どんな会社においても、「成果を出しているはずなのに、上司にうとまれてしまう人たち」がいる。

なぜ彼らはうとまれてしまうのだろうか。

 

*****

 

最近、知人から上司との関係について、相談を受けた。

「上司とうまく行っていない」と彼は言う。

 

「具体的には?」と聞くと、彼は上司とよく意見が対立する、という。

「自分自身は「論理的」と思っているらしいですが、実は逆にとても感情的なんです。結局、何かを決めるときに「好き嫌い」で決めてしまう。」

 

「それによって、最近困ったことはありましたか?」

「現在の主力商品が、どんどん競争力を失っているんです。年々、利益率が落ちている。」

「それで?」

「私は主力商品のリニューアルを提案したんです。競合と比較して販売予測も作りました。でも上司は、「まだその時期じゃない、お前はわかってない。」って言うんです。冗談じゃない。私は予算を達成すべくギリギリまで頑張っているのに。」

「それは大変ですね……」

「今の上司は、自分が立ち上げた今の主力商品に思い入れが強いですから、なかなかそれを変えられないんですよ。」

私は深く同情した。

 

「こういう場合、この上司とどう付き合っていけば良いんですかね。もうこの会社を見切ってもいいんですかね……。」

 

 

そう言えば、全く同じような状況を見たことがある。

その社長も意思決定に際して「感情」がよく先行してしまう人だった。

自分が「嫌だ」と思うことに関しては、どんな数字を見せても、頭を切り替えてもらえないのだ。

 

例えばその会社には、予算未達の常連の役員がいた。

その役員は優しいので、人気はあったが、残念ながら数字を作るのはそれほどうまくなかった。

全社の予算を達成するためには、彼の部署のマイナスを埋めなければならない、そんな状態が続いていた。

 

そしてついに、他のグループの役員たちが

「彼のせいで、全社予算の達成が危うい、彼を役員からおろしてくれ。」と言い出した。

一部の役員たちは社長に詰め寄る。

 

社長は言った。

「いきなり役員をおろしては、彼がかわいそうだ。彼を慕っている部下の印象も悪いだろう。」

詰め寄った役員たちは憤慨した。

「我々のほうが、よほど働いてます。彼は部下にいい顔をして、人気を取っているだけです。」

しかし、社長は彼を役員に据えたまま、動かなかった。

 

一体なぜ、社長は彼を役員に据えたままだったのか。

理由は単純だった。社長就任の時から、その役員は社長に付き添ってきた存在だったのだ。相談役、といえば聞こえは良いが、要はYESマンである。

だから、彼を何とかして役員に据え、周りに味方を残しておきたい、社長はそう考えていた。

 

そして、社長は妙な理屈を作り出した。

「彼のマネジメントは、内発的動機に基づくチームづくりを目指していて、成果が出るには時間がかかる。」

それを聞き、周りの役員たちは口には出さないが、こう思っていた。

「社長にはついていけない。」

 

そして社長は逆に、直訴したリーダーたちを疎ましく思うようになった。

「彼らは部下に不当に圧力をかけて、手段を選ばない仕事の仕方をしている。今の時代のマネジメントではない。」

ある役員は、逆に左遷をされてしまった。

 

私はこの経験から、一つの貴重な知見を得た。この世には、

「感情が先にあり、理屈は後付け」の人が数多くいるのだ。

 

事実、シカゴ大学の公共政策を担当するハワード・マーゴリスは「判断と理由付けは別のプロセス」と言う。

人は、何らかの判断を行うと、その正当性を説明すると自分が信じられる理由を作り出す。だが、この理由付けは、後から考えられた合理化にすぎない。

この社長は、「感情が先」の人だった。

先に述べた、商品リニューアルを躊躇する上司も同様だろう。

 

「感情が先」の人と「理屈が先」の人は、どんな組織でも、対立するものなのだ。

そして、感情派の上司は、後者の部下を、優秀であればあるほど、煩わしいと感じることも多いだろう。

 

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誤解なきように言っておくと、企業のように複雑なプロセスを持つ組織では、施策の正しさは「感情が先」かどうかとはあまり関係がない。

論理が正しい結果を生むとは限らず、時には感情が、理屈を上回る良い判断をするときもある。

私は上の例で挙げた上司や社長の判断が間違っている、とは言うことができない。

 

だが、あくまでそれは結果論である。

施策は、予め結果を予想することができない。

だから、「理屈派」の部下にとって、「感情派」の上司は欠点だらけに見える。

 

気まぐれで、考えが読めず、えこひいきをし、数字に弱い。

そんな上司に見える。

優秀な部下であればあるほど、そんな上司に我慢がならなくなるだろう。

 

だからこそ、実はこう言えるのだ。

「上司の欠点を気にしてはいけない。」と。

 

実は、ピーター・ドラッカーは「上司が得意でないことをあまり心配してはならない」と言っている。

部下は上司を改革したがる。有能な高級官僚は新任の閣僚に対する指南役を自任しがちである。そしてもっぱら限界を克服させようとする。

しかし成果をあげる官僚は「新長官は何ができるか」を考える。そして「議会や大統領や国民との関係づくりがうまい」のであれば、そのような能力を十分に使わせるようにする。

優れた政策や行政も、政治的な手腕をもって議会や大統領に提示しなければ意味がない。しかも新閣僚は、官僚が彼を助けようとしていることを知るならば、政策や行政についての説明にも耳を傾ける。(中略)

上司の強みを生かすには、問題の提示にしても、「何を」ではなく、「いかに」について留意しなければならない。何が重要であり何が正しいかだけでなく、いかなる順序で提示するかが大切である。

部下は、上司の欠点を直させようとしたり、不満を述べて上司と対立してはならない。

本質的にそれは、時間の無駄である。

 

件の上司にも、社長にも「感情を攻略」するには、部下がなさねばならない、やり方が存在する。

 

上司の思い入れのある商品をリニューアルする、といえば、上司ならずとも感情を害する。

逆に、思い入れのある商品を全面に立て、新商品をオプションとして売ることは上司の顔を立てることにつながるかもしれない。

そうすれば、上司は率先して、顔なじみのお客さんに新しいものを紹介して回ってくれるだろう。

 

社長のお気に入りのYESマンを排除しようとすれば、社長は彼を敵だと思うだろう。

逆に、彼がもっと、社長と親しくなろうとし、一緒に飲みに行き、彼の悩みを聞き、敵ではないことを示せば、社長は人事を見直すかもしれないし、ひいては「数字を作る人」を信用する文化を社内に定着させるかもしれない。

 

結局のところ、真に必要なのが「結果」なのであれば、逆にプライドを捨てて、手段を選ばないのも、大人の選択肢なのだとは思うが、いかががだろうか。

 

 

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(2024/12/6更新)

 

 

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