21世紀になっても、多くの企業は20世紀と同様に「非効率」を推奨している。
例えば「飛び込み営業」。
セキュリティゲートなどの登場で、飛び込み営業ができない建物は増えているが、一部の営業会社では今も変わらず「武勇伝」「頑張りの象徴」として扱われている。
あるいは「テレアポ」。
Sansanの調査によれば、営業担当者が新規顧客獲得の手法として、最も注力しているのは「テレアポ」だ。(参考:https://jp.corp-sansan.com/news/2019/meets.html)
もちろん、テレアポについても、未だに多くの会社で件数などがKPIとして扱われている。
ところが、残念ながら「飛び込み営業」も「テレアポ」も、実際には「非効率」と「迷惑」にまみれている。
例えば、新規のテレアポの成功率はだいたい1%以下。上手い人でも5%程度で、全体の90%以上は「無駄な時間」だ。
また、テレアポには適正があり、断り続けられることが苦手な人は心を病んでしまうときもある。
飛び込み営業はさらに非効率だ。
「セールスお断り」の張り紙を無視し、受付に不審がられ、やっとのことで名刺を渡しても、商談に至ることのできるケースはごく僅かだ。
大抵の人は、このハードさ故、5年も10年も、飛び込みを続けることはできない。
(余談だが、このあたりの営業活動のハードさは「すばる文学賞」を受賞した、不動産営業業界を描いた新庄耕の小説「狭小邸宅」に詳しい。面白いのでおすすめ。)
営業される側は「無駄」を感じ、営業をする側も「非効率」を感じている現状
さて、上のような状況は、データによれば、
・(購入する側)商談に無駄があると感じている 79%
・(営業する側)営業に無駄があると感じている 74%
と、双方にとって不合理であることが明らかになっている。
個別のシーンにおいても、上の調査のアンケートでは
・導入するつもりがないのに断れず、いやいや商談を受けたことがある 65%
・テレアポイントメント→57%は悪印象
・飛び込み営業→55%は悪印象
・商談の時間に内職をしたことがある 57%
など、お互いにとってあまり良くない状況であることは明らかだ。
では一体なぜ企業は「飛び込み営業」「テレアポ」などを、未だに行なっているのか。
「誰得」の状況が、なぜ放置されているのか。
もちろん、これは「非効率」であっても、企業側に利益が出るからだ。
テレアポ100件を行うのにかかる時間は、慣れれば20〜30分程度で、若手の人件費程度ならば1000円程度でできる。
高額商品、定期購入商品であれば、「飛び込み営業」ですら、十分利益が出てしまう。
一定確率で「テレアポ」や「飛び込み営業」で受注できるのであれば、あとはそれを横にスケールさせるだけで、それなりに安定した収益が得られる企業ができてしまう。
もちろん、こういった会社は、社員への負担が高いので離職率が高い。
だが「営業は使い捨て」と割り切れるのであれば、企業としては合理的な営業活動と言える。
企業としては合理的だが、社員や無関係の企業にとっては一種の「公害」という事実
かつて、私もそのような会社に在籍していた。
顧客からの反響を得るために「FAXDM」「テレアポ」「飛び込み営業」の3つを併用していた。
「飛び込み営業」は、非効率過ぎて途中からほぼ行われなくなった。
が「FAXDM」や「テレアポ」は延々と続けられており、新卒が入社してまず最初にやらなければならない仕事の代表が、新規顧客開拓のためのテレアポだった。
もちろん、「FAXDM」や「テレアポ」などへの苦情は多かった。
例えば、「FAXDM」は某有名リサーチ会社から名簿を買っており、一気に数万件、数十万件を送ることができた。
だが、FAXDMを送信するとたいてい、「誰に断って勝手にFAXをおくりつけてくるんじゃああああああ!紙代を出せコラあああああ!」という恐ろしいクレームの電話が来て、アシスタントさんたちが対応していた。
中には「訴えてやる」という電話もある。
もちろん、悪いのはウチだ。
テレアポも同様だ。我々は経営者向けにテレアポをしていた。
もちろん「話を聞かせてくれ」という経営者もいた。
