秋篠宮眞子内親王が小室圭さんと結婚し、小室眞子さんになった。

 

小室さんはフォーダム大学で奨学金を受給し、論文で優勝するほど優秀だそうだ。

しかし結婚前から、「NY州の弁護士1年目の平均年収は2000万円以上だが、物価が高く十分とはいえない」「厳しい競争社会でクビになる人も多い」など、NYの厳しい現実がさかんに報じられていた。

 

10月29日のNY州司法試験で彼の不合格がわかると、その勢いは加速。

年収600万円程度の助手として働くらしいから、いろんな意見が出るのも当然だろう。

 

とはいえこの結婚について、ここで個人的にどうこう言うつもりはない。

ただ、こういった一連の報道やコメントにおいて、小室さんが日本人、つまりアメリカにおいて「外国人」であることに触れられないのは疑問である。

 

小室さんはインターナショナルスクールに通い、留学もしていたというから、英語は堪能なのだろう。

しかしそれでも、「外国人」であることに変わりはない。

あまり触れているメディアがないので、それについてちょっと書きたいと思う。

 

世界中から集まる外国人たちとの椅子の取り合い

あらかじめ断っておくと、わたしはドイツ在住で、アメリカの事情には詳しくない。

ただ、「アメリカで弁護士として働く」ことについてのさまざまな報道を見るなかで、「なぜ小室さんが『外国人』であることに触れないんだろう?」と疑問に思ったのだ。

 

NYの弁護士の年収も、司法試験の合格率も、すべて「現地の人」が基準。

外国人である小室さんは、またちがう状況なんじゃないか?

 

もちろん、現地人であろうと外国人であろうと、同じ試験を受け、同じ資格を得ることができる。

しかし就職や年収の話になると、現地の人と外国人をまったく同じ土俵で語るのは、無理があると思うのだ。

 

まず、どの企業であっても、外国人が入り込める枠の数はある程度決まっている。

現地人相手のオフィスにおいて、ネイティブスピーカーがゼロというのはありえないからだ(イタリアンレストランや中国人専門ビザサポートサービスなどだったら別だけど)。

その枠をめぐって、世界各国から集まる優秀な外国人たちとの椅子取りゲームに勝たなきゃいけない。

 

わたしが留学中に出会った人のなかには、「一人っ子政策で両親祖父母の期待と投資を一身に受けたから」と猛勉強する中国人や、各国を渡り歩いて植物の研究をしているオーストラリア人学者、インド最高峰の大学を卒業し特待生で迎えられたインド人などがいた。

 

弁護士にかぎらず、専門的知識や経験が必要な分野では、それだけ「ハイスペックエキスパート」が集まってくる。

自国ですでに専門家として働いてから移住してくる人もいるし、ネイティブスピーカーでもむずかしい現地試験に一発合格する人だっている。

 

「母国から支援を受けているからなにがなんでも成功しなきゃいけない」

「自国の家族に仕送りをしたいからどんなにつらい仕事でも稼げればいい」

という、並々ならぬ覚悟で来ている人だって少なくない。

 

「英語ができればいけるでしょ?」と思うかもしれないが、みんな英語なんてもれなくネイティブレベルで、なんならマルチリンガルも当たり前、という世界である(第3外国語を学ぶ目的でドイツを選んでいる人も多かった)。

 

そんな外国人たちと、かぎられた椅子を奪い合うのが、「外国人専門職」の大きな壁なのだ。

そしてスペックで太刀打ちできないとなると、あとは「賃金の値下げ」で勝負しなくてはいけないのが現実である。

 

外国人は現地の人よりちょっと上でやっと「トントン」

で、そういう外国人たちと競り合ってやっと席を獲得したとしても、次に待っているのは「現地人との戦い」というさらなる苦難だ。

 

たとえば弁護士資格のように、「資格を取れば安泰」に思えるものだとしても、実は「資格をとってはじめてほかの現地人と同じ土俵に立てる」程度の意味しかない。

これはわたしがドイツで就活したときに痛感したのだけど、「日本人のなかでドイツ語がうまい」というのは、「ドイツ人」のなかに入った瞬間、強みでもなんでもなくなる。

 

「日本人がNYで司法試験に合格」と聞くと「すごいこと」に思えるけど、よく考えたらまわりの現地人はみんなその資格もってるわけで、なんら特別なことではないのだ。

そのくせ、資格を取るのは言語的にもカルチャーギャップ的にも外国人の方が圧倒的に不利なのだから、大変である。

 

そうやってなんとか資格を取ってスペック的に現地人と並べるようになっても、次は「現地人と外国人、同じスペックならあなたはどっちにお金を払いたい?」という現実を突きつけられる。

 

柄や実際の仕事ぶりは別として、同じお金を払うなら、客は、企業は、どちらを選ぶだろう?

