少し以前のことだが、あるベンチャー企業のドキュメンタリーをみていた時のことだ。

その会社では、社運を賭け画期的な生活家電の製造・販売に乗り出し、デパートの催事場で展示即売会を仕掛けるという。

出陣式のようなものまで開き、やる気みなぎるように見えるシーンには熱気を感じる。

 

しかしいざフタを開けてみれば、販売目標50台に対して売れたのはたったの10台。

営業部長以下、社員全員が意気消沈してしまい、社に戻るとさっそく反省会を始めることにした。

 

そしてその際、社員たちから出てきた反省の言葉は要旨、以下のようなものだった。

「お客様から質問をして頂いても、ほとんど答えることができなかった」

「新機能をどのように使うのかなど、生活に即したアドバイスができなかった」

 

表現はそれぞれだが、社員たちの言葉は製品を理解していないために売れなかった、という趣旨のものだった。

それらの言葉を受け、営業部長は居合わせた社長に対しこう報告する。

「製品に対する知識不足・勉強不足が原因で、目標を達成できませんでした」

 

すると、議論を黙って聞いていた社長はひとこと、静かにこう問いかける。

「この中で、この製品を実際に家に持ち帰って使ったことがあるものは?」

 

場が凍りつき、全員が下を向く。予想通りではあるが、誰一人として手を挙げない。

社長が言いたいのは要するに、それだけ稚拙極まりない敗因であり、原因分析ということなのだろう。

 

確かに、自分たちが売ろうとする製品に対する勉強不足は、お客様に不誠実というものだ。

一度も使わないままお客様にお勧めしても、「言葉はナマモノ」なので、売れなくて当然である。

その事実それだけを取り出したら、社員たちの怠慢は非難されるべきかも知れない。

 

しかしこのやり取りを見ていた私には、

(いやいや・・・どう考えても社長の方がおかしいだろう)

としか思えなかった。それはなぜか。

 

ありふれた兄ちゃんで職人集団を破れるか

話は変わるが、なぜ日本は第二次世界大戦で敗れたのかと聞かれたら、どのように答えるだろう。

「航空機が主力の時代に、大艦巨砲主義にこだわったから」

「物量に勝るアメリカにそもそも勝てるわけがなかったから」

多くの人は、きっとこんなふうに答えるのではないだろうか。

40代以上の世代であれば子どもの頃、学校で繰り返し聞かされたのはそんな“教育”だったはずだ。

 

しかしこの昭和時代の教育は、一面において正しくない。

実際に日本は、1941年12月の開戦から1942年6月のミッドウェー海戦までの半年間、米英軍を一方的に破り続けている。

ゼロ戦を始めとした航空機の練度・運用は連合軍を圧倒し、「これからの戦争は航空機で決まる」というパラダイムシフトを世界に引き起こしたのは、むしろ日本だった。

 

ではなぜ、そんな”先駆者”として成功した日本は、わずか半年で戦争の主導権を失い惨敗したのか。

結論から言うと、米軍はあの大戦で戦争というものを、それまでとは全く別の物に変質させてしまったことが大きい。

すなわち“戦場のシステム化”であり、“戦闘の作業化”である。

 

開戦当初、日本の航空戦力に敗戦を重ねていた米軍はすぐに、従来の戦い方で日本軍に立ち向かうことを禁止する。

そしてすぐに、速さに勝る新しい戦闘機を投入し「すれ違いざまに撃って逃げる」という戦い方を採用した。

 

ゼロ戦の強みは、相手の後ろを取って機銃で撃ち落とす「格闘戦」だったが、速度に勝る相手がすれ違いざまに撃って逃げるのであれば、戦いようがない。

なおかつ米軍はこの新型戦闘機を、エンジンパワーにものを言わせ、敵弾が命中しても簡単に墜ちない重厚な防弾仕様に仕上げてしまっていた。

 

つまりゼロ戦からすれば、追いかけても追いつけない相手から一方的に“撃ち逃げ”され、しかも相手に命中しても敵はビクともしないのである。

これでは、格闘戦で数々の戦功を挙げてきたエースパイロットも次々に撃破されて当然だろう。

 

同じようなことは陸上戦闘でも起こっている。

日本の進撃は南太平洋のガダルカナル島で止められたが、ここは太平洋戦争屈指の激戦地の一つだ。

そしてこの島で日本軍は、病死を含む5,000名以上の餓死者を出しているが、米軍はたった一人の餓死者も出していない。

 

現代の常識から考えれば当然だろうが、米軍は戦闘を行う際、互いの戦力、予想される戦闘期間、相手の装備などから考えて十分な戦力・資材を予め見積もってから局地戦を仕掛けた。

さらに米軍は、この最前線の戦場でも「交代制で勤務」し、日曜日にはアイス片手にテニスに興じる姿を日本軍が目撃しているほどだ。

 

