今から、「部下の給料をどう上げるか」ということから色んなことを逆算して考えるようにしたら上手い具合に仕事が回るようになった、という話をします。

 

昔在籍していた会社での話なのですが、当時お世話になっていた上司の、印象に残っている言葉の中に「部下の給料を上げることこそ上司の最大の仕事だ」というものがあります。

酒の席で、一人で勝手にがばがば飲んでは勝手に潰れる人だったんですけど、その際ちょくちょく聞きました。多分口癖だったんだと思います。

 

正直言いますと、私、当時はあんまりこの言葉にいい印象がなかったんですよ。

 

まあそりゃ給料が上がるのはありがたい話だけど、実際頑張って成果を出して給料上げるのは部下である自分自身だし、それを「上司の仕事」なんて言われてもなあ、と。

まるで「お前の給料が上がったらそれは上司の手柄」みたいなニュアンスじゃないかな、とか、給料が上がったら上司に感謝しろよ、と言われているかのような、うがった受け取り方をしてしまっていたんです。

 

ところが、いざ自分が上司の立場になってみると、あれ結構含蓄がある言葉というか、むしろ

「上司にとっての仕事術」

みたいなものを一面で構成していたな、と思うようになりまして。

 

つまり、「給料が上がったら俺のおかげだから感謝しろよ」なんて短絡的な意味ではなく、「上司になったらこういう風に考えて仕事をすると上手くいくよ」という一種のライフハックだったかもなあ、と。

これについては本当、昔の自分の了見が狭かったなーと、当時の上司に申し訳なく思う他ないわけなのです。

 

***

 

まず、当たり前の話なのですが、多くの「上司」に当たるであろう中間管理職は、「部下の給与を決める」権限を自分では持っていません。

会社の規模や体制にもよりますが、大体の場合、自分よりもっと上の経営層やマネジメント層に成果を報告して、それをもって自分を含めたチーム全体の評価をしてもらい、結果的にそれが部下の昇給にも繋がる、ということが殆どでしょう。

 

で、同じく当然のことながら、部下を評価して「この人はこんなに頑張ったので給料上げてください」と上に交渉する為には、それ相応の成果を、しかも経営層に対して説得力のある形で提示しなくてはいけません。

つまり、部下に手柄を立てさせなくてはいけないし、それを上が納得出来る方法でアピールしなくてはいけない。

「この人にはこんなに存在価値があるのだから、給料上げてでもちゃんと会社に定着してもらわないといけないぞ!!」と経営層に思わせなくてはいけないわけです。

 

部下の存在価値をどう上げるか。

もちろん会社の評価制度や評価基準がどうなっているかにもよるのですが、一般的に、「タスクを上手くこなせました」というだけだと、なかなか評価には繋がりにくかったりするんですよ。

ただ「期待通りの役割を果たした」だけではなく、なにかプラスアルファの成果があった方が、明らかに給与は上がりやすいんです。

 

どんな時に評価が上がりやすいか、どんな成果が経営層に受けがいいかというと、代表格は「こんな新しいことが出来るようになりました」「組織上の動きに改善があって、よりスムーズに動けるようになりました」というようなことですよね。

 

つまり、「部下に出来ることが増えた」「それによってチームがより上手く動くようになった」というのが、一番経営層にも分かりやすいし、なにより受けが良い。

これってまさに、「上司が行うべき仕事」そのものであって、そこにピントを合わせる為に「部下の給料を上げるにはどうすればいいのか」という思考アプローチが一番適切だ、という話なんです。

 

ここをスタート地点に仕事の仕方を考えると何が起きるかというと、例えば

・自分が抱えていたタスクは、可能な限り部下に割り振らなくてはいけない
・スキルトランスファーの方法についても考えなくてはいけない
・タスクの回し方にまずいところがあればそれを改善させなくてはいけない
・部下の動きとチームの動きのスムーズな連結について考えなくてはいけない

というような課題が次々発生する訳です。

 

