーナスや有給休暇を支給し、社員には年間1000万円を超える報奨金や、さらには海外旅行までもが用意されているという「ホワイト企業」だと言われています。
マニュアルよりも各従業員の裁量に重きを置き、出されたアイデアを積極的に採用している丹会長は、こう書いておられるのです。
人間は、いろんなことをやらせた方が良い。あるときは現場で働いたり、あるときは本部で数字を確認したり、あるときは金融機関との交渉を行い、資金集めに奔走したり、いろんな方面に関わることで仕事の全体像が見えてきます。
さらに、関わるポイントが多くなるほど、会社に貢献していることが実感できるので、最初は嫌々でも、次第に意欲が出てくるものです。
たとえば、店舗開発部が見つけ出した物件を渡されても、現場や監督者は受け身になり、あまり愛着が湧かないということが往々にしてあります。逆に自分で汗水たらして見つけた物件であれば責任感も芽生え、本気で売上を伸ばそうという気になるでしょう。
そして、開発をやらなくてはいけないし、営業のやり方も考えなくてはいけない、さらに予算も管理も資金調達も……と一人で忙しく物事を考えている状態の方が、いろいろなことに気を配れるものです。
ナポレオンが、「仕事を頼むときは、一番忙しい者に頼め」という言葉を残したそうです。それを知って、我が意を得たり、と感じました。
忙しい人ほど、物事をテキパキ片づけようとするので、仕事ができます。だから私は仕事を頼むとき、フロアを見回して、一番忙しそうな社員にお願いすることにしています。
うーむ、この「仕事を頼むときは、一番忙しい者に」というのは、頼む側からすれば正しいのかもしれないけれど、頼まれる側としては、どうなのだろうか?
こんなに忙しいのに……とか、あいつのほうが暇そうなのに……と、不満をつのらせてしまいそうな気もするんですよね。
丹会長は、それぞれの社員の能力とキャパシティを把握した上でやっているのでしょうけど。
僕が研修医だった時代、そして、研修医を指導していた時期のことを思い返すと、同じ世代のなかで、「仕事が集中しがちな人」というのは、やっぱりいたんですよね。
研修医に仕事を割り振る側も、なるべく平等に、と意識しつつも、「あいつはまだ大丈夫そう」とか、「そんなに受け持ちの数は多くないけれど、ちょっとつらそうだな」とか、いろいろ考えているのです。
僕はどちらかというと、「あまり負荷をかけられないグループ」だった記憶があるのですが、人というのは難しいところがあって(それも、医者になろうという、自負心が強い人間だからなのかもしれませんが)、「受け持ち患者が多くて、大変だよ」とボヤキながらも、自慢げな同僚をみて、少し寂しくなったのを覚えています。
たしかに、負荷をかけられた人は、それで潰れてしまわなければ、どんどん仕事の効率的なやり方を身につけていきました。
その一方で、傍からみると「今の実力と仕事ぶりだと、周りがフォローしておかないとかなり危険」だと感じるような人でも、「なんで俺にもっと患者を担当させないんだ!」と仲間内で不平をもらしていたことが、少なからずあったんですよね。
こうして、仕事の実力も周囲からの評価も、差がつくばかりになってしまいます。
人間というのは、周りと自分を比べずにはいられないところがあって、「忙しい自分」「上司に信頼され、仕事を任されている自分」にやりがいを見出す人は多いし、給料は同じで仕事はラクなはずなのに、「自分はちゃんと仕事をさせてもらっていない」と不安になることもあるのです。
前者は、やりすぎなければ優秀な職業人になっていくことが多いのですが、後者は、やる気をなくしてしまったり、不満がつのって周りに悪影響を与えたりしがちです。そうすると、周囲から「扱いにくい人間」というレッテルを貼られ、さらに孤立してしまう。
医療の世界でも、周囲とのコミュニケーション、情報共有というのは重要で、大きなミスを引き起こす可能性もあります。
僕の経験では、前者の「働きすぎ」で燃え尽きてしまう人よりも、後者の「自己評価と他者からの評価のギャップを埋められずに、孤立していく人」のほうが、多かったのです。
頼む側からすると、仕事は「効率よくこなしてくれる人」「結果を出してくれる人」にお願いしたいですよね。
でも、あまりにも偏りすぎると、やっぱり、うまくいかなくなってしまう。
できる人の実力をさらに伸ばして、周りの分も仕事をさせてしまうのが正しいのか、仕事ができない人もなるべく平等に扱って、全員が均質になるようにするべきなのか。経済政策みたいな話ですが、後者のほうが理念としては心地よいですよね。
現場では、後者は「フォローする側」に大きな負担がかりがちですし、たくさんの仕事が押し寄せてきて、まずは今の状況を乗り越えなければならない、という際には、「それどころじゃない」ことも多いのです。
「仕事を頼むときは、一番忙しい者に頼め」は、「正しい」のか?
人や組織を動かして結果を出す、ということと、そこで働くひとりひとりを納得して、「人を育てる」こと。それを両立するのは、本当に難しい。
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著者:fujipon
読書感想ブログ『琥珀色の戯言』、瞑想・迷走しつづけている雑記『いつか電池がきれるまで』を書きつづけている、「人生の折り返し点を過ぎたことにようやく気づいてしまった」ネット中毒の40代内科医です。
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