つまり米軍にとって戦争とは、まるで工場で工業製品をつくるような「事業」になっていたということだ。

アウトプット(目的)から逆算し、正確な見積もりをもとに工程表を示し、その上で「従業員が働きやすい職場づくり」をしていたと言い換えてもいいかも知れない。

 

これを、「だからアメリカは物量で圧倒していたから、それができたんでしょ?」と思われるかも知れないが、違う。

アメリカは移民の国であり、軍に入るものは「他で働けなかった食い詰めもの」というのが、この時代の常識だった。

 

言い換えれば、読み書きもまともにできない新入りに武器をもたせ、戦力化する必要があったということだ。

戦闘機も「ありふれた兄ちゃん」を育成・量産して日本軍の熟練パイロットを破る必要があり、「難しいことを要求しない(できない)」という設計思想があった。

 

だから、撃たれても墜ちない戦闘機で撃ち逃げする、という作戦が生まれた。

いわば戦闘を「誰にでもできる簡単なお仕事」にしたということだ。

日本軍のように、勘と経験で育てるパイロットと、それを前提にした兵器の開発・運用とは、対局の思想である。

結果として米軍は、いくらでも簡単に兵士を量産できたからこそ、豊富な物量を最大限に活かして日本を圧倒することができた。

 

この米軍の戦い方の教訓は、

・個人の頑張りや能力をアテにした計画を立てない

・できないことを「やれ」などというバカな命令をしない

・目標を達成できる仕組みややり方は、組織が提供する

というものだ。

つまり“戦場のシステム化”であり、“戦闘の作業化”である。

 

日本に先駆け工業大国化していたアメリカでは、ある意味で当然のように行き着いた考え方だったのだろう。

多くのリーダーたちにこのような「組織化」の素養があったことが、米国の勝因であり、日本の敗因の一つになったと言っていい。

そしてこのようなリーダー層の「教養の差」は、残念ながら現代にも、色濃く引き継がれている。

 

「社員ならやって当然」の仕事など存在しない

話は冒頭の、家電ベンチャーについてだ。

「この中で、この製品を実際に家に持ち帰って使ったことがあるものは?」

と社員に問いかけた社長が、なぜおかしいのか。

 

社員の立場からすれば、そんなことをいきなり経営トップから詰められても、

「え?新製品を販売前に持ち帰ってもいいんですか?」

と、キョトンとしただろう。

「なんで家にまで、仕事を持ち帰らなければならないんですか?」

と感じた社員すら、いるかもしれない。

 

このイベントで同社の製品が売れなかった原因は、「お客様の立場になって、新製品を理解する」という当然の手順を、誰も実行しなかったことにある。

そしてその元凶は100%、経営者やリーダーが「新製品販売までの必要な工程を示していなかったこと」であり、それ以外のなにものでもない。

 

それを後になって、「製品を実際に体験し理解する工程が抜けているじゃないか」と社員を問い詰めても、理不尽というものだ。

経営トップに「言われなくても、やって当たり前の仕事」という発想がある限り、同じような失敗を何度でも繰り返すだろう。

 

工場で生産管理あたりの仕事を経験すれば嫌ほどわかるが、人は「楽と感じる方法」しか選ばないことを前提に、仕組みを作らなければならない。

工具は元に戻さないし、遠くにある開封済みの部材ではなく、手元にある未開封の部材からかならず使うものだ。

与えられた環境を不便と感じたら、便利で楽と感じる仕組みとやり方を我流で作り上げて当然である。

 

だからコンビニでは、飲み物の倉庫が冷蔵庫の裏手にある。

「先入れ先出し」が従業員にとって最高に便利と感じられるように、頭で考えなくても仕事が流れるよう仕組み化しているからだ。

 

そして儲かっている会社の多くは、このような発想で仕事を仕組み化している。

逆に言えば、それさえできればどんな会社でも、競争相手に先んじることは難しくないということだ。

それこそ、米軍が日本軍を圧倒したように。

 

もし「言われなくても、やって当たり前の仕事」に腹を立てたことがあるのなら、自問して欲しい。

それは本当に、やって当然なのか。

「勝てる方法とやり方」を、リーダーとして示す責任を本当に果たしたのか。

 

断言できるが、部下の失敗は100%、リーダーに原因がある。

 

 

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【プロフィール】

桃野泰徳

大学卒業後、大和證券に勤務。中堅メーカーなどでCFOを歴任し独立。

家の近くにドラッグコスモスがあるのですが、

「従業員の方は、6番業務をお願いします」

という店内放送がとても気になります。

なにかの隠語で警戒されているのかと、考えすぎてしまいます(泣)

過ぎたるは猶及ばざるが如し・・・。twitter@momono_tinect

fecebook桃野泰徳

Photo by Museums Victoria