また、中には、テレアポなれした経営者が、「商品には興味ないけど、たいへんだねー、頑張ってね。でももう電話してこないでね。」とものすごくテレアポに優しい対応をしてくれることもあった。
だが、「何だお前?」とか怖い声で言われたり。
「親の顔が見てみたい」と嘆かれたり。
事務の人らしき女性から「営業の電話は一切お断りしております」とすげなく断られたり。
「社長様はいらっしゃいますか?」と聞くと「お待ち下さい」と言われ、保留し忘れの電話から「社長、また営業電話ですー!断っていいですよねー?」と言う声が聞こえたり。
「今運転中だからやめてくれ(運送会社で社長自らがドライバーだったようだ)」と言われて凹んだりと、あまり嬉しくない対応のほうが遥かに多かった。
もちろん、悪いのはウチだ。
要するに「良いマッチング」を探るために、大量の「悪いマッチング」をせざるを得ないのが、ローラー行為であり、こうしたマスに対するアプローチなのだ。
そしてこれは一種の「公害」かもしれない。
「公害」は典型的な市場の失敗、外部不経済だ。
ある企業の顧客を探す活動が、関係のない人々に不利益を与えているこの状態は、まさに「公害」といえる。
もちろん、企業が立ち行かなくなれば、そこで働いている社員たちも仕事を失うことになる。
「食うために仕方ないだろ」という声があることも理解するし、当時の経営陣に「テレアポをやめろ」と言ったら、間違いなく「ハア?お前何いってんの?」という顔をされただろう。
しかし「公害」である以上は、企業はこれを放置してはならない。
まして、「給料払ってんだから」と、社員にこう言った行為を負担させるのは、公益性を著しく損なう。
大勢の人に迷惑をかけ、社員を使い潰すような企業に価値はない。
いきなりゼロにはできなくとも、すくなくとも、最小限にする努力をしなければならない。
企業のマーケティング能力が欠如していれば「公害」を垂れ流すことになる
では、「双方にとって不利益なマッチング」を防ぐのは何か。
それは間違いなく「企業のマーケティング能力の向上」である。
マーケティングが下手な会社は、問い合わせをもらえないし、お客さんを見つけることもできない。
だから、生き残りのために「無理な販売活動」を通じて、外部に公害を振りまく。
ピーター・ドラッカーは「販売とマーケティングは逆だ」という。
実のところ、販売とマーケティングは逆である。同じ意味でないことはもちろん、補い合う部分さえない。
もちろんなんらかの販売は必要である。だがマーケティングの理想は、販売を不要にすることである。マーケティングが目指すものは、顧客を理解し、製品とサービスを顧客に合わせ、おのずから売れるようにすることである。
「販売行為」の行き過ぎが、迷惑なテレアポや飛び込み営業を生み出すのであれば、それらをなくすのはマーケティングである。
逆に言えば、「マーケティング能力の欠如」こそ、迷惑な営業の正体だ。
例えば、最近、私のTwitterのダイレクトメッセージに、大量のスパムが届くようになった。
女子大生との交際に興味がある人が世の中にたくさんいることは理解するが、私に送られても困る。
ということで、片端から通報しているのだが、止む気配はない。
だが、これも一定数の反響があるから、仕掛ける側からすれば経済的に合理性があるのだろう。
経済学者であるジェレミー・リフキンの調べでは、一メガバイトのファイルをオンラインで送るのにかかる費用は、わずか〇・〇〇一ドルだそうだ。
スパム行為をやる側からすれば、10万人に一人、女子大生にお金を出す人がいれば、商売は成り立ってしまう。
おそらく、この手の迷惑行為はしばらく無くならないだろう。
だが振り返れば「テレアポ」も「飛び込み営業」も、同様のスパム行為に等しい。
「迷惑メール」に憤るならば、「テレアポ」も「飛び込み営業」も、なくしていくべきだと考えるのは、当然だろう。
それはひいては、企業のため、そしてなにより、そこで働く社員のためにもなるのだから。
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