地下鉄に乗るために、プラットフォームで待っていると携帯が振動した。昨日最終選考を受けた企業からのメールである。「もしかしたら」と思い、彼はメールを開いた。
「残念ながら、今回はご希望に添いかねます。今後のご活躍をお祈りいたしております」
今回もダメだった。もう8月も終わるのに、未だに就職が決まっていない。
同じゼミやクラスの友人たちのほとんどはすでに就職が決まり、楽しそうに夏休みを謳歌しているのに、自分は足を棒にして企業を回っている。
「ちくしょう」
思わず悪態をついてしまった。「なんで、内定がもらえないんだろう」
両親は相変わらず、「頑張って、納得の行く会社に行きなさい」などというが、納得も何も、入って良いと言われた会社すら、まだ1社もないのだ。
なんでうまくいかないんだろう。たった8ヵ月前までは、「就職なんて、簡単さ」と思っていたのに。
地下鉄が来た。彼はそれに乗り込む。
「今日は大丈夫さ、しっかりと練習してきたから」、と彼は自分を勇気づける。
電車の中に人は少ない。まだ帰宅には早過ぎる時間だ。
かれは、昨日の最終選考のシーンを思い出した。
あの時、相手は社長だった。社長は面接が始まるや否や、
「なんでウチに応募したの?」と聞いてきた。
本音は「雇ってくれるならどこでも」なのだが、そう聞いて気分を害さない社長は少ないだろう、
無難に「御社の子供向け玩具事業に関わりたいと昔から思っていました。小さいころ、私にとっては御社の製品が大のお気に入りだったものですから。」と答えた。
社長はそれを聞き、「そうですか、それを言ってもらえるのはありがたいですが、もう玩具は今となっては落ち目でね、今の主力事業は保育園や幼稚園向けの遊具なんですよ。」
それを聞き、自分はうろたえてしまった。
当然その後、話はあまり盛り上がらず、結果として選考にもれてしまったというわけだ。
「遊具でもかまいません」というべきだったのか、それとも「玩具を盛り上げるために頑張ります」というべきだったのか。
いずれにせよ、「想定外」の回答に自分は弱い。なんで臨機応変に回答できないのか、自分が嫌になってしまう。
そんなことで悩んでいるうちに、いつのまにやら今日の面接がある会社に到着してしまった。
受付で相手に到着を告げ、面接の開始を待つ。
5分…10分…今日はずいぶんと待たされる。
「●●さん、お入りください」
と、突然自分の名前を呼ばれた。慌てて立ち上がり、受付の案内に従って部屋へと進む。
部屋には2名の面接官がいた。2人共ずいぶんと年配のようだ。
「掛けてください」と言われ、挨拶をして椅子に腰掛ける。
自己紹介を促され、いつもどおりの自己紹介を行うと、面接官は少し笑って、「ずいぶんと緊張しておられるようですね、少しリラックスしてください」と言う。
冗談じゃない、この状況でどうやってリラックスしろって言うんだ。
「恐れいります」と答え、少し座り直した。
面接官は少し手元の書類に目を落とし、言った。「この時期まで就職活動をしているのは大変だと思います。まわりの方はほとんど就職が決まっているのではないですか?」
余計なお世話だと思いつつ、「はい」と回答する。
「いつから就職活動をしていらっしゃるのですか?」
「1月からです」
「他社で内定をもらっていますか?」
「いえ」
と答えて、「しまった」と思った。ここは内定ゼロとは言うべきではなかったかもしれない。
「失礼な質問だとは思いますが、お許し下さい。なぜ、今まで内定がもらえなかったのでしょうか?ご自身でどう思われますか?」
「どう思ったか?ですか?」心臓がドキドキする。
「そうです」
そんなことがわかっていたら、とうの昔に内定をもらっている。面接官はなんでこんなことを聞くのか。なんだか腹が立ってきた。
「なんでそんなことを聞くんですか。どうせ私はコミュニケーション能力が低くて、満足に話もできない人間です。正直言うと、もうどこでもいいから、雇ってくれた会社で頑張ろうと思っています。というか、それしか私に道はありません。」
…面接官が沈黙している。しまった、やってしまった。
「…取り乱して、申し訳ありませんでした。」
「いえ、大丈夫です。何か我々に質問はありますか?」
「いえ、特にはないですが…、一つだけ教えて下さい」
「何でしょう?」
「どうすれば、内定がもらえますか?」
面接官が笑い出した。
「そうですね、やる気があれば歓迎ですよ」
2日後、この会社から内定をもらった。
なぜ、内定がもらえたのか未だにわからないが、感謝している。
…と言う話を、先日ある学生から聞いた。
就職活動って、結局「縁」なんだなあ。
学生の皆さん、最後まで頑張ってください。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)