……となると、多くの人は、現地人を選ぶ。

 

それを「差別」だと言う人がいるけど、「外国人だからイヤ」なのではなく「どうせなら現地人がいい」というのは、だれもがもつ素朴な感情だと思う。大きな声では言えないけどね。

 

外国人よりも言葉の齟齬が生まれる可能性が低いし、同じような一般常識やモラルを期待しやすいから。

現地人ならビザも不要だし、同じステータスの人がいればわざわざ外国人を採る理由はない。

アジア人をナチュラルに見下してる人だっているし。

 

だから外国人は、現地の人と「同じ」では足りなくて、「ちょっと優秀」くらいではじめて、同じ待遇で雇ってもらえるのだ。

大変だよね、資格を取って「並」になるのも、なったあとも。

 

最終的に日系企業で働く海外在住者

じゃあ外国人専門職が生き残るためにはどうするかというと、選択肢は3つある。

 

・現地人ステータスで働く

まわりに外国人がいないなか現地人と張り合い、現地人と肩を並べて働く

 

・外国人ステータスで働く
インターナショナル企業や国際部署のような外国人が多い環境で、外国人として働く

 

・日本人ステータスで働く
現地の日系企業や日本と取引したい現地企業などで、日本人として働く

 

就職難易度としては当然、現地人ステータス>外国人ステータス>日本人ステータスである(例外はいくらでもあるけども)。

 

現地人ステータスで働きたいなら、そもそも外国人なんてお呼びじゃないところに飛び込み、結果を出さなきゃいけない。

外国人ステータスで働きたいなら、世界各国から集まる優秀な外国人、もしくは低賃金でも喜んで働く外国人たちと競り合わなきゃいけない。

 

いずれにせよ、しんどいのは確実。

 

だから結局、現地の日本人相手や日本企業相手に商売する人が多いのだ。

いってしまえば、ドイツで日本人向けに記事を書いているわたしもそうだしね。

 

海外生活はやっぱりサバイバル

とまぁこんな感じで、「外国人」である以上、年収がどうこう、競争率がどうこうと、現地人基準で語ってもしかたがないのだ。

現地人と外国人じゃ、いろいろと条件がちがうから。

 

先日『海外在住者が、疲れて日本を恋しがる理由について。』という記事を書いたばかりだが、弁護士のような専門職であっても……いや、専門職だからこそ「外国人」というステータスは不利になりがちで、「成功する」ハードルが高い。

外国人は、ネイティブスピーカーの現地人にも、優秀なほかの外国人にも、どちらにも勝たなきゃいけないから。

 

わたしはドイツでメディア関連の仕事したかったけど、文章メディアにおいてノンネイティブのハンデは重すぎて断念。

その後ホテリエをめざしはしたけど、ドイツ語も英語もネイティブレベルを求められて挫折、ほかの面接でもドイツ流ビジネスマナーなんかを知らずに結局疲れてしまった。

 

そううまくはいかないのが海外生活なわけで、他人が「どれくらいの確率でうまくいくか」なんて推し量ってもしょうがないよなぁ、と思う。

しかも、現地人基準であればなおさら意味がない。

 

もちろん、そういった状況であっても、絶え間ない努力とまわりからの暖かい支援で生計を立て、現地で基盤を築き、成功している人だってたくさんいる。

すごいよね、尊敬するよ。

でも目立たないだけで、そのウラには、夢破れ、現実に打ちひしがれ、妥協して暮らしている人がたっくさんいるんだよなぁ。

 

というわけでわたしの結論は、「海外生活はやっぱりサバイバル」。

生き残れるかどうかはだれにも……本人にもわからないのである。

 

 

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安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
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(2025/6/2更新)

 

 

 

【著者プロフィール】

名前:雨宮紫苑

91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&写真撮影もやってます。

ハロプロとアニメが好きだけど、オタクっぽい呟きをするとフォロワーが減るのが最近の悩みです。

著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)

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Photo by Donald West