この記事で書きたいことは、下記のようなことです。

 

・「部下を育てる」ことは「部下の能力を引き上げること」だと勘違いしていた

・上司が部下に出来ることは、最大限上手くいっても「行動パターンのちょっとした変容」くらい

・けれどそれで、あんまり出来なかった人を出来る人っぽくムーブさせることは出来る

・もしかすると、「育てる」ってそういうことの積み重ねなのかも知れないなあ

・なんだかんだで「インフラ整備」以上に効率よく人の行動パターンを変容させられるものはない

 

以上です。よろしくお願いします。

 

***

 

さて、書きたいことは最初に全部書いてしまったので、あとはざっくばらんに行きましょう。

「人材育成」というのは仕事においてものすごーーく大事な要素でして、もちろん色んな人が色んな言葉で語っていますし、本もたくさん出ています。

何百人も部下を育てた人たちの言葉は大変説得力があって、私も感心することしきりなんですが、ここでは一旦そこで読んだことを頭から追い出して、自分の言葉で「育成」について書いてみようと思います。

 

私、まだ働き始めの頃は、「育てる」ことを「部下の能力を引き上げる」ことだと思っていたんですよ。

 

皆さん、ドラゴンボール好きですか?面白いですよね、ドラゴンボール。

私ドラゴンボールは桃白白登場以前と登場以後で違う漫画だと思っているんですが、どっちのドラゴンボールも割と好きです。

バトル漫画としてのドラゴンボールも好きだけど、ウーロンやヤムチャと遊んでた頃のドタバタ冒険活劇も好き。

 

で、ドラゴンボールのナメック星に最長老さまがいるじゃないですか。

フリーザが来た時点でもうご高齢であんまり動けない、けどポルンガ作ったえらい人。

 

最長老さまの凄いところは、「対象者の潜在能力を引き出す」という力を持っていることでして、クリリンとか悟飯とか、ちょっと手をかざしただけでぐぐっと強くなる。

まあ強くなってもその時点ではフリーザに到底かなわないわけなんですけど、それでも「潜在能力を引き出す」っていう言葉自体に、なんかものすごーく憧れを感じましたよね。

 

私、仕事を始めた当初は、「人材育成」って極論そういうことだと思ってました。

ぱっと手をかざすだけでとまではいかないけれど、様々なアドバイスをしてあげて、部下の能力を底上げして、時には部下自身も気付いていなかった才能を引き出して、部下のパフォーマンスを上げていくこと。

もちろん、中にはナメック星の最長老さまのように、部下の秘められた能力をどんどん引き上げて、戦闘力を底上げできる人もいるのかも知れませんし、そういう人を「名伯楽」って呼ぶのかも知れません。

 

けれど、残念ながら私は最長老さまではなかった。

おかげさまで社会に出て20年くらいは仕事をさせて頂いてまして、結構長いこと上司としても立ち回って得た結論は、

「部下の能力を上司が能動的に引き上げることって、どうも基本的には無理っぽいな」

ということです。

 

いや、もちろん、「仕事を教える」とか「ノウハウを伝える」ということは出来るんですよ?

担って欲しい役割を説明して、それに伴ってタスクを切って、マニュアルを整備してやり方を教えて、タスクの粒度に応じて進捗管理をして、達成感を得てもらう。

結果、仕事を回すサイクルの中に、部下に適切に入ってもらう。

それはマネージャーにとって、やって当然の仕事の内です。

 

けどこれ、「育成」という話とはちょっとニュアンスが違いますよね?

ティーチングとコーチングの違いじゃないですけど、「やり方を教える」ことと「能力を引き上げる」ことは全く別です。

 

タスクを切って回すことが出来るようになっても、別にその人の元々の処理能力や読解力が上がるわけじゃなくって、上司の助力がきっかけになったとしても、ステータスアップには結局自助努力が必要なわけです。

で、いくら環境を整えてタスクを回せるようにしてあげても、どうしてもそこから学びを得てくれない人というのはいて、次のタスクの時はまた一からちゃんとお膳立てをしてあげないとやっぱり回せなかったりする。

 

全く同じことをしてあげても、自分からどんどん出来るようになっていってくれる人と、全く出来るようになってくれない人がいる。

前者を「わしが育てた」と主張するのは簡単ですが、どう自分に甘く採点しても自分が出来たことは「きっかけ作り」に過ぎず、自分がステータスアップさせてあげられたわけではない。

ドラクエで言えば、武器を用意してモンスターを倒す環境は整えてあげられたけど、レベルアップさせてあげられたわけではない。

 

一方、武器を用意して、「装備しないと意味はないぜ」と教えてあげても、結局アリアハンからいつまで経っても出ていってくれない人もいる。

となると、上司が能動的に出来る「育成」ってどうやら制限範囲がありそうだ、と思ったわけです。

 

「自発的に学んで能力を引き上げていく人は自分で勝手に育っていくし、そうしない人を育てることは出来ない」

というのは、ある程度通説になりつつあるような気がします。

前者を手助けすることは出来るけれど、後者を「育てる」ことは非常に難しい。

 

先日、安達さんも「コーチングが機能するのはコーチ可能な人だけ」という話を書かれていましたよね。

世界一のコーチですら「素直じゃない人は放っておけばいい」と思っていた。

これまで私は漠然と「世界一のコーチなら、誰でもポジティブに変えられるのでは」と思っていた。

でも、全く逆だった。

「世界一のコーチは、コーチ可能な人物だけに支援を提供していた」のだ。

そういう意味で、「育成」を「部下の能力を能動的に引き上げること」だと思っていたのは、どうも私の誤解だったっぽいなあ、と考えるようになった、という話がまず一つあります。

 

***

 

ただ、そしたら「上司の指導」って何の為にあるんだろう?

