多くの企業は、月80時間程度の残業は「普通」と思っている。月60時間程度はおそらく、「当たり前」と考えている。

月80時間の残業では「ブラック企業」にならない?

株式会社ディスコが興味深い調査結果を発表した。学生と企業の採用担当者を対象にした、「ブラック企業についての考え」に関するアンケートだ。調査結果は下記に公表されている。

・株式会社ディスコ「就活生・採用担当者に聞いた「就活ブラック企業」-2014年4月発行」2014年4月25日(こちら

5月5日の毎日新聞の記事「<ブラック企業>学生と企業の認識の差 給与金額で顕著に」(こちら)には紹介されていないが、この調査結果で特に目を引くのが、長時間残業に対する企業側の「寛容さ」だ。”

 

上の記事の著者は、月80時間の残業が、厚労省の言う「過労死ライン」に当てはまることを挙げ、企業を糾弾している。

 

”厚生労働省は、過労死について、「発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月ないし6か月にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できる」としており、ここから月80時間の時間外労働が一般に「過労死ライン」ととらえられている。厚生労働省「脳・心臓疾患の労災認定―「過労死」と労災保険」こちら参照。”

 

 

さて、月80時間の残業、というとどの程度の仕事だろうか。週休2日とすると、20日稼働で毎日4時間程度の残業、ということになる。

9時に出社、お昼1時間休憩で、終業は18時、すると毎日22時まで働いている計算になる。

 

毎日夜10時まで働くのは、確かに大変だ。家に帰るのは夜11時頃だから、家に帰るのは寝るときだけ。そういう生活だ。以前勤めていた会社はまさしくこのような状態だったが、当時はそれがあたりまえだと思っており、「ブラック」と思ってはいなかったように思う。

(今はどのようになっているのかは知らない。労基署が入ったとの噂を聞いたが、真偽は定かでない)

 

 

さて、企業を糾弾するのはカンタンだ。だがこれでは問題の解決にはならない。このよう意識のちがいの根本は「労働時間の短縮」を叫ぶだけでは解決しない。

 

現場の感覚として正直に言えば、「8時間では全く時間が足りない」と感じる。例えば上のアンケートは採用担当者から得た回答だが、今の新卒採用は普通にやっていたのではまず良い人は取れない。

説明会を工夫し、配布資料を作り、リクナビの更新をし、学生の質問に答え、社内の人と面接の日程調整をし、ブログを書く。そんなことを毎日毎日行って、ようやく「少し成果が出る」と言った仕事だ。

「成果など関係なく、6時になったら帰れ」とこの教授は言いたいのだろうが、そんなに責任感の希薄な人もいないし、成果が出なければ出世できない。したがって、労働はどうしても長時間化する。

 

「人をもっと雇え」と言う方もいるだろうが、人件費の総額を上げることは今の多くの企業の利益率を考えると難しいだろう。だから、私はこの記事を書いた大学教授が、「あまりに企業の実態を知らない」と思う。

「効率的に働け」という人もいる。しかし、成果はたくさんのムダなチャレンジの上に成り立っていることを考えれば、「効率的にやる」事を最初から目指していてはまず成果は出ない。

総じて言うと、「仕事がますます難しくなっている」のが現状であり、企業は、「長時間労働」を求めているのではなく、「成果を求めているだけ」なのだ。

 

 

したがって、突き詰めると「短時間働くだけで、成果をあげる方法」を見つけなければこの状況を打開できない。だが、おそらくそんな都合のいい方法はないだろう。

 

よって、我々には大きく3つの選択肢が提示される。

・企業の競争力を高めない。国民全体の生活水準を緩やかに落とし、皆で窮乏をわかちあう。

・企業の競争力をトコトン高める。労働者は時間ではなく、成果によって給与を支払われる。

・上2つの折衷案

 

現実的にはそう極端な政策は取れないので、折衷案が取られる可能性が高い。政府の産業競争力会議はそういうことを目指しているのだろう。

 

”労働時間制度:「給与は成果払い」 年収1000万円超

政府の産業競争力会議の民間議員が、22日の会合で示す「新たな労働時間制度」案が明らかになった。

年収1000万円程度以上の会社員らを労働時間規制の対象外とし、給与を仕事の成果だけに応じて支払うことが柱。安倍晋三首相は第1次政権時の2007年、同様の規制緩和を目指したが、「残業代ゼロ法案」と批判され、断念している。

 労働基準法は法定労働時間を「週40時間、1日8時間」と定め、残業が月60時間を超えれば企業は原則50%以上の割増賃金を払う必要がある。

しかし民間議員の提案は、特定の職務で「高収入・ハイパフォーマー型」(年収1000万円以上など)の社員については、本人の希望により、働き方や労働時間の配分を個人の裁量に委ねる。そのうえで給料は仕事の成果、達成度のみに応じて支払うとしている。当初は組合員数の割合が社員の過半数の企業に限定する。

高い能力を持つ者が、自らの意志で犠牲を払う。これが現代日本におけるノーブレス・オブリージュなのだろうか。

 

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(2022/5/26更新)