ゴールデンウィークを過ぎ、梅雨があけ、もうすぐ夏休みがみえてくる、という時期になると、春から入ってきた新人たちは、2つに分かれていくのです。
ひとつめのタイプは、仕事に慣れ、自信もついてきて、やりがいを感じるようになってくる人。
このタイプは、調子に乗り過ぎて、なんでも自分でやろうとして大きなミスをしてしまう、という危険性はあるのですが、総じて、あまり心配しなくて良い人たちです。
そして、ふたつめのグループは、「自分はこの仕事に向いていないのではないか」と悩んでしまう人たち。
仕事があまりにきつくて、鬱になってしまっている、という状況であれば、病院を受診してもらわなければならない案件です。
そこまではいかないのだけれど、なんとなく、今の仕事が自分には合っていない、向いていないという思いがつのってきて、でも、せっかく入った会社であったり、仕事であったりすると、そう簡単に辞める、という決断もできなくて……
僕は後者のタイプで、医者なんていう「共感力」とか「器用さ」と、徹夜で当直しても翌日は平然と外来をやるような仕事は性格的にも体力的にも無理だと思い悩んでいたのです。
毎日、遅い時間に家で風呂に入りながら、「もう、明日は行きたくないな……いっそのこと、明日が来なければいいのに……」と思っていたものです。
それで、眠るのが怖くなって本を読んだり、『ダービースタリオン』をやりはじめたりするから、翌日がまたきつくなる、ようやく眠りについたら病院からの電話で起こされて、また眠れなくなる、という生活でした。
よく生き延びてこられたものです。本当に運がよかった……
さて、僕が仕事の「向き、不向き」について考えるとき、いつも、中島らもさんのこの文章を思い出すのです。
「中島らもの特選明るい悩み相談室・その2~ニッポンの常識篇」(中島らも著・集英社)より。
(「上司に『君の顔は営業向きでないから、なんとかしなさい』と言われて困っている」という女性の悩みに対する答えの一部です。中島さんの「自分は相手の言いなりにすぐなってしまって、営業マンとしてはダメだった」という述懐のあとに)
ただ、自分以外の優秀な営業マンは、たくさん見て知っています。
たとえば「関所破りのK」と異名を取った営業マン。普通、得意先の担当者と会うためにはアポイントメントが必要ですが、このKさんはアポもとらずにどんな会社でもずいずい入っていって担当者をつかまえてしまうのです。受付嬢を笑わせるのがコツだそうです。
「やってあげましょうのT」さん。普通の営業マンは「仕事をくださいよ」と頼み込む人が多いのですが、このTさんは逆です。どんと胸をたたいて、やってあげましょう、やってあげようじゃないですか、と相手に迫り、いつの間にか仕事を取ってしまいます。
「脂汗のS」さん。この人は少しでも緊張すると顔中から脂汗が噴き出します。汗はあごを伝って、得意先の机の上にぽたぽたとしたたり落ちます。口だけ達者な営業マンの中で、この脂汗の効果は大きいのです。Sさんにはいかにも「実」があるように見えてしまうのです。
要するに、優秀な営業マンとは、自分のスタイルを確立した人のことをさすのです。
「優秀な営業マンになるためには」「他人とうまくコミュニケーションを取るためには」なんてハウツー本は巷にあふれているのですが、この中島さんの回答というのは、「どうすればうまく人と接することができるのだろう?」という悩みに対しての、普遍的な答えになっているのです。
結局、「優秀な営業マン」というのは、ひとつの典型例にあてはまるものではなくて、その人それぞれの特徴をうまくアピールすることが大事、ということなんですよね。
「脂汗のS」さんは、どこまで意図的にやっているのかわからないのですが(本人はすごいストレスを感じながら仕事しているのかもしれないし)、「人前で緊張すること」が、相手にとっては「誠実さ」と認識されることもありますよね。
Kさんが人前で緊張してみせても相手はなんだかウソくささを感じてしまうでしょうし、Sさんが「やってあげましょう!」とアピールしてみても、相手からは「ムリしてるな、この人」という印象しか与えないような気がします。
大事なのは、自分の本質を見極めて、それにあったやり方をやることなのです。
しかし、この「自分のスタイルを確立する」というのは、やっぱり難しいことではあります。こういうのは、相手との「相性」という要素もあるわけですから。
「頼れる、自信満々の医者がいい」という患者さんもいれば、「話しかけやすい、優しい感じの人がいい」という患者さんもいるわけで、それぞれのストライクゾーンというのは、当然違っています。
やっぱり、臨機応変に対応しなければならないこともあるのです。
どうしても合わない、と感じる相手に関しては、うまくやりすごすというのもまた、大事なことのように思います。
できないことを無理にやろうとしてお互いにストレスを増していくよりは、合いそうな人に任せてしまったほうが良いケースは多いのです。
そうやってうまく人にお願いする習慣をつけておくと、人から頼まれる機会も増えて、結局、バランスがとれるようになっているんですよね。
他人にものを頼まない人には、周りも頼みにくい雰囲気になりがちです。
ある仕事への「向き、不向き」っていうのは、やっぱりあるとは思うのです。
ただし、それは「仕事をはじめて間もない時期から、スムースにいろんなことを処理できているように見えること」と、イコールではありません。
自分は向いていないと思い込んでいる人のほうが、試行錯誤を重ねて力をつけていったり、相手に対して親身になったりして、良い仕事をしてくれることも多いのです。
運と容量がよかっただけの僕が偉そうにする話ではないのですが、これまでいろんな人と仕事をしてきた経験では、「この仕事は向いていない」と自覚できる人というのは、けっこう、お客さんから信用してもらいやすいような気がするんですよね。
(2025/4/24更新)
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【著者プロフィール】
著者:fujipon
読書感想ブログ『琥珀色の戯言』、瞑想・迷走しつづけている雑記『いつか電池がきれるまで』を書きつづけている、「人生の折り返し点を過ぎたことにようやく気づいてしまった」ネット中毒の40代内科医です。
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