まず第一に、「仕事の属人化」って組織の癌なので、可能な限り「ある人にしか出来ない仕事」って減らさないといけないんですよ。

これは対象が部下だろうが上司だろうが同じことで、権限上その人にしか出来ない仕事ならいざという時に権限移譲出来るような仕組みを作らないといけないし、能力上その人にしか出来ない仕事ならスキルトランスファーを考えないといけない。

 

で、プレイングマネージャーにはよくある話なんですが、「一番仕事を抱えているのが上司である自分」とか凄くあるあるな話なんですよね。

頭では「部下に振らないといけない」と分かってはいるのに、結局「教える方が時間コストがかかるから」とか「自分でやった方が速いから」とかで、いつまでもずるずると仕事を抱え込んでしまう。

そういうの、どんな組織のどんな上司でもよくある話です。

 

けれど、ここで「部下の給与を上げる」というスタート地点に立ち返ってみるとどうなるかというと、「上司の仕事を自分でも引き受けられるようになった」「結果、組織の属人化を解消出来た」なんて、「評価を上げる為のアピールポイント」としてこれ以上ないくらい的確なものなんですよ。

 

実際「部下に割り当てられるちょうどいい、しかも新しいタスク」なんてそうそう湧いて出るものでもなし、となれば「自分が抱え込んでいる仕事」なんて部下に成果を挙げさせる為の最適ターゲットでしかないんですよね。

がしがしメタルスライムを倒させてレベルを上げてもらいましょう、ってなもんです。

 

しかもこれが上手くいくと、今度は自分が「部下のした仕事のチェック」側に回れるので、今まで自分一人しか出来なくてチェック体制もなかったタスクに、きちんとしたバックアップつきのチェック体制まで構築出来るし、自分はそれ以外の仕事に時間を使えるようになり、なんなら自分の価値も向上させられると。いいことづくめですよね。

 

で、この為には当然「じゃあどうすれば自分の仕事を渡せるか」という話と、「部下のタスクの回し方で自分のタスクには対処できるか」という副産物がついてきます。

つまり、スキルトランスファーのやり方と、部下のタスク対応の改善を考えることになる。

 

全く新しいタスクを引き受ける時って、その人の処理能力を非常にダイレクトに要求するんですよね。

その人の処理能力を直接引き上げることは(大抵の上司には)出来ないけれど、インフラや行動改善からタスク処理効率を引き上げることは出来る。結果、これが部下の「成長」にも繋がる。

 

手前みそなんですが、以前こんな記事を書きました。

「部下を育てる」ことを「部下の能力を上げる」ことだと勘違いしていた、という話

これ、「部下の能力を上げる」ことなんて基本的には出来ないけれど、ただちょっとした行動変容を起こさせることで、あたかも能力が上がったかのような効果を出すことは出来る、という話ですよね。

これも、「部下に成果をあげてもらうにはどうすればいいか」というのがスタート地点になっていて、その上で「タスクの回し方」にスコープした、という話だったんです。

 

そして、「部下の成果を組織の成果にどう直結させるか」という課題も出てきます。

上で書いたように、経営層が一番興味を持つのは個人の働きというよりは組織の働きなので、「部下の働きによって組織自体もうまく動くようになりました」というのが一番喜ばれるんですね。

出来れば「彼/彼女のおかげでチームの成果がこんなにアップ!」という形で報告したい。

 

ただ、これは組織論というかチームビルディングの話になるんですが、「個人の働き」を「チームの成果」に直結させる為には、それなりに色んなことを考えないといけないんです。

単に一人が頑張って一人分の成果が出ただけだと、いまひとつアピールが弱い。

そこに組織の力というレバレッジをかけたい。

 

例えば、現在はAさんとBさんは全く独立した形でしかタスクが出来ていないけれど、二人をパッケージにして役割分担をしてもらった方が成果は挙がり易いんじゃないか、とか。