自分で学べる人のきっかけ作りが出来る、というのはまあいい。

けど、なかなか自分で学んでくれない人に対して、上司が出来る「育成」って何かないんだろうか?

 

これについても色々と試行錯誤してみまして。

現在のところの結論はこうです。

 

「育てる」という考え方じゃなくて、「行動パターンをちょっとだけ変容させてあげる」という方向にポイントを絞れば、どうもうまくいくこともあるっぽいぞ、と。

 

先日、こんなまとめを拝読しました。

「仕事が上手じゃない人」の多くに共通点があると感じている。それは、「取り掛かりが遅い」。とにかくこれに尽きる。

「仕事が上手じゃない人」について、「とにかく着手が遅い」という形で定義する話ですね。

割と納得感をもって読まれた人も多いのではないでしょうか。

 

これですね、もちろんケースバイケースでして、人にもよれば職場にも仕事にもよるので、一言で「こうすれば解決するよ」なんて方策はないんですよ。

ある人に刺さったやり方が他の人にも刺さる保証なんてどこにもありませんし、こちらのまとめの方だって通り一遍の方策はやられていると思います。

 

ただ、ひとつ一般的に言えることとして、「タスクを片付ける」という行動に移る前には「片付けるべきタスクをターゲッティングする」という工程が必ず必要であって、そこで精神力を使ってしまって着手が遅くなってしまう人は結構な数いる、という事実があります。

「複数タスクが見えていて、しかも着手順がもやっとしている」という状態だと、まずそれを整理する段階でハードルが高くって、到底着手までいけない、という人は全然珍しくないんですよね。

 

皆さんも経験ありません?

やること自体は明確なんだけど、複数タスクが並んでいると、「まずどれから着手するか」ということから考えてしまって、なかなか着手出来ないこと。

これ、上司からちゃんと優先順指示されてても、「次のタスク」が気になって心理的ハードルが上がっちゃうことってあるんですよ。

 

まして、タスクの優先順とそのゴール地点自体が不明瞭だったりすると、着手のハードルは天井知らずに跳ね上がります。

「あー」とか「うー」とか言いながらモニターの前で思わずネットサーフィンを始めちゃうこと、ありますよね。

 

しかもこれ、割と人間の根源的な問題なんで、改善ってすごーく難しいんですよ。

上司や周囲がいくら叱っても、直らないもんは直らないんです。

「他者による能動的な改善」が非常に難しい部分なんです。

 

で、私の部下にもそういう人いまして、とにかく「まずタスクを開始出来るまでがやたら遅い」という問題があったんで、普通にある時こう言ったんですよ。

「ブラウザのスタート画面をredmineのカスタムクエリにしましょう」って。

 

redmineって有名なタスク管理ツールなんですけど、とにかく融通が利くツールでして、管理権限やら表示方法も自由にカスタマイズできるし、自分でプラグインを作ったりも出来るんですよ。

で、まずタスク優先度を工夫して、最優先のタスクは常に一つしか存在しないようにして、疑似的にシングルタスクの状態を作る。

 

もちろん、タスクの粒度は出来るだけ細かくしてあげる。

で、カスタムクエリで、常にそのチケットだけが表示される状態の画面を作る。

 

更にそれをブラウザのスタートページにすることで、「朝きて、取り敢えずブラウザを立ち上げるだけで、「とにかくお前はこれをやれ」というタスクが否応なく目に入るようにする」。

 

その人の場合、これで「タスクの着手自体は割とサクっと出来る」という状態にもっていけたんです。

 

いや、たまたま刺さっただけのちょっとした例ですよ?

繰り返しになりますが、刺さる方法なんて人によって違うんで、これで誰でもタスク着手が速くなる、なんていうつもりはありません。

 

ただ、「あまり仕事が上手に出来なかった人」の行動を、インフラ整備の力でちょっとだけ変容させられたということは事実でして、これと似たようなことをひたすら繰り返すことで、その人が問題なく自発的にタスクを回せるところまではもっていけたんです。

 

その人の処理能力を上げられたかっていうと、多分実際そんなことは全然ないんですが。

インフラ整備によってちょっとした行動パターンの変容を起こして、タスク処理状況を改善出来た。

そういうちょっとした成功例です。

 

***

 

ここから、私は自分にとっての教訓を二つ抽出しています。

 

・「部下の能力を上げたい」なんて思うな。ただ、「部下の行動パターンで、変容させてあげるとよさそうなところはないか」ということは常に考えて損はない

・インフラに頼れ。最強の行動パターン変容は、「自然にしてると勝手にそうなる」というインフラ整備

 

ちょっとした行動パターンの改善なら、上司としてさせてあげられる場合もある。

で、それが積み重なると、出来なかった人のタスク処理状況を多少は改善させられることもある。

もしかすると、「育成」ってそういうことの積み重ねなのかもなあ、と。

 

そんな風に考えた次第なのです。

 

今日書きたいことはそれくらいです。

 

 

 

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【著者プロフィール】

著者名:しんざき

SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。

レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロゲーム、漫画、駄菓子、育児、ダライアス外伝などについて書き綴る日々を送る。好きな敵ボスはシャコ。

ブログ:不倒城

 

Photo:Trevor Butcher