以前、ある経営者に「キャリアの作り方」を聞いた。そして、彼が話してくれたことは、とても貴重なノウハウの一つとなった。
「キャリアの作り方、知ってるかい?」と、彼は私に聞いた。
その経営者は
「年寄りの言うことだけど、キャリアの作り方を年寄りから聞くのも、良いもんだよ」
と言った。
当時、私はひたすら出世を目指しがむしゃらに働いていた。だから、キャリアの作り方など、考えたこともなかった。こういう状態を、視野狭窄というのだろう。
そこで彼にこう答えた。
「考えたこともありません。」
彼は「知りたいかい?」と聞く。私は頷いた。
「仕事には、幾つかの節目がある。その節目は、おおまかに言うと28歳、34歳、そして40歳と50歳だ」
と彼は言った。
「そして、キャリアを考えることは、その年齢までに何をするのか、ということとほとんど同じなんだ。」
自分が歳をとることにたいして無頓着だった私は、
「年齢が大事なんですか?」
と彼に聞き返した。
「もちろん、年齢はあくまでも目安だよ。でもね「キャリアを作る」のには時間がかかる。自分がいつか、歳をとって無理ができなくなり、精神的に老けこんでしまうまでに、そんなに時間は長く残されていない。「いつまでも若くいられる」なんて、思わないほうがいい。」
「年齢」に注意を向けさせた人物は初めてだったので、私は強くこの話に興味を持った。
「そうかもしれません。だとすると、いつまでに何をすればいいのでしょう?」
「それがさきほど言った、28歳、34歳、そして40歳と50歳だよ。」
「詳しく教えて下さい。」
「そうだな、まず22歳で就職して、28歳までは6年ある、この間にやらなければいけないのは何か。」
「……仕事を覚えることですか?」
「違うな。仕事を覚えるなんて、最初の1年で十分だ。6年あったら、もっとできる。」
「むむむむ……。スキルをつける……?」
「スキル?6年程度で身につくスキルなんぞ、長期的には役に立たないよ。考えてみて欲しい、君は一体、上司から何を求められていると思う?」
「結果を出すことですか?」
「そう。そうだ。」
「28歳までに結果を出すことが大事、ということですか?」
「少し違うな。結果が出ることはさほど重要ではない。重要なのは「結果を残すために全力を尽くしたという経験」だよ。結果を出すためにあらゆる手段をこころみる、努力する。要するに28歳までに必要なのは仕事に対する姿勢を磨くことだ。」
「姿勢……ですか。」
「そうだ、斜に構えたり、ヘンに世の中をわかったように振る舞うのはまだ早い。28までに死力を尽くした経験を持つ人間と、そうでない人間では、仕事に対する態度が全くことなってくる。前者には輝かしいキャリアがまっている。だが後者には人に使われる人生が待つだけだ。」
「……お言葉ですが、精神論にも聞こえます。」
「精神論ではない、これは統計だよ。20代に頑張った人間は、成功する可能性が高い。もちろん働くだけが人生ではないから嫌なら別に無理しなくていいんだ。しかし、人よりも成功したいなら話は別だ。」
私は続きが聞きたくなった。
「34歳までは、どうすればいいのでしょう。」
「34歳は、28から更に6年後、ここまでに身につけるべきは「人と仕事する」という技術だ。」
「すいません、よくわかりません。」
「結果を出すだけなら、一人で頑張れば良い。ただ、世の中に大してインパクトのある仕事をしたいなら、人の力を借りなければ不可能だ。それくらいはわかるだろう。」
「はい。それはなんとなく。」
「では「どうしたら人に協力してもらえるか?」について、君はどの程度知っている?」
「……。正直さっぱりです。」
「そうだ、人について知らない人は、人と一緒に働けない。34までに「人とはどういう存在か。どのような価値観を持っているのか」そして「人の多様性」について学ぶことだ。できるだけ会社の外に出て、人と会って、一緒に働いてみなさい。どうしたら人がうごくか、自分がこの人と働きたいと思うか、それを知ることがあなたの人間性を深めることにつながるんだ。」
「なるほど……。」
「マネジメントというのは、その延長にあるに過ぎない。人について知らない人がいくらマネジメントのテクニックを学んでも、部下から軽蔑されるだけだよ。」
「そうかもしれません。」
思ったより時間はないようだ。自分に果たしてできるのだろうか。
「それでは40歳には?」
「34歳から6年でやるのは、「自分の再発見」だ。」
「……再発見?」
「私はいつも言っている。34歳までは、仕事を選り好みするな。選り好みする奴は奴はバカだ。逆に、34歳を過ぎたら、仕事を選り好みしない奴がバカだ。いつまでも弱点を克服できると思うな。もうお前はそう変われない。」
「……。」
「40歳までに、自分の活躍できる分野を見極めなさい。それができなければ、人生の後半を無駄に過ごすことになる。得意で、楽に成果が出せることに注力するんだ。そして、その分野で第一人者を目指す。」
人生を無駄にはしたくない。
「では、40歳を過ぎたら……?」
「40歳を過ぎたら、50歳までの10年間。これが最も楽しい時間だ。ここまで積み上げてきたのなら、君には専門分野も、人脈もあるだろう。好きなことをすれば良い。体力、気力、知力、経験ともに最も充実しているのが、40歳から50歳だ。」
「40歳からですか……。」
「もちろん、40というのは単なる目安にすぎない。35だろうが、25だろうが積み上げてきた人間は、人生を楽しむことができる。逆に、30、40でようやく気づく人もいる。でも、それでいて遅すぎる、ということにはならない。そこから積み上げればいいんだよ。」
「それは、少し勇気づけられます。」
「そうだな。それを先に言うべきだったかな。」
「50歳を超えたら…?」
「50歳からやるべきことは……」
「何でしょう?」
「多分君は、ビジネスに少し飽きているだろう。好きなら続ければいいが、もういい加減、少し疲れているはずだ。」
「そうかもしれませんね……。」
「50歳にもなると、「新しいこと」に対する感受性が低くなってくる。だから学び直さなきゃいけない。次の30年のために。」
「学び直す?」
「そう、学ぶことで人は穏やかに歳を重ねることができる。過去の成功や経験にとらわれて、若さにしがみつくこともなくなるだろう。実は50歳は新しいことを始めるのにすごく良い年齢だ。
働き始めて30年、でも50歳から余命も30年ある。もう一度何かできるんだ。そう考えるとちょっとワクワクしないかい?」
40を過ぎ、振り返るとその方の言ったことは、大体当たっていた。そして今、50歳が少し楽しみになってきている。
(文責-ティネクト株式会社 取締役 倉増京平)
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