そもそもタスクの切り方を改めて、AさんとBさんのタスクを連続した処理に出来ないかとか。

ここを起点に、「チームのあり方」自体についても大きくメスを入れることになったりするんですよ。

 

部下が成果をあげやすい形にする為に、適切なチームのあり方についてまで考える。

これも上役がやるべき仕事ですよね。

正直、「部下の給与を上げる」っていう発想になる以前はそこまで端的に考えられていなかったので、その点でもこの考え方にはお世話になっているなあ、って話なんです。

 

***

 

上記は飽くまで一例なんですが、「部下の給与を上げる」という端的なセンテンスが、実は上司のやるべき仕事に直結している、ということは割と一般的に言えるのではないかと思います。

実際、端的に「自分の価値以上に部下の価値を高めなくてはいけない(それが結果的に自分の価値向上にも繋がる)」なんてことは、どんな組織でも同じなんですよね。

 

これは経験則なんですが、タスクを整理するにも、切り分けるにも、新しいやり方を考えるにも、「そのタスクの意味」「最終的な目的」というものがスコープに入っているのといないのとでは、効率が全く変わります。

「そのタスクが何のためにあるのか」ということを理解していると、方策にも改善にも背骨がきちんと通って、その有効性も上がります。

タスクの存在意義を要約するのって思ったより大事なんですよね。

 

だから、「上司のやるべきこと」の最終目標を「部下の給料を上げること」という一言に要約してみせたかつての私の上司の言葉は、実際には物凄く的確だったな、と、今の私は思うようになった、という話なのです。

 

部下の給料を上げることこそ、上司の最大の仕事。

この言葉を金言として、私自身部下を持つ身として、じゃんじゃん給料を上げてもらう為に会社と交渉する日々なわけです。

 

デフレ解消の為にも、皆さんの給与がざくざく上がりまくることを祈念してやみません。

 

今日書きたいことはそれくらいです。

 

 

【お知らせ】
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第4回目のお知らせ。


<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>

第4回テーマ 地方創生×教育

2025年ティネクトでは地方創生に関する話題提供を目的として、トークイベントを定期的に開催しています。

地方創生に関心のある企業や個人を対象に、実際の成功事例を深掘りし、地方創生の可能性や具体的なプロセスを語る番組。リスナーが自身の事業や取り組みに活かせるヒントを提供します。

【日時】 2025年6月25日(水曜日)19:00–21:00
【ご視聴方法】
ティネクト本音オンラインラジオ会員登録ページよりご登録ください。ご登録後に視聴リンクをお送りいたします。
当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。

【ゲスト】
森山正明(もりやま まさあき)
東京都府中市出身、中央大学文学部国史学科卒業。大学生の娘と息子をもつ二児の父。大学卒業後バックパッカーとして世界各地を巡り、その後、北京・香港・シンガポールにて20年間にわたり教育事業に携わる。シンガポールでは約3,000人規模の教育コミュニティを運営。
帰国後は東京、京都を経て、現在は北海道の小規模自治体に在住。2024年7月より同自治体の教育委員会で地域プロジェクトマネージャーを務め、2025年4月からは主幹兼指導主事として教育行政のマネジメントを担当。小規模自治体ならではの特性を活かし、日本の未来教育を見据えた挑戦を続けている。
教育活動家として日本各地の地域コミュニティとも幅広く連携。写真家、動画クリエイター、ライター、ドローンパイロット、ラジオパーソナリティなど多彩な顔を持つ。X(旧Twitter)のフォロワーは約24,000人、Google Mapsローカルガイドレベル10(投稿写真の総ビュー数は7億回以上)。

【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
ご視聴登録は こちらのリンク からお願いします。

(2025/6/16更新)

 

 

 

【著者プロフィール】

著者名:しんざき

SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。

レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロゲーム、漫画、駄菓子、育児、ダライアス外伝などについて書き綴る日々を送る。好きな敵ボスはシャコ。

ブログ:不倒城

Photo by Medienstürmer