池上彰の宗教がわかれば世界が見える (文春新書)米国に、「空飛ぶスパゲッティ・モンスター教」という宗教がある。どう考えてもフザけたネーミングの宗教だが、これは「冗談宗教」の一種であり、公教育に「インテリジェント・デザイン説」(何らかの高度な知性が、人間をデザインし、創造したとする説)を持ち込もうとした人々への批判だ。

 

 

その概要は以下の様なものである。

キリスト教を信奉する人々は、人間が猿から進化したとする「進化論」を認めず、科学的な根拠に欠ける「インテリジェント・デザイン説」を進化論と等しく公教育で教えるべきだとする圧力をカンザス州の教育委員会にかけ、法案を可決させようとした。

それに対し、オレゴン州立大学の卒業生だったボビー・ヘンダーソンは、自らのウェブサイトにおいて、「荒唐無稽なインテリジェント・デザイン説を公教育に持ち込むのなら、自分が主張する「空飛ぶスパゲッティ・モンスター」という存在が、人間を創造した、とも公教育で教えるべきだ、と公開質問状で主張した。

 

 

もちろん「空飛ぶスパゲッティ・モンスター」はジョークだが、「神が人間を創造した」ということも同程度の信ぴょう性しか持たない、という批判は一部のキリスト教徒にとっては許せないものであろう。

 

 

しかし、少し考えてみると「インテリジェント・デザイン説」を支持する人々を笑うことは出来ない。

なぜなら、私は「進化論」がいかにして科学的な検証を受け、根拠を有するかという知識を持っていない。単に「学校で教わった」であるとか、「本や図鑑で見た」というレベルに留まる。

 

従って、本来であれば「進化論」と「インテリジェント・デザイン」のどちらがより妥当性のある説なのかを、自分自身で確かめるべきであるところなのだが、それを怠り、単に「なんとなく進化論のほうが科学っぽい」と思い込んでいるだけなのかもしれない。

 

 

これは、ビジネスにおいても同じような話が存在する。

  • 企業は利潤を追求する(利潤動機)
  • ビジネスの成否は才能と努力による(運ではない)
  • ネットよりも対面営業が好まれる
  • ビジネスはコミュニケーション力が重要である
  • 人はお金で動かせる
  • 成長したければ「質」より「量」を追求しろ

などなど、幾つもの「宗教」が乱立しているのである。

 

社員全員が同じ「宗教」を信じているうちは皆幸せだが、そのうちに「異端」が出現し、会社は求心力を失う。

もちろん、全てが検証可能ではないし、「宗教」を信じるのも悪くない。しかし、「宗教」に頼りすぎるのも考えものである。「宗教」は非常に強い惰性を持つので、変化には対応しにくい。

 

進化論の祖であるダーウィンが秀逸なのは、「生き残るのは、最も強いものでおなく、最も賢いものでもなく、最も環境に対応して変化できる者である」と主張した点にある。「宗教」はほどほどに。