株価は上昇し、円安となってアベノミクスの目論見は成功したと言えるが、どうやら景気は良くないらしい。
高いのは株だけ?景気は「よくない」 経済指標が示す、景気失速の証拠
”働き手の収入は、額面で見れば増えている。安倍晋三首相は昨年、経団連をはじめとする経済3団体のトップに対して、異例の賃上げ要請をした。
政府の強い“圧力”を受けた経営者たちは、重い腰を上げ、大手を中心に応じる企業が続出。7月の現金給与総額は36万9846円となり、前年同月を2.6%上回って、97年1月以来の高い伸び率を記録した。
それなのに、賃金アップの実感がないのは、モノの値段がそれ以上に上がっているからだ。
消費者物価指数は4月、前年同月比3.2%増で、バブル期以来の高い伸び率を示した。その後も7月まで3%台の伸びが続く。
その原因としては、4月に消費税率が引き上げられたこともあるが、安倍政権と日本銀行のもくろみ通りに円安が進み、輸入品の価格が上がっていることが大きい。”(東洋経済オンライン)
結局のところ、為替や株価は虚構に過ぎず、金融政策、財政政策で得られたものは「まやかし」だったということなのだろう。
実態として、「日本の企業が作る商品」が世界で売れないことには景気は良くなりようもない。そして、少々の円安程度では日本の商品は売れず、中国やその他の新興国とあまり変わらない商品しか作れていないということなのだろう。
貿易収支の推移を見ても、その裏付けが取れる。
”財務省が24日発表した2014年上半期(14年1~6月)の貿易統計速報(通関ベース)によると、輸出から輸入を差し引いた貿易収支は7兆5984億円の赤字となった。前年同期(4兆8125億円)を上回り、上半期としての赤字幅は過去最大を更新した。
火力発電用の液化天然ガス(LNG)の輸入が高水準で推移していることに加え、輸出の伸び悩みが響いた。”(時事ドットコム)
輸出は伸びず、輸入品の高騰ばかりが目立つ結果となった。円安となってもその効果は相殺されてしまうばかりか、むしろマイナスの方が大きいというわけだ。
もはや、われわれが考えているよりもはるかに日本企業は世界の中で力を失っている。これについては内閣府が詳しいレポートを出している。
内閣府は、「日本企業の収益性の低さの原因は、横並びで、製品差別化が出来ていないこと」と結論付ける。
”まず、製造業上場企業の個票データを用い、日本、アメリカ、ドイツの3か国について、ROAの分布から企業間の収益性の格差を確認しよう。
我が国企業のROAのばらつき(標準偏差)はアメリカやドイツと比べると非常に小さく、企業間の収益性の格差は小さい。その理由として、我が国企業のリスクテイク行動の消極性が考えられる。
横並び志向のために競争力のある企業が出現しにくくなっており、その結果、製品差別化が進まず企業間の収益性のばらつきが小さくなるとともに、平均的な収益性の水準が低くなっている(ローリスク・ローリターン)と考えられる。
他方、アメリカでは、日本と比較して、ハイリスク・ハイリターンを求める企業風土であるため、非価格競争力の高い革新的な新製品が生まれやすく、企業間の収益性に差が生じているものと考えられる。
我が国製造業のように企業間で似たような製品を生産している場合には、市場の寡占化も進みにくく、過当競争となり、収益性も低くなると考えられる。実際、日本、アメリカ、ドイツの製造業上場企業の個票データを用いて、売上高のハーシュマン・ハーフィンダール指数を計算して寡占度を比較すると、日本の指数は非常に小さく、市場の寡占度が低いことが分かる。
このように、我が国製造業の横並び志向が、抜本的な製品差別化を抑制し、利幅の薄いビジネスモデルに偏る傾向を生んでいると考えられる。”
なぜ景気が悪いのか。日本は尖った製品を作れなくなった。単にそれだけのことなのだ。このレポートの中には、「特に中小企業の状況がひどい」と合わせて述べられている。日本は中小企業が支えている、とは、もはや過去の話だ。
現場にいる一人ひとり、とくに中小企業の経営者と従業員が、本当に「生産性」を意識して働かない限り、この傾向は当分変わらないだろう。
「格差が広がっている」とされる背景には、生産性の低い中小企業と、世界でも戦える大企業の深刻な格差が見え隠れする。
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(文責-ティネクト株式会社 取締役 倉増